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第5話 神岡鉱山、2025年9月8日(月)、第三ユニバース

第5話 神岡鉱山、2025年9月8日(月)、第三ユニバース


ガンマ線バースト

 第1ユニバース、第3ユニバースの登場人物が必死になっているのが『GRBによるEMP現象の防止』である。GRBって何か?ガンマ線バースト(Gamma Ray Burst)のことだ。EMPとは?電磁パルス(ElectroMagnetic Pulse)のことだ。


 第1ユニバースのメンバーの活動が間に合い、第3ユニバースにガンマ線バーストの起こる十数年前にその防止策が転送された場合、第1ユニバース、第3ユニバース共に破滅を免れる。


 しかし、第1ユニバースのメンバーの活動が遅れて、十分な時間的余裕がなく、第3ユニバースに不十分な内容の防止策が転送された場合、第一は破滅を免れるが、第3はガンマ線バーストにより破滅する。


 第1ユニバースのメンバーの活動が間に合わなかった場合、第1も第3も破滅する。


 ガンマ線は、紫外線やX線よりも高エネルギーな電磁波である。ガンマ線光子1個は可視光100万個よりも強力なのだ。また、ガンマ線は電離放射線でもあるので、原子の結合を破壊することも可能だ。


 これは非常に危険な特性で、生物に必要な構造を破壊してしまう。


 そんな危険なガンマ線だが、地球にはオゾン層があるので宇宙から飛来するガンマ線がそのまま地上に降り注ぐことはない。そのガンマ線が数秒から数時間にわたって閃光のように放出されるのが「ガンマ線バースト」である。


 ガンマ線バーストは、冷戦中にアメリカがソ連の核実験を監視するために使用していた衛星で初めて感知した物理現象なのだ。


 地上から放出される核爆発による放射線を感知しようと衛星で放射線の観測を行った結果、宇宙から飛来する謎の放射線を感知し、ガンマ線バーストの存在が明らかになった。


 ガンマ線バーストの発生は、新たな天体誕生の瞬間でもある。ガンマ線バーストには2種類あり、それぞれ発生源が異なる。


 発生源のひとつは超新星爆発。ガンマ線バーストが発生し、ブラックホールができる。


 もうひとつの発生源は、2つの中性子星が合体する瞬間だ。何百万年にもわたって重力波を出し続けた後、中性子星は徐々に近づいていきぶつかるとブラックホールができる。ブラックホールの周りには磁気を帯びた星の残骸のガスがあり、それが回転して磁場をつくると中心から熱い粒子がほぼ光速で放出される。


 これがもうひとつのガンマ線バースト発生の瞬間。爆発は通常拡散するが、中性子星が合体した際に放出されるガンマ線は集中しており、より遠くまで届くようになっている。


 ガンマ線バーストなどで発生したガンマ線は地球にも降り注いでいる。


 フェルミガンマ線宇宙望遠鏡によると、1日に1回ほど観測されている模様だ。


 しかし、そのほとんどは無害である。


 その理由は、ほとんどのガンマ線が地球の存在する銀河系の外から来ているものだからだ。


 しかし、もしも地球から数光年の距離でガンマ線バーストが発生した場合、地球は少なくとも半分が丸焦げになる。それよりも遠くで発生した場合でも、十分に危険がある。


 数千光年先でガンマ線バーストが発生した場合、ガンマ線が徐々に拡散していき太陽系全体に影響を及ぼす可能性もある。


 オゾン層は太陽から地球上の生物を守ってくれているが、ガンマ線バーストが数千光年の距離で発生して地球に降り注いだ場合、オゾン層は破壊されてしまい、地球は太陽に焼かれることとなる。


 オゾン層は再生に数年かかるため、地球上の生物は死滅するだろう。


 実際、こういったことが過去に起きた可能性もある。


 4億5千万年前のオルドビス紀に起き、海洋生物の85%が絶滅した大量絶滅はガンマ線バーストが原因かもしれない。


 それでは人類がガンマ線バーストに遭遇する可能性はあるのだろうか?


