フランク・ロイドのブログ

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よこはま物語、ヒメと明彦8、後藤恵子編、ヒメと明彦 XXXVII~XXXX

よこはま物語
ヒメと明彦8、後藤恵子編

ヒメと明彦 XXXVII
 1977年7月18日(月)
 ●ジミー・周ヒメと明彦


ヒメと明彦 XXXIV、1977年7月18日(月)、盗み聞き からの続き。


「ジミー、どうしたの?何の用?一昨日のお礼なら、今、金を工面しているよ。パパにおねだりして、くすねている最中だ。バレたらまずいからな」
「あれ?金じゃなくて、デートだろ?それで、一発やらしてくれるんだろ?」
「まぁ~ったく、ジミーは、やらしてくれる女、たくさんいるじゃんか!」


「俺は、高嶺の花のファンファンとやりてえんだよ。おっと、無駄口はいいから、会えないか?今、剣呑なやつ二人が話しているのを聞いちまったんだ。あの新聞沙汰の人身売買の話だ。台湾野郎でしょっぴかれてないヤツが話しているのを聞いた。それで、俺は、ファンファンに言った林田と関わりがあるんじゃないかと思ったんだ。かなりヤバい話だ。ヤツら、加賀町署の電話交換兼受付の交通係のねえちゃんをスパイにしているらしいぜ。だから、サツ内部の話もいずれ漏れるかもしれないぜ」
「ジミー、今どこにいる?」
「加賀町署の近くの横浜公園よりのサテンの近くの公衆電話からかけてる」
「いつものお前らのたまり場のサテンだね?」
「そうだ」
「わかった。すぐ行く。20分、待っていてくれ」
「了解だ。このネタなら、一発、やらしてくれるかい?」
「私とやったら、東京湾にコンクリ詰めで沈められるって知ってるくせに」
「それだけの価値はあらあな。なんせ、ファンファンなんだから」
「やれやれ。カタギのねえちゃんを紹介してやるから。紹介だけだ。売春斡旋じゃないよ。落とすのはジミー次第だよ」
「仕方ねえな。じゃあ、待ってるよ」


 嫌な予感がした。やはり、台湾野郎どもは、報復を考えているのか?『加賀町署の電話交換兼受付の交通係のねえちゃんがスパイ』?おっと!先週の木曜日、加賀町署の浩司に電話をかけた時、署の電話交換の女性がでたわね?私、彼女に『吉村警部補の従姉妹の張本と申します。吉村はおりますでしょうか?』と言ったような・・・
※ヒメと明彦 XXII、1977年7月14日(木)、●芳子の捜索 Ⅰ 参照。


 もしも、私からの電話をとった電話交換の女が、台湾野郎のスパイだったら、私と浩司が紐づいてしまう。そうなると、芋づるで、良子だって、美姫だって、林田もH飯店も台湾野郎にわかってしまうってこと?まずい!まず、この女が誰か調べないといけない!どうする?


 これは私が作戦を立てたからいけない。これからは、頭脳明晰な良子に相談しよう。あいつだったら、こういうミスは絶対にしない。家にいるかな?いたら、ジミー・周のいるサテンに一緒に行って、直接、良子が話を聞ける。私は良子に電話をかけた。居た。


「ファン?私、眠くって。美姫の泣き言夜通し聞いてたのよ。それで、雅子が来襲して、美姫を飯田橋に連れ去ったの。大学休んで、先週から、水、木、金、今日でしょ?代返お願いするのも限界だわ。体で払わないといけなくなるかも?ファンもそうでしょ?」
「あのな、良子、私は代返を女子生徒にお願いしてるんだよ。あんたみたいにデレデレした男子にお願いなんかしてないよ。だいたい『体で払わないといけなくなるかも?』なんて私にワルぶらなくていい。まったく、明彦がスキだから、去年から操を立てて、他の男とエッチしてないじゃないか?あんたも可愛いところがあるよ」


