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エレーナ少佐のサドガシマ作戦(28) 北、佐渡上陸 Ⅳ

エレーナ少佐のサドガシマ作戦(28) 北、佐渡上陸 Ⅳ

「石塚さん、日テレの卜井と申します。二見町からの避難の様子を取材させていただいてもよろしいでしょうか?」と卜井。

「そりゃ、構わないが、卜井アナ、あなた、その姿、どうされたんですか?」

「石塚さんのお住まいのある二見町を取材しておりまして、戦闘も迫ってまいりましたので、ロシア軍の車輌で二見町から佐渡一周線を通って市内に避難してきたんです。途中、自衛隊、ロシア軍の負傷兵を乗せていって、治療を少し手伝っていて、こんな姿になりました。ちょっと、戦闘にも遭遇いたしまして・・・」


「住んでいる私たちが逃げ出したっていうのに、まったく申し訳ない。自衛隊のみなさんも、それからなんと敵だったロシア軍も北朝鮮相手に闘ってくれてるなんて。いっぱいけが人も出ただろうに。私たちも踏みとどまればよかった」


「彼らは軍隊ですし、石塚さんたちは民間人ですから仕方ありませんよ」

「そうも言っていられないだろう?私らの家、私らの田んぼ、私らの島なんだから。住んでいる私らが守らんで、どうするっていうんだ。もちろん、私らは銃も爆弾ももっておらんが。炊き出しでもなんでも手伝えただろうに・・・」

「仕方ありませんよ・・・」


「卜井アナ、だけどな、島ってのは、本土の人にはわからないだろうが、いったん住んでいる所を出たら、もう二度と元には戻らないんだ。北方領土の四島だって、島民が放棄したから、ロシアに取られて返してもらえなかった。同じ話だ。今、騒ぎになっている沖縄県の島だって同じだ。まさか、本土に近い佐渡ヶ島がこんなことになるなんて思ってもいなかったが、ここだって、北朝鮮に居座られたら同じこった。島民がいなくなったら、その島は日本です!なんていえん。島に住んでいる者は、何が起ころうと島を捨てちゃあいけないんだよ。私ら一段落したら戻るつもりだ」


「不発弾とか危ないと思いますよ」

「そんなもの、自衛隊と協力して掃除すればいい・・・軍の人は何人くらいけがをされたんですか?」

「自衛隊千名中三百人、ロシア軍二千名中五百人くらいと聞いています」

「おうおう、ロシア軍のべっぴんさんも?」

「千名中二百人ほどが死傷しました」

「かなりの人が佐渡の男どもと一緒になったと聞いていたが、その人たちも怪我したんだろうなあ。私はわかったよ、口先だけの政治家なんかあてにできないって。北朝鮮のような輩の暴力には、歯に歯を目には目をしかないんだよなあ・・・」

「石塚さん、ありがとうございました。他の方たちにも取材を・・・」


 一通り避難民を取材して、藤田が「卜井ちゃん、石塚さんに取材されている感じだったよ。石塚さんに押されていたじゃないか?」


「う~ん、考えさせられちゃった。『島民がいなくなったら、その島は日本です!なんていえん』って、確かにそうなんだよね。本州・北海道・九州・四国に住んでいる人間はその感覚がわからない。佐渡ヶ島って沖縄本島の次に大きな島なんだよね?」

「確か、そうだったな」

「本州にこんなに近い佐渡でこの騒ぎなら、沖縄で、南西諸島でこんなことが起こったらどうなるんだろう?鹿児島から千キロも離れていて、台湾や中国の方がずっと近い沖縄県の島々でこれが起こったら?」

「想像したくもないな」

「あ~、今日は疲れちゃったよ」

「もう日も暮れたから、今日は終わりにしよう。自衛隊の営繕の人が昨日のホテルを取ってくれてる」

 

「え~、あのホテルに泊まったのが昨日のことだっけ?なんか、1ヶ月くらい昔の話だったような気がする」

「本当だ。昨日のことだったんだ・・・実感がないな・・・」


 佐々木が頬の擦過傷を触ってブルッと震えた。それを見た藤田が「治療しなくていいのか?大丈夫か?佐々木?」と言う。


「藤田さん、私、今日、北朝鮮軍をやっつけた、殺したんですよね・・・」

「ああ、それはトラウマになるかもしれん。局で精神科医を用意して・・・」

「違うんですよ、藤田さん。何ていうか、石塚さんの言っていた『住んでいる私らが守らんで、どうするっていうんだ』という気持ちがわかって。スカッとしてるんですよ。ああ、ロシア軍と自衛隊と一緒に私もちょっとは日本を守った、手伝ったんだなって。口先だけで愛だ、平和だって自己陶酔でデモるよりもズッとスカッとする」

「ま、それはぼくたち三人だけの話しにしておこう。だが、確かに、ぼくも治療をちょっと手伝って、なんていうか、自分の無力も感じたが、一緒に闘っているという感情は持ったな」


 卜井が佐々木の肩をポンポン叩いて「佐々木の『ソーニャ准尉、私が奴らを撃ってやる!このど畜生どもめが!』って叫んだの、カッコよかった。私もやりたかったな。でも、よくもまあ、ビュンビュン銃弾が飛んでくるのに、タイフーンの屋根から上半身を出して、機関銃を撃ちまくったもんだよ」と言う。


「え~、私、そんなに撃ってました?」

「弾倉が空になっても引き金を引いてたよ」

「ウソ!」

「それでアナスタシア少尉を担ぎ上げて、タイフーンの後部ドアを蹴りまくって、ドア開けろ!って叫ぶんだもん」

「私、そんなこと、しました?」

「ビデオに音声残ってるんじゃないの?」

「あ~、恥ずかしい・・・」

「背の高い昨日まで処女のメガネっ娘がねえ。驚いちゃうよ」

 

「あ!卜井さん!私、まだ、アドレナリン出てます!」「同じく」と顔を見合わす。


 卜井が「藤田、ホテルに行こう!シャワーを浴びないと!それで、ドクドク、佐々木も私もアドレナリンが出ているんだから、やることはわかっているよね?」「ハ、ハァ?こういう状況で・・・するの?」


「します!するんです!」と卜井と佐々木が揃って言う。

「明日って日が来ないかもしれないんだから!」と佐々木。

「やれやれ・・・」