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A piece of rum raisin - 第2ユニバース - 第5話、第6話 👈NEW

A piece of rum raisin - 第2ユニバース
第5話 洋子・シンガポール1、1986年7月4日(金)

A piece of rum raisin - 第2ユニバース
第6話 洋子・シンガポール2、1986年7月4日、5日

第5話あらすじ


 アキヒコが「つまり、絵美が何かヒンクリーのことを調べていて、偶然か何か、ブッシュファミリーに関わることをつかんだとしたら?元CIA長官のブッシュがCIAに今でも影響力があったとしたら?絵美がFBIのクアンティコ所属の研究をしていたとしたら?、何かまずいアメリカ合衆国の政治トップにまつわる醜聞を知ってしまったとしたら?ピンカートン社に関係する人間が絵美が狙撃された反対側のビルにいたとしたら?・・・まさか、こういうことなのか?」と言う。


 ノーマン警視が頭をかいた「何か、そのようなことらしいが・・・俺は警官だ。FBIでもCIAでもない、単なるNYPDの警視にしか過ぎない。こういう国家的な問題を捜査するのは任務外だ。できるだけのことはしたいと思うが、こういう件はしばしば迷宮入りになる。申し訳ない話だがな・・・」


「いいわよ、ノーマン。あなたの立場はわかるわ。そうね、こうしましょう。この3冊のファイルは私が持ち帰っちゃダメかしら?それで、日本語の部分を私が翻訳する。それで、それをコピーして、あなたとアキヒコとエミのママに送るわ。それで、捜査してもしなくても、私たちでこの情報は共有するのよ」と洋子。


「まあ、今のところ、この狙撃事件に直接の関連が証明されない資料だ。想像はできるが、現時点で絶対に証明できない。疑わしいってだけだ。だから、ここにあるものは、一度検分したので、あとは遺族の所有になる。遺族がそれでよければ、ヨウコ、そうしても俺は構わない」


「それで結構ですわ」といつの間に来たのかエミの母親が部屋に入ってきた。「みなさんが娘の狙撃の調査をしてくださるのはありがたいですが、それがあなた方の日常生活をかき乱すようなことは望みません。それで娘が生き返るわけでもないです。ですので、ヨウコさんがそのファイルにご興味がおありであれば、フランスに持って帰っても構いません」と流暢なクイーンズ・イングリッシュで言った。


「確かに、ママ、このファイルに書いてある内容を今ここニューヨークでどうこうできることでもありませんね。では、このファイルは私がフランスに持ち帰ります。翻訳したら、オリジナルはお送りいたします。それよりも、ここの荷物の片付け、日本への送付、部屋の解約、火葬の手続き、航空機手配などやることがたくさんありますね。仕方なし、今回はここまでで諦めましょう」


「残念ながら、ヨウコ、そのようだな」と俺はヨウコの肩を叩いた。

「でもね、ノーマン、近い将来、あなたとマーガレットにはお会いするような気がするわ。これで終わりとは思えないわ」と彼女が言った。

「ああ、俺もできる限り、この件は心に留めておく。マーガレットにもそういっておくよ」


 彼らが部屋を出て、俺は部屋の鍵を閉めた。俺は、ここの鍵をエミの母親に渡した。


 さて、これで、ケースクローズドだろうな、と俺は思った。


 ヨウコの言うように、そうはならなかった。


●1986年7月4日(金)、ラッフルズシティ―


 去年の12月、絵美のママと洋子とニューヨークに行ってから半年経っていた。


 突然、洋子がシンガポールで会いましょうと言ってきた。ぼくは会社になにかと理由をつけて有給休暇を取ってシンガポールにでかけた。


 あの頃のシンガポールは、発展の端緒の頃で、高層ビルだってそれほどなかった。会社がラッフルズシティーの工事をやったので、ぼくは洋子のためにウェスティンを予約した。あの頃のシンガは不況だった。それで、驚くほど宿泊費が安かったのを覚えている。彼女はモンペリエからやってきた。わざわざぼくに会うために。


 1986年のシンガポールは、ラッフルズシティーにはメインビル、ウェスティンスタンフォードとウェスティンプラザのホテルが2つあるだけで、正面は広大なサッカー場になっていた。今は名前が変わって『スイソテル・ザ・スタンフォード』になっているようだ。


 サッカー場とホテルの間に、野外のホッカーセンターがあって、サテイ(マレー風焼き鳥)屋などがあった。シンガポールは不況の真っ最中で、1シンガポールドルが確か100円だったが、ホテルはスイートでも2万円で泊まれたと思う。会社の割引で、それも1万5千円になった。だから、スイート2つ(でも、もうひとつは使わなかったな)でも3万円。安いものだった。いまは普通のツインの部屋ですら1泊5~10万円だ。