「まあ、ファンにはバレバレだからね」
「雅子が美姫を飯田橋に連れ去ったの?」
「そぉよぉ。1週間に3日くらい、泊りがけで雅子のマンションで受験勉強するんですって。あなたも雅子のアイデア、聞いていたでしょ?雅子が立て板に水で、美姫の両親に、お任せ下さい!偏差値59以上!東京六大学!なんて言って納得させたんだから。説得力、あるわね、明彦の今カノは。さすがだわ」
「週に3日か。こりゃ、明彦もまたまた、今カノと元カノと3Pか?」
「やなこと言ってくれますね?私、なんにも悪いことをしてないのに、はじかれちゃったみたいじゃない。雅子の住所、教えてもらったから、雅子も来ていいって言ってるし、美姫がいない時に、割り込もうかしら?雅子は美姫とソックリだから、抱き心地も同じはずよ」
「新しい男を探せばいいだろ?」
「最近、それ面倒くさくなっちゃって。人の男は楽でいいわ。しがらみ抜きで楽しめて・・・って、ウソです。明彦をスキなのにね。振り向いてくれないんだもの。私だって、モテない、フラれることもあるんだと思ってさ。もったいないと思わない?この良子ちゃんなのよ?高嶺の花じゃないの?」
「やれやれ。それはそうと、大変なんだ・・・」と私はジミー・周の話をした。

ヒメと明彦 XXXVII に続く。

ヒメと明彦 XXXVIII
 1977年7月19日(火)
 ●美姫の引っ越し Ⅳ


ヒメと明彦 番外1、1976年8月28日(土)、酒と目薬 参照。


 目が覚めた。時計を見ると、まだ午前4時だった。見慣れない雅子の部屋の天井。私の右に雅子と明彦が寝ていた。


 明彦と久しぶりにエッチした。先週の日曜日に最後通牒を突きつけに(最後通牒?私の最後のあがき?)千駄ヶ谷のアパートに行った時は、口論になってなにもしなかった。去年の10月頃からギクシャクしだしたので、明彦とのエッチなんて何ヶ月ぶりなんだろう?


 林田達夫が、去年の8月、ディスコに行った時にお酒に目薬を入れて、私を酩酊させて犯した、というのはショックだったけど、ファンファンの言う通り、達夫が私を狙っていたなら、ガードの低い私は、8月じゃなくても、いつか、良子が側にいない時に、達夫の誘いにのって、エッチしただろう。目薬、お酒なしでも。明彦だって、私と良子と二人、良子ともエッチしてる、私が明彦以外とエッチしてもいいじゃない?などと言い訳して、私みたいなバカな子は浮気しちゃうんだ。バカだ。何を失うのか、考えもしないで。


 おかしな話で、幸いにして(?)達夫が私を売り飛ばしてくれたおかげで、私の目が覚めた。達夫への感情も冷めた。自分のやったことがどんなことなのか、よくわかった。


 じゃあ、達夫が私を売り飛ばさなかったら?ズルズルと達夫の部屋に、家出したまま解決策もなく居続けたんだろうか?いいえ、そんなことはありえない。達夫だったら、私にすぐ飽きただろう。依存するから。達夫にとって、私は面白みのない、すぐ犯せる都合のいい可愛い子なだけだから。そして、私も、受験、浮気、喧嘩、家出、ふしだらな関係などなど、そういうものを心に抱えて、病んでいって、最後に達夫は私をアパートから、叩き出しただろう。


 ウワ、ウワ、ウワ、売り飛ばされなかったとしても、売り飛ばされていたとしても、どっちも私、ドツボにハマっていたんだ。危なかった、危なかった、危なかった。わ、私、なんてことしたの?