 銀河内でガンマ線バーストが発生する確率は1000年に1度程度で、これが地球の近くで起き、なおかつ地球に直撃する必要がある。


 さらに、ガンマ線は光速なので、事前に知る術がなく、向かってきていてもそれと分かるのは死ぬ瞬間である。
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シリーズ「A piece of rum raisin - 第2ユニバース」

2025年9月8日(月)、第三ユニバース 神岡鉱山(1)

 ハイパーカミオカンデは幸いなことに完成していた。岐阜県飛騨市神岡町の地下650mの大空洞である。高さ60m、直径74mの円筒形状を持つ巨大水槽に約26万トンの超純水を蓄え、内水槽の壁面に50cm径の超高感度光センサー40,000本、外水槽の壁面に20cm径の高感度光センサー6,700本を取り付けられていた。高感度光センサー、光電子倍増管(PMT、Photo Multiplier Tube)である。


 この検出器は、水中で荷電粒子が水中の光速よりも早く移動したときわずかに放出する「チェレンコフ光」を観測する。ニュートリノは電荷を持たず、観測可能なチェレンコフ光を出さない。しかし、 水分子中の電子と反応した場合、電子にエネルギーを与える。また、水分子中の陽子・中性子と反応した場合は、電子やμ粒子、そのほかの荷電粒子を生成する。これらの反応から生成した粒子が出すチェレンコフ光を観測することで、元のニュートリノの種別やエネルギーなどの情報を再構成する。


 PMTから出力される電気信号はQBEE(QTC- Based Electronics with Ethernet)と呼ばれる特別なボードによってデジタルデータに変換される。1枚のQBEEには24本のPMTが接続され、変換後のデータはFast Ethernetによって計24台の読み出し用計算機群に転送される。各読み出し用計算機は、 PMT約720本(外水槽は約480本)分のデータを読み出し、時間順に並べ直した上で6台のデータ集約・事象選別用計算機群に送る。データ集約・事象選別用計算機は、各読み出し用計算機からのデータを集約、検出器全体分にまとめた上で事象を選別、 12 kHz程度で事象データを記録している。


 事象選別後のデータは、大容量ディスク装置とテープに記録される。その後、解析用計算機群を用いて各事象のタンク内での反応位置、粒子数の同定、エネルギーや飛行方向、粒子種別の判定などといった「事象再構成」を行い、この出力を用いてニュートリノ振動の研究や陽子崩壊の探索が行われている。


 高さ60m、直径74mの水槽上部にある4つの小さな部屋には、光電子増倍管から送られてくる信号から情報を取り出すための電子回路や、光電子増倍管にかける高電圧電源などが設置されている。光電子増倍管には、約2,000ボルトの高電圧がかけられている。約40,000本の光電子増倍管からの信号は、70メートルケーブルを経由して、4つのエレクトロニクスハットに設置されている、電子回路に送られる。


 この電子回路では、光電子増倍管からのアナログ信号を処理して、光電子増倍管が受けた光の量と光を受けた時間についての情報をデジタル情報として取り出す。ハイパーカミオカンデのデータ取得システムは、1秒間に各光電子増倍管につき約14,000回ある信号のすべてを記録して解析に利用している。一日に取得するデータ量は約2テラバイトになる。


 スーパーカミオカンデでは、事象再構成までに25分かかった。ハイパーカミオカンデは、富嶽級のスパコンの導入により、PMTから出力される電気信号受信から事象再構成まで13秒とほぼリアルタイムで観測可能となった。


 ハイパーカミオカンデは、24時間365日休まずデータを取り続けている。常に研究者が検出器の状態を監視し、データのチェックを行っている。地下650mのコントロールルームでは、朝8時半から夕方16時半まで当番の研究者が2人体制で、さまざまなチェックを行っている。その他の時間帯は、地上の研究棟から同じように監視を行っている。
2025年9月8日(月)、朝8時


 2025年9月8日(月)、朝8時、小平と加藤恵美はコントロールルームに降りていった。既に、東大の宇宙線研から派遣されている院生が2名が席に着いていた。そこに小平と加藤が現れたものだから、彼らは驚いた。重鎮2人がこの地下の穴蔵に予告もなく現れたからだ。


「小平先生、加藤先生、今日はまたどういうことでしょうか?ご訪問のお知らせを見逃しましたか?」
「いいや、神谷くん、予告なしですよ。老人でも現場を忘れてはいけないからね。柏からのこのこでてきたのだよ」
「それはご苦労さまです」
「それはそうと、ニュートリノの検知数が増大しているという連絡があったんだが・・・」
「そうなんです。昨日の朝からミューニュートリノ数が2千個を超えまして、最大2035個検知しました。今日はもっと多いんですよ。最大3124個です。1999年のGRB990123よりも多いですよ。なにが起こっているんでしょうか?」
「PMTの検知分布から、ニュートリノのやってくる方向はわかるかな?」
「スパコンに計算させました。おおよその方向は、赤経21h26m、赤緯+19°、天球図によりますとペガススからアンドロメダ方面のようですね」
小平と加藤は顔を見合わせた。加藤は顔をしかめて小平に言った。「先生、ペガスス座IK星Aでしょうか?」