 絵美が殺されてからあとも、洋子は何度も電話をかけてきて、ぼくをなぐさめてくれた。しかし、それは戦友としての彼女であって、ぼくたちがどうにかなる、という話でもない。


 ぼくは、ウェスティンの1階のバーで彼女を待っていた。そうそう、シンガポールは、日本と英国と同じく、地上階の最初は1Fなのだ。米国や欧州がそれをG1Fと呼ぶのとは違う。おかしな話だな、とぼくは思う。


「明彦、待ったかな?」と、洋子がぼくの肩を後ろから叩いて言った。不意打ちだ。


 ぼくが振り向くと、日本で会っていたときと全く変わらない洋子がいた。リネンの上下白のスーツ、薄い青のオックスフォードシャツ、青筋の入ったストローハットを目深にかぶっている。「明彦、変わらないじゃない?」と、洋子が言う。絵美の美しさと気品とは違う躍動的な美がある。誰もが彼女を振り向く。


 ぼくは、なにを言っていいのかわからなかったので、洋子を抱きしめた。


「おいおい、時間差も何も無視して抱きしめるんだ?明彦は?」と、ぼくに抱かれながら肩ごしに洋子は言った。

「え?」

「バカね。普通は、半年も会っていない女を何も言わず抱きしめるなんてしないわよ?」

「あ、ゴメン」と、洋子を離す。

「明彦らしいわね。でも、大丈夫、私は私のままよ。昔と同じだわ。さ、行こうか?」彼女はぼくの両肘をつかんで、ぼくの顔をしげしげと見つめた。「さ、行きましょうか」


「洋子、どこに行くの?」

「決まっているじゃない?上の部屋よ。私、こういうごみごみした場所は苦手なの。さ、私の部屋に行こう?シンガポールの景色を堪能して、ルームサービスでシンガポールスリングを頼んで、シュリンプカクテルを食べるのよ、昔みたいに」


 昔と同じだ。サッサと私に腕を絡めて、引っ張っていく。


「洋子、ちょっとお待ち」

「え?何?」

「昔とちょっと違うんだ。ぼくも多少は大人になったんだから、洋子のペースじゃなくて、ぼくのペースでもやらせてくださいよ」

「あら?」


「冬瓜のスープなどいかがかな?オーチャードに予約してあるんだ。個室だよ」

「あら、そう?なら、任せる」

「アハハ、よかった。じゃあ、行こう。でも、その前に?」

「その前に?」

「もう一回、抱きしめていい?持ち上げて、振り回していいかな?」


「バカみたい」

「いいじゃないか?洋子。久しぶりなんだから。フランスからわざわざ来てくれたんだから。ぼくはうれしいんだ」

「じゃあ、やってよ」


第5話 洋子・シンガポール1、1986年7月4日(金)に続く

第6話あらすじ


 ホテルについて、ぼくたちは部屋に入った。もちろん、グチャグチャにすでになっている洋子の部屋の方だ。


「洋子、まだシンガポールに来て、チェックインして、数時間しか経っていないでしょ?この部屋にいたのは数十分でしょ?」

「そうよ」

「それで、すでにこの状態?スーツケースは開けっ放し。下着は脱ぎっぱなし。あれ?うわぁ~、洋子、フランスにいるからって、こんな刺激的なランジェリーを着ているの?」と、ぼくは生地がとてもとても薄くて、着ていても裸同然というパープルのブラとGストリング、ガーターとストッキングを手に持って、ヒラヒラさせた。


「なによ?明彦が喜ぶと思って、わざわざビクトリアズシークレットで買ったのよ・・・」

「刺激が強すぎますよ」

「大丈夫よ、今は。白のリネンの服だから透けて見えちゃうでしょ?だから、白のおとなしい方の下着を着ているのだから・・・」

「なにが大丈夫なんだかなあ・・・それで、床にスカートは放り出してあって、シャツはソファーに引っかかっていて、帽子は、って、こんなマイフェアレディーみたいな帽子をフランスからかぶってきたの?」

「そうよ」


「飛行機の中でも?」

「まさか。その帽子じゃあ、隣の席の人間が怒るわよ。ケースにしまって、ラゲッジに預けたわよ」

「でも、チャンギからはかぶってきた?」

「陽光燦々ですもの」

「いつもながら、目立つ人だ」

「それを気にする私ですか?」


「ハイ、気になされませんね。まあ、いいや。ジャケットはどこに放り出したの?どこ?」と、ぼくはジャケットを探し回った。それは、テーブルの下に落ちていた。ぼくは散乱した衣類をまとめて、ドレッサーに吊した。ベッドの上にでんと置かれているスーツケースをしまう。


「こら、洋子!ぼくが片付けているのに、また、服を脱いで放り出さないで下さいよ」

「だって、邪魔でしょ?服は?」

「ルームサービスが入ってきたら?」

「誘惑しようかなあ?・・・バスルームにバスローブがあるわ。下着は脱がないわよ。明彦の楽しみに着たまま、ね?」


「ね?って、ほら、ジャケットとシャツとトローザーズを渡して!吊すから!・・・あ!」

「あ!って、何よ?」

「洋子、色が白なだけで、この裸同然の下着と同じデザインじゃないですか?」

「フフフ、興奮するでしょ?」


「まったく、バスローブを持ってきますよ」バスルームには化粧品も散乱していたので、それらをまとめて、バスルームに持って行く・・・?

