フランク・ロイドのブログ

フランク・ロイドの徒然

ミキと明彦 Ⅰ ●小倉のバー、Ⅱ ●海上

ミキと明彦 Ⅰ 、●小倉のバー

 なぜか、私は初めて来た小倉のバーで酒を飲んでいた。まだ、午後六時半である。小倉の繁華街の雑居ビルの二階。扉を開けると薄暗い店内。


 北九州の工業団地の工場担当者との打合せがあったのだ。海外展開で東南アジアに進出するのに、工場の建設の話を聞きたいというので、わざわざスリランカから出てきたのだ。


 スリランカのバンダラナイケ国際空港からシンガのチャンギ空港にトランジットして、シンガから北九州空港に降り立った。明後日は、同じ会社の大阪本社で再度打合せだ。帰り便は、関空からシンガ、スリランカという空路を考えていた。


 この旅程で、じゃあ、ホテルはどうするか?北九州で一泊するか、さっさと大阪に新幹線で移動して大阪で泊まるか?などと考えていた。うん?待てよ?北九州から大阪までフェリー便があるだろ?移動しながら宿泊もできるなんて一石二鳥じゃないか?


 バーは先客が一人しかいなかった。カウンターで飲んでいる女の子一人。


 私は、ミドルサイズのスーツケースを入り口の横において、彼女から二つ席を開けてカウンターに座った。ママが手持ち無沙汰でグラスを磨いていた。


「いらっしゃいませ」とママが声をかけてくる。

「ああ、こんばんわ」

「お客さん、お早いですね?出張か何か?」と聞かれる。

「ええ、海外から。スリランカという所に住んでいて、シンガ経由で来たんですよ。これから、大阪に飛んでまた打合せで、明々後日帰る予定なんですよ」と答える。


「あら、まあ、海外から?それは大変。こんな遠くまで」ママは黒いドレスを着ていた。三十路ぐらいだろうか?細身の小顔でスラッとしている。大阪に移動するのでなければちょっとお付き合いをしてもいいかな?という私の好みの女性。


「まあ、慣れてますからね。いつもアジアのドサ回りをしているもので、日本みたいな先進国に来るのは珍しいんですよ。え~っと、何をもらおうかな?」と酒棚を見回す。


 地方都市のバーにしては品揃いがいい。「グレンリベットがありますね。グレンリベットをトリプル、With Iceでいただけますか?」と言う。


「お客さん、トリプルですか?」

「そう、トリプル。呑兵衛なものですから、シングルとかダブルじゃあすぐなくなってしまって、薄まり方も速いでしょう?だから、いつもトリプル。珍しいですかね?」

「確かに合理的だわ。お代わりの回数も減りますもの。ハイ、わかりました、トリプル」と言った。


 円錐を二つ合わせたメジャーカップで、綺麗に球状に削った氷の入ったグラスに背の高い方の円錐に緑の瓶から注いだ。もう一回。


「ママさん、それじゃあ、フォーフィンガーじゃないか?」と私が言うと「遠路はるばる来られた旅人ですもの。ワンフィンガーは私のおまけ、サービスよ」と言って私にウィンクした。


 笑顔がキュートだ。このバーへの好感度が数段上がった。メニューを見て、ナッツとビーフジャーキーを注文した。


 ママは会話が上手。私のプライベートをうまく迂回して、でも、ちゃんと身の上を聞き出してくる。自分のプライバシーも小出しにしながら。若い頃はバックパッカーをして世界中を回っていたそうだ。それにも飽きて、実家のある小倉に落ち着いて、このバーの雇われをしているそうだ。年齢は「恥ずかしいけど、もうアラフォーなのよ」と言う。ママの名前を聞くと木村直美、月並みな名前よね、と答えた。

ミキと明彦 Ⅱ 、●海上

「運転手さん、第二ターミナルの手前でコンビニありますか?」

「新門司北一丁目のセブンイレブンがあるけど?」

「そこも寄って下さい。キャッシュ下ろさないと。ちょっと買い物も」

「ああ、そうだよね。わかった。出港時間は?」

「九時ですが・・・」

「じゃあ、今、七時五十五分だから、買い物は急いで下さい。時間があまりないよ」と言う。ギリギリかな?


 右隣のミキちゃんが運転手に気兼ねしてか、私に小声で耳打ちしてきた。「おじさん、現金下ろすって、何?私に気を使っているならいらないよ。船賃を奢ってもらっただけで十分だから。パパ活しているんじゃないんですからね」と言ってきた。


「ミキちゃん、違うよ。あのね、フェリーは海の上を航行するから、クレカが使えないらしいんだよ。だから、みんな現金決済。食事もドリンクもみんな現金が必要なんだよ。それと、お酒とつまみをコンビニで調達したいんだ。フェリーの売店は商品に限りがあるだろう?」と答えた。


「なんだ、そうだったんだ。わかった」

「ミキちゃん、スイーツとかも買っちゃおうね。制限時間、五分で済まそうよ。食事はビュッフェが使えるはずだから、おつまみとお酒。私はまず現金を下ろすからね。遠慮しないで何でも買ってね。船内のレストランは閉まっちゃうだろうから、夕食も買おう」


 運転手さんが道路右側のセブンイレブンに車をつけた。運転手さんに五分で戻ります、と言う。タクシーのドアが開くや二人でダッシュした。私はATMでまず十万円おろす。それから買い物かごを持って、グルっと店内を回った。ミキちゃんは、人差し指で陳列棚を指差して決めてから、どんどん籠に放り込んでいく。


 私は酒の棚でビールと酎ハイ、ワイン、スコッチ、日本酒を買った。それから、氷。カマンベールチーズを見つけた。夕食はどうしよう?寿司の二十貫パック、稲荷寿司の八貫入パック、鰻のパックも籠に放り込む。男の買物なんてこんなもんだよ。ミキちゃんが私を見ていった。「おじさん、終わったよ」と言う。彼女と私のと二つの籠をキャッシャーに並べた。


 キャッシャーの女の子が商品をリーダーで次々と読み取っていく。きのこの山、ティラミス、カカオ 90% チョコ、唐揚げ、おにぎり・・・え?0.01mm 時間遅延コンドーム、十個入り・・・


「ミキちゃん、あのさ・・・」

「おじさん、気にしないの。もしものためよ。なきゃ、困るでしょ?それにお互いの性病予防よ」とまたギョッとすることを言う。