 小平は顎をひねって、考えていた。「まず、連絡しておこう。神谷くん、東大の宇宙線研に連絡してくれ。所長に直接だ。小平から緊急だと言え。それから加藤くん、SNEWS(超新星早期警報システム、Supernova Early Warning System)の担当者、だれだっけな?」「デューク大のケイト・ショルバーグとミネソタ大のアレック・ハビッグだったかしら?」「そうそう、ケイトとアレックだったな。彼らにも連絡してくれ。それから、イタリアのLVD(Large Volume Detector)、Borexino、カナダのSNO、南極のアイスキューブ・ニュートリノ観測所も頼む。解析前の生データでいいから彼らに送っちまえ!小平から緊急だと言って!ペガスス座IK星A方向を調べろと言え!」
もう一人の院生の吉田が小平に言った。「小平先生、6千個を超えました!」


「イカンな。まずいぞ」と小平は言うと、手に持っていたタブレットでZOOMを起動させた。「もう、セキュリティーがなんのと言っておられんわい」と言うと登録してあるCERN(セルン)と高エネルギー加速器研究機構、JAXAを呼び出した。普通の登録ではなく、緊急登録のIDだから、相手も何か大事が起こっているのがわかるのだ。セルンから島津洋子とアイーシャが、KEKとJAXAから宮部明彦、森絵美、湯澤研一が画面に現れた。「あら、小平先生、何事です?」と洋子が訊いた。


「何事もかに事も、諸君、ペガスス座IK星Aのようだぞ」「え!超新星?!」「まだ、わからん。わかったら知らせる。念の為に諸君は地下に潜れ。セルンならLHCは地下106メートルじゃろ?その方が安全だ。宮部くん、森くん、湯澤くんは十分な厚みの構造物を探して潜り込め。ああ、それから、EMPで電源が切れたら、キミらのところの加速器の超電導が破れるぞ。クエンチが起こる。どうするのかわからんが、防止策を考えてくれ。起こらんかもしれん。準備だけはしてくれ。EMPで連絡が取れないようになるまで、このまま通信は継続しておくぞ!」


 神谷と吉田があっけにとられて小平の顔を見ていた。「先生、なにが起こっているんでしょうか?」と神谷が訊く。


「ああ、まだわからんが、もしかすると、若いキミたちには気の毒だが、ごく近い将来、私らと一緒に冥土の旅に出るのかもしれん。極超新星爆発によるガンマ線バーストで電磁パルス現象が起こって、地球は滅亡するかもだ」


 スマホで何箇所も電話をしていた加藤が小平に言った。「先生、ケイトとアレックには報告しました。確認の上、超新星早期警報システムを発令するかを決めるって言ってます。それから、LVD、Borexino、SNO、アイスキューブ・ニュートリノ観測所、こちらと似たような観測結果が出ています」
「加藤くん、本当にまずいぞ!ニュートリノ飛来からガンマ線の襲来までの間隔はどのくらいだろうな?」「それはなんとも・・・数分から数時間、数日、超新星内部の核反応次第ですわ」


「神谷くん、吉田くん、地上の研究棟には何名いる?」「12、3名だと思いますが・・・」「そいつらに、手近の食料と日常生活品をひっかついで、20分以内に全員ここに降りてこいと言ってくれ。それから、圧縮空気ボンベを満タンにしておけ。地上との連絡ダクトを閉じないといけないかもしれん。幸いここには超伝導装置はないからクエンチの心配はいらんが、光電子増倍管への約2,000ボルトの高電圧電源はすぐ切れるように人員配置をしないとイカン。水は、水槽内はガドリニウム入れちまっているが、超純水装置の貯水タンクで飲み水は持つだろう。吉田くん、X倉庫の鍵はあるかね?」「・・・ありますが・・・あの倉庫、なんですか?」「あそこには、所長に内緒でわしが緊急食糧をギッておいたんだ。ここにいる4名と上の12、3名が食っても数ヶ月は持つだろう。数ヶ月生き延びられても、オゾン層とバンアレン帯が剥ぎ取られて、放射線が降ってくるがな。オゾン層が再生する数年後までは生き延びられんよ」


 やがて、世界各地で、低緯度地方にまで空にオーロラがあらわれるようになった。