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よこはま物語、ヒメと明彦9、良子・芳子と恵子編、ヒメと明彦 XXXXIII

よこはま物語
ヒメと明彦9、良子・芳子と恵子編

ヒメと明彦 XXXXIII
 1977年7月20日(水)
 ●後藤恵子 Ⅴ

登場人物

宮部明彦    :理系大学物理学科の1年生、横浜出身
仲里美姫    :明彦の高校同期の妹、横浜の女子校の3年生
高橋良子    :美姫の高校の同級生
生田さん    :明彦のアパートの大家、布団屋さん
坂下優子    :美姫と良子の同級生


張本芳子    :良子の小学校の同級生、大陸系中国人の娘、芳(ファン)
林田達夫    :中華街の大手中華料理屋の社長の長男
吉村刑事    :神奈川県警加賀町警察署所轄刑事
王さん     :H飯店のマネージャー/用心棒
徐永福     :王さんの部下
ジミー・周   :ファンの知り合いの客家のプータロー
後藤恵子    :神奈川県警加賀町警察署交通係、中国名、レイニー・ヤン(楊丞琳)
加藤慶彦    :神奈川県警加賀町警察署刑事課部長刑事、レイニーの愛人


小森雅子    :理系大学化学科の学生、美術部。京都出身、
         実家は和紙問屋、明彦の別れた恋人
吉田万里子   :理系大学化学科の1年生、雅子の後輩、美術部
内藤くん    :雅子の同期、美術部、万里子のBF
田中美佐子   :外資系サラリーマンの妻。哲学科出身


加藤恵美    :明彦の大学の近くの文系学生、心理学科専攻
杉田真理子   :明彦の大学の近くの文系学生、哲学専攻


森絵美     :文系大学心理学科の学生
島津洋子    :新潟出身の弁護士


清美      :明彦と同じ理系大学化学科の学生、美術部

 11977年7月20日(水)
 ●後藤恵子 Ⅴ

 朝までセックスした。粉は出なかった。永福がもう小便しかでないぜ、というので、永福のオシッコでもいいわ、私の中に出して、と言った。もう、そういうのはやらなくていいんだと言われた。普通のを忘れちゃったのよ。永福が普通のをこれから思い出させてくれたらいいわ。


 昼近くまで抱き合って眠った。シャワーを二人で浴びた。シャワーの水流の下、バックから犯してもらった。まだできるじゃない?


「レイニー、でかけよう」と言う。
「ハイ、あなた。でも、どこに?」
「そのテーブルの上の50万円で、指輪を買うんだろ?」
「本当にいいのね?」
「何度も言わすな。俺はお前にウソは言わない」


 タクシーで中華街まで戻った。宝石屋に行く。宝石屋で、永福が「50万円、ポッキリ。これで、彼女の婚約指輪と俺たちの結婚指輪を買う。おつりのないようにしてくれ」とおかしな注文をした。「全部、指輪に化けさせるんだ。悪かないだろ?」宝石屋がいろいろ見せてくれた。日本女性はプラチナだが、中華系はゴールドを選ぶ。何かあったらプラチナよりもすぐ換金できるからだ。それにプラチナより価格変動が少ない。


 私と永福は、台湾閥、上海閥と別の派閥に属しているが、二人とも客家なのだ。いつ、地元の中華民族に追い出されるかわからない。いつでも、財産を持って逃げる準備をしておかなければいけないのだ。


 私は、22Kの台座で爪がプラチナ、ダイアひとつのシンプルな婚約指輪を選んだ。21世紀なんかになったら、50万円はそれほどの価値はないんだろうが、企業の初任給が10万円台前半の70年代。給与の5倍だ。結婚指輪も22Kにした。


 宝石屋が、これが一番ウチで高い品で、6万円、余っちゃいますよ、という。永福が、だったら24K、純金のブレスレットもくれ、と注文した。金の値段が1トロイオンス、150ドル。ドルー円が225円で、3.2トロイオンス、100g の鎖編みのブレスレットを見繕ってもらった。(1トロイオンス = 31.1グラム)加工賃はおまけだ、と宝石屋が言う。私は産まれてこんなに高い宝飾品を身に付けたことはない。


 永福がブレスレットを私の腕にはめてくれた。指輪をズボンのポケットにしまった。あら、今くれないのね。そうか、立会人とかいないとダメか。


「これからどうするの?」
「なあ、レイニー、さっき『ハイ、あなた』って言ったな?気に入った。もっと言ってくれ」
「ハイ、あなた、これからどうするの?」


「そうだなあ、港の見える丘公園に行って、横浜港を眺める。三渓園に行って散策する。本牧のリキシャでピザをつまむ。マリンタワーに登る。山下公園を歩き回る。氷川丸に乗船しよう。それで、ホテルニューグランドで一杯飲む」
「それって、高校生のデートじゃない?昔、したわね」