 このバカな子は、受験勉強から逃げ回って、逃げ回って、逃げ回って、明彦に、良子に反発して、はらいせに浮気して、自分で自分を貶めて、恥ずかしい女になってしまった。みんなを巻き込んで、あんな不法行為までさせて、みんなを危険な目に合わせた。いっそのこと、香港とかに売られちゃえばよかったんだよ、私なんか。でも、他の4人の子は助かった。ただ、それが私の救いにならない。林田の家は、達夫がやったことを知れば、いずれ、達夫に罰を与えたんだろうけど、それも私の救いにならない。わたしのために、みんな・・・


 涙がこぼれてきた。こらえようとしたけど、声が漏れてしまった。雅子が気づいて、起きてしまった。ヒメ、どうしたの?と優しく聞かれて、ますます声が出てしまった。顔をおさえて、泣くのを止めようとしたけど、止められなかった。明彦も起きてしまったみたいだ。


 私は、雅子のベッドを降りた。床に正座した。這いつくばって、二人に謝った。ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。私をドツボのどん底から助けてくれて、ありがとう、危ない目にあわせて、すみませんでした、ゴメンナサイ。私は、最低の女です。ふしだらで汚れた女です。みんなを巻き込んで、雅子、明彦、良子、ファンファン、両親、兄、考えると、林田だって、私の被害者かもしれない。どう詫びればいいのか、美姫、わかりません。ゴメンナサイ。

ヒメと明彦 XXXVIII に続く。

ヒメと明彦 XXXIX
 1977年7月18日(月)
 ●後藤恵子 Ⅰ


 あれから、林田のおばあちゃんが個室に来て、フカヒレを食え、酒をもっと飲めと、料理の山が築かれ酒瓶が山ほど積み上がった。良子のやつは言われるままにクイクイ飲んだ。化け物か?こいつは!


 台湾の連中の話になった。彼女は話を遮らずに黙って聞いていた。良子が話終わると「まずは、後藤恵子の動きを封じることだ。良子の考えでいいだろう。王、後藤恵子の隠し事、弱みを徐に探らせろ。話はそれからだ。後藤恵子にどう接触するか、こちらの言うことをどうきかせるか、台湾野郎どもを間違った方向に向かわせるか、これはもうちょっと考えてみよう。張のお嬢ちゃん、あんたのパパには言ってないのかい?」


「いいえ、まだですが、もう相談したほうがいいでしょうか?」
「まだ、ちょっと待とう。明後日、結論を出そう。ジミー、お前、客家のコネで、いろいろ聞き出せるよね?どの閥にも客家はいるんだから」
「ハイ、林田の奥様、できることはいたします」
「ジミーができることか・・・まず、台湾のヤツラ二人をつけていった手下の報告を待つとしよう」
「情報が入り次第、ご報告いたします」
「良子ちゃん、あなたがみんなを指揮しな。ウチの者は使っていい。王、わかったね」
「了解いたしました」


 ジミーに電話がかかっていた。喫茶店の伝言で、ジミーの手下はここに連絡することになっていたのだ。ジミーがメモを取りながら、報告を聞いていた。「彼らの名前と住所がわかりました」と林田のおばあちゃんに説明した。
「王、台湾の連中、この二人と跡継ぎだけがしょっぴかれなかったんだろ?だが、大阪とか、連中の仲間を呼ぶかもしれないね?跡継ぎの居場所、大阪などの連中の仲間をお調べ」
「ハイ」
「ファンファン、良子ちゃん、大学があるだろうが、しばらくお休み。明後日、また、ここで話をしようじゃないか?夕方でいいね?都合のいい時間を電話して頂戴。何かわかったら、みんないつでもいいから、私か王に連絡して。今日はできることはそれくらいだよ」


 良子とジミーとH飯店を出た時、もう陽はくれていた。


「良子、どうする?そう言えば、明彦、雅子、美姫には教えなくていいか?教えないほうがいいね?」
「美姫は回復するのに時間をあげないと。先週の金曜日に連れ去られて、怖い目にあって、まだ今日は月曜よ。美姫は雅子と明彦に面倒をみてもらって、この話はしない。彼らに教えても、彼らができることはないわ。それより、あなた、まだ、刑事に連絡していないじゃない?」
「私が加賀町署に電話するのは、後藤恵子が出るからマズイなあ」
「ジミーに電話してもらえばいいじゃない。それで、電話をあなたに代わってもらって、どこか外で落ち合えば。ねえ、ジミー?刑事に電話してくれるわよね?」
「もちろんです、良子さん」


