フランク・ロイドのブログ

フランク・ロイドの徒然

マルチバース、記憶転移、陽電子、ガンマ線バースト

シリーズ「フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス(Ⅱ)- 第4ユニバース」/「フランク・ロイド」のシリーズ [pixiv]は、私の書いている、


「A piece of rum raisin - 第1ユニバース」/「フランク・ロイド」のシリーズ [pixiv]
「A piece of rum raisin - 第2ユニバース」/「フランク・ロイド」のシリーズ [pixiv]
「A piece of rum raisin - 第3ユニバース」/「フランク・ロイド」のシリーズ [pixiv]


 これらマルチバースの4つ目、いわば第4ユニバースとなる。しかし、第1、第2、第3ユニバースで起こった他のユニバースからの記憶転移という干渉が起こらなかった世界。だから、他のユニバースで将来起こるであろう記憶をこの世界の登場人物は持たない。


 このマルチバースの概念は以下で述べるが、登場人物は重複し、起こったことが起こらなかったり、その逆であったりする。


 ヰタ・セクスアリス(Ⅱ)世界のある第4ユニバースで加藤恵美に起こらなかったことが、第1ユニバースの彼女には起こった。



登場人物(第4ユニバース、ヰタ・セクスアリス(Ⅱ)の世界)

宮部明彦    :理系大学物理学科の2年生、美術部。横浜出身
加藤恵美    :明彦の大学の近くの文系学生、大学2年生、
心理学科専攻
杉田真理子   :明彦の大学の近くの文系学生、大学2年生、
哲学専攻
森絵美     :文系大学心理学科の2年生、明彦の恋人
島津洋子    :新潟出身の弁護士、明彦の愛人
清美      :明彦と同じ理系大学化学科の1年生、美術部
小森雅子    :理系大学化学科の3年生、美術部。京都出身、
実家は和紙問屋、明彦の別れた恋人
田中美佐子   :外資系サラリーマンの妻。哲学科出身


登場人物(第1、第2、第3ユニバース)

宮部明彦    :理系大学物理学科の2年生、美術部。横浜出身
加藤恵美    :お茶大の理系学生、大学2年生
杉田真理子   :明彦と同じ理系大学の2年生、明彦の女友だち
森絵美     :理系大学物理学科の2年生、明彦の恋人
島津洋子    :物理学者、明彦の愛人、第2では弁護士
清美      :明彦と同じ理系大学化学科の1年生、美術部
小森雅子    :理系大学化学科の3年生、美術部。京都出身、
実家は和紙問屋、明彦の別れた恋人
田中美佐子   :外資系サラリーマンの妻。哲学科出身

記憶転移タイムライン

宮部明彦 (第一ユニ):1970年12歳の時、第三からの記憶転移、1986年28歳
加藤恵美 (第一ユニ):1978年20歳の時、第三からの記