「洋子!このバスルーム、どうなっているの?」

「あ、それ?シャワーカーテンしめないでシャワーを浴びるとそうなるのよ」

「なぜ、シャワーカーテンをしないの?」


「体に張り付くことがあるから嫌いなの。バスローブをちょうだいな。掃除してないで、早くルームサービスに電話して、しましょうよ、あれを」ぼくは洋子にバスローブを着せる。ドレッサーにあったスリッパをはかせた。バスローブの合わせ目から白のガーターストッキングが見える。これじゃあ、ルームサービスが来たら発情してしまうなあ、やれやれ。


「あのですね、掃除しなかったらベッドが使えなかったでしょ?」

「明彦のベッドを使えばいいじゃない?」

「じゃあ、このまま、チェックアウトまでこの状態にしておくの?」

「いいじゃない?文句言わないの。綺麗になったわねえ。やっぱり、明彦が居るといいなあ・・・」

「やれやれ、洋子、その格好!ルームサービスが来たら発情してしまうでしょうに?ストッキング、脱がないと・・・」


「あら?ダメ?ダメなの?じゃ、脱がしてよ」

「自分で脱がないんですか?」

「せっかく、明彦に脱がしてもらおうと思ったのに・・・」

「ルームサービスどころか、ぼくが発情してしまうでしょ?まったく、もお・・・ほら、ベッドに座って!脚を出して!」洋子はベッドに座ると、左脚を出した。ぼくはひざまずいて、ガーターの留め具を外して、クルクル巻いて脱がす。「ハイ、右脚」と、こちらも脱がした。洋子がぼくの髪を触っている。


第6話 洋子・シンガポール2、1986年7月4日、5日につづく

シリーズ「A piece of rum raisin - 第2ユニバース」


第1話 絵美の殺害1、1985年12月7日、9日、10日、ニューヨーク 👈NEW
第2話 絵美の殺害2、1985年12月11日、ニューヨーク 👈NEW
第3話 絵美の殺害3、1985年12月11日、ニューヨーク 👈NEW
第4話 絵美の殺害4、1985年12月11日、絵美のドミトリー 👈NEW
第5話 洋子・シンガポール1、1986年7月4日(金) 👈NEW
第6話 洋子・シンガポール2、1986年7月4日、5日 👈NEW


第9話 第9話 絵美と絵美、純粋知性体、絵美と奈々 👈NEW
第10話 誘惑、1986年10月10日(金)
第11話 転移、1986年10月11日(土)
第12話 交代、1986年10月11日(土)
第13話 デート、1986年10月11日(土)
第14話 買い物、1986年10月11日(土)
第15話 融合、1986年10月11日(土)
第16話 渡航、1986年10月12日(日) 第ニユニバース
第17話 第一ユニバース、2010年
第18話 洋子1、1986年10月20日(月)、モンペリエ、フランス、第ニユニバース
第19話 洋子2、1986年11月11日(火)、ニューヨーク、第ニユニバース
第20話 洋子3、1986年11月14日(金)、ニューヨーク、第ニユニバース

登場人物

●アメリカ、NYPD、監察医務局
ノーマン  :NYPDの警視、森絵美の捜査担当
マーガレット:ニューヨーク市監察医務局監察医、医学博士、森絵美の捜査担当
●フランス、洋子関連
島津洋子(第二): 仏モンペリエ大学の法学教授、1952年生まれ、1986年34歳
ピエール:仏モンペリエ大学の洋子の同僚
ジョン :ピエールの友人の米国人。フランス外人部隊の退役軍人。
●アメリカ、ハワード&ニック探偵事務所(ジョンの紹介の探偵事務所)
ハワード:アイリッシュ系白人男性、身長180センチ
ニック :黒人男性、身長200センチ
マリー :秘書、白人金髪女性、日本語を話す、捜査情報収集
●ビル・ゲイツ(第一、第二):マイクロソフト創始者
ビル・ゲイツ(第二):第一、第二での洋子たちの資金源。1955年生まれ、1986年31歳
●日本
森絵美  (第二ユニ):1979年21歳転移、1985年27歳の時NYで射殺、死亡
神宮寺奈々(第二ユニ):1979年21歳転移、1986年28歳の時絵美の記憶が転移、二つの人格
宮部明彦(第二ユニ):1970年12歳転移、1986年28歳
加藤恵美(第二ユニ):1978年20歳転移、1986年28歳