「『ホテルニューグランドで一杯飲む』はしなかった。レイニーが酒を飲めるんで、安心した。飲めなかったら、部屋で俺一人で晩酌、ってのはイヤだからな。お前、俺の部屋に引っ越せ。住む場所はひとつでいい。所帯をもつんだ・・・なぜ、泣く?」
「あなたが『所帯』なんて言うからね、あなたが泣かせたんだよ」
「変な女だな。『所帯』で泣くのか?」
「女はちょっとしたことで、泣くもんは泣くんだよ、永福」


「なるほどな。今晩は二人でH飯店に行く。大奥様と王さんに会いに行く」
「そら来た!それが目的なんだろ?私から情報を吐かせるつもりなんだろ?いいよ、あなただったら、私を騙したって気にしない。なんでも喋ってやるよ」
「いや、レイニーが喋る必要はない。お前の体にも聞いたし、俺は必要なことは知っている。お前が喋るんじゃなくて、俺たちがお前に今の状況を説明するんだ」
「どういうこと?」
「今晩、関係者を呼ぶから、お前に紹介する。例えば、たぶんお前が部長刑事から聞き出した、吉村警部補も来る」


「・・・やっぱり、知っていたか」
「推測しただけだ。どうせ寝物語で聞き出したんだろう?俺の女のことはできるだけ知っていたいからな。俺は気にしない。お前が今頭に閃いた二重スパイなんてのもやる必要はない。一つだけ。台湾野郎に間違った情報を渡せばいいだけだ」
「あなた、どういうことよ?」


「俺とレイニーだけでは『お前を利用しているヤツラ、お前を抱いているヤツラを徹底的に叩き潰す、お前を自由にする』ことはできないだろう?だから、俺とお前は、俺たちの知っていることを大奥様、王さん、みんなに提供する。その代わりに、彼らに、お前を自由にする協力をしてもらう。お前の両親の店がたち行くように大奥様に相談する」
「そんなことができるの?」
「俺を信用しろ。俺に協力する。俺の言う通りにする、黙ってそうしろ。もちろん、もうこれ以上、お前を誰かが抱くなんて、俺が許さない。悪いな、レイニー、お前はもう俺としかセックスできなくなったんだ」
「・・・永福、あなた、あなたの言う通りにします」
「危ない目には合わせないから安心しろ」
「信じてます」


 横浜の中区じゅうをぐるぐる回った。高校の時以来で、楽しかった。山下公園でソフトクリームを2つ買った。私がソフトクリーム?彼と一緒に?


 高校卒業からの7年間は楽しいことなどなかった。堕ちていく一方だった。堕ちるのが止まったような気がした。いや、私と彼で止めるんだ。今日でなくてもいい、彼にこの7年間のことを言わなければならない。私がどんなに汚い女だったかを。そこから積み上げていこう。


 ニューグランドのバーで、ビールを飲んだ。


「レイニー、俺は隠し事をお前にしない。だから、白状しておく」
「いいわ、あなた。どんなこと?」
「7年前のあの時以来、お前は俺を無視した。俺は、お前を助けられなかった。お前はその事で俺を恨んでいると思っていた」
「・・・いいえ、それは・・・」
「聞いてくれ。先週の土曜、日曜の事件に関して、俺、俺たちは、偶然、台湾連中の密談を知った。お前が台湾連中のスパイをやっていることを知った。俺はお前のアパートを探り出した。昨日、お前の部屋に忍び込んだ。レイニー、部屋の鍵を郵便箱に引っ掛けてはいけないな。住居不法侵入で逮捕してもいいぜ」
「・・・あなただから。驚かないわ」
「俺は、昨日のことがなくても、中華街の抗争になるようなことを避けなきゃいけない。だから、いずれにしろ、お前が関係を持った連中、台湾の連中は叩き潰すつもりだった。その時は、お前も一蓮托生で破滅していただろう・・・殺風景な部屋だな?タンスしかない。暗かったが、タンスの上にあるものが目についた。俺とお前の写真。俺はわかった。お前は俺を恨んじゃいなかった、ってことが。あの写真がなければ、昨日、ホテルのエントランスでお前を待ち伏せなんかしちゃいない。隠密理にお前の行動を調査して、必ずお前をヤツラの巻き添えで破滅させていただろう」