「どこで落ち合う?」
「この近くじゃない方がいいわね。ファン、最後に刑事と会った場所は?」
「あ~、え~っと、伊勢佐木町のラブホだ・・・」
「あら、私、ラブホテルって行ったことがなかったんだ。面白そう。ねえ、ラブホテルで待ち合わせ!先にラブホテルで二人で待ってましょう!」
「なんか、嫌な予感がするけど・・・」
「うるさいわね!今回の指揮は私に任せるってあなた言ったじゃない!」


 ジミーに電話させた。私も受話器に耳をつけた。電話交換の女性が出た。「周栄方(こいつ、栄方というのか!)と申しますが、刑事課の吉村警部補はおられますか?内密にご相談したいことがありまして」と説明した。ジミー、うまいよ。女性が「吉村ですか?え~、少々お待ち下さい」と言って、内線電話をつなごうとしている。ジミーが、ファンファン、顔が近い!恥ずかしいじゃないか!と言うので、お前でも照れることはあるのか?チュウしてやろうか?と言うと、口を尖らしたので、ホッペタを引っ叩いた。ジミーが受話器を渡した。浩司が電話に出た。

ヒメと明彦 XXXIX に続く。

ヒメと明彦 XXXX
 1977年7月18日(月)
 ●後藤恵子 Ⅱ


 後藤恵子と俺が高校の頃付き合っていた話は、王さんに話しにくかったので黙っていた。恵子とは、いや、レイニーとは、県立高校の1年の頃から付き合い出した。同じ中華街生まれなので、気が合ったのだ。俺は、高校を卒業したら、H飯店で働くことが決まっていた。H飯店で給与を貰って一本立ちができたら、レイニーに結婚を申し込むことを考えていた。


 高校3年の秋、ワルの同級生3人と高校を卒業したOB2名が、レイニーを体育館の倉庫に連れ込んだ。俺は、友人からそれを知らされ、倉庫に飛び込んだ。だが、多勢に無勢だった。俺は後ろ手に縛り上げられて、レイニーがヤツラに次々とレイプされるのを見ているしかできなかった。レイニーは気が強い女だ。ワルの誰かを挑発してバカにしたんだろう。ヤツラはその腹いせをしている。


 友人が教師に通報し倉庫に来たときには、ワル共はレイニーを犯し終えた後だった。制服をメチャクチャにされて、レイニーはズタボロになっていた。教師に縄を解かれて、レイニーに駆け寄った俺を「触らないで!」と拒絶した。


 教師は警察に通報し、彼女は警察の車で行ってしまった。レイプされた女性の聞き取りはひどいものだと聞く。レイプした男性のことばかりか、レイプされた女性が、なぜレイプに至ったかを聞かれるそうだ。まるで、彼女が悪いかのように。


 医師の検査も、婦人科の脚を開脚されるベッドに寝かされ、膣内の精子などを採取されるそうだ。そして、性病検査、妊娠検査をされる。そんな目に合うなら、警察に通報しない方がマシだろう。


 気丈にもレイニーは、翌日からも通学した。まるで何事もなかったように。しかし、俺を見る目は、まるで俺がレイプしたかのような目だ。それ以来、レイニーは今に至るまで俺とは口をきかない。


 それはそれとして、俺は、レイニーを犯した5人が少年院から出てくるのを待った。そして、一人ひとり制裁を加えた。腕を折り、脚を折り、不具の体にしてやった。サツにも誰にも知られることなく。


 高校を卒業すると、俺はH飯店に就職した。風のうわさでは、レイニーは、どうした理由か、警察に就職することを選んだ。彼女の友人に聞いた話では、男性を憎んでいる、警官になれば私のような女を助けられると言ったそうだ。


 俺は、違うんじゃないか?と思った。警察は、事件を未然に防ぐようなことはしない。事件が起こった後に、おっとり刀で現れて、気のない捜査をするだけだ。それに高卒の女性はキャリアにはなれない。刑事になることなどまれだ。いいところで、交通課か児童課の警部、警部補を補佐する巡査部長止まりじゃないか。警察など男社会なのだ。

ヒメと明彦 XXXX に続く。