「そっか・・・あの写真が私を救ってくれたんだ・・・捨てられなかったのよ、捨てちゃいけなかったの・・・私の拠り所だった・・・あの頃に戻りたかった・・・」


「いいんだ、説明しなくても」
「あなた、言わせて頂戴。私は、好きな男の目の前で男どもに犯されていたわ。5人も。ボロボロになった。教師があなたの縄を解いて私に駆け寄ってきた時、思わず私は『触らないで』と言ってしまった。私は彼らに体を穢された、5人に無理矢理犯された、あなたは何もできなかった、あなたはどうしようもなかったのにね」


 あなたは、私を抱きしめて強姦されたことを気にしないでいてくれたでしょう。だけど、私は汚れたのよ、私は!あなたにふさわしくない女になっちまったんだよ!・・・いろんな思いが錯綜して『触らないで!』と思ってもいない言葉をあなたに投げかけてしまったのよ。そのひと言ですべてが変わった、終わったんだ。あなたに正直に私の気持ちを話していればよかった・・・


 レイプの翌日、私は無理矢理通学した。まるで何事もなかったようにふるまった。みんな腫れ物に触るように接してくれた。無理に普通に会話した。だけど、あなたとは目を合わせられない。気まずかった。あなたが私をレイプしたわけじゃないのに。


「だけど、レイプされたこととあなたがダブった。あなたは私を助けられなかったけれど、私も自分の身を守れなかった。私はあなたへの貞節を守れなかった。あなたにふさわしくない女だという思いが浮かんだ。私なんか、あなたのそばにいない方が良いって思った・・・ゴメンナサイ、永福、ゴメンナサイ」


「・・・レイニー、俺は時間が解決してくれる、なんて言わない。これは、お前と俺が立ち向かわなければいけない問題だ。レイプのことも。この7年間のことも。俺はお前の側に立つ。お前を守る。一生守る。だから、もうお前に『触らないで』とは言わせない・・・毎日、お前をベタベタ、触ってやる」永福、泣いてるの?


「ねえ、永福、考えると、ゾッとする。私がタンスの上に写真を置いておかなかったら、どうなっていたんだろう?写真をアルバムかどこかにしまっておいたら、あなたは見つけられなかった。あなたがわたしの部屋に入って、あの写真が、あなたがすぐ目にする場所に飾っていなかったら、二人でこうしていなかったんだわ。ゾッとする。私はあなたの存在を知らないまま、あなたは私の心を知らないまま、あなたは私を破滅させようとしたんでしょうね」


「俺は宗教なんて信じないが、神なんて存在がいるとすれば、神が俺たちを哀れんで、お前が写真をあそこに飾るように仕向けたんだろう」
「あの写真は、私の祭壇だった。毎朝、惨めな気持ちで起きて、髪をとかして、でもあの写真を見ると、今日一日生きることができる、という気持ちになった」
「・・・ああ、そうだ。こんなことを知って、お前の溜飲が下がるとも心の傷が塞がるとも思っちゃいないが、あれから、俺はお前を犯したヤツラ5人が少年院から出所するのを待って、一人ずつ、手足をへし折って不具にしてやった」
「・・・ありがとう・・・でも、警察官の前でそういうことを白状しちゃいけないな。これで、住居不法侵入、売春防止法違反に加えて、暴行傷害罪よ。いいこと、徐永福、私という監獄に一生入ってもらうわよ」
「そうか。レイニーの監獄に入所。その監獄はレイニー刑務官が自分の体を提供して、俺を更生させようとしてくれるありがたい場所だな。喜んで入所しよう。毎日、俺を更生させてくれ。まだ、レイニーを抱き足らないからな」
「ねえ、あなた、またホテルに戻って、やらない?こんな話をしたら、ジンジンしてきた。あなたが欲しい」
「H飯店で一通り話が済んだら、俺の部屋に行こう」
「うん、うれしい・・・」


「そうだ。軍用ナイフと自動拳銃は俺に渡せ。始末しとく。浮気の証拠写真はお前の顔をボカして使えるな。これは使い方を考えよう」
「うん、わかった・・・大人の玩具は?それも見つけたんでしょう?」
「え~・・・」
「たまにだったら、私に大人の玩具を使うのもいいでしょう?私に猿轡して、四つん這いにさせて、鞭打つの、どう?張り型で私を虐めるとか?アナルを犯してもいいわよ、どう?いつもじゃないわよ、たまによ?」
「・・・」
「永福、あなた、勃起したでしょ?」
「・・・」

ヒメと明彦 XXXXIII に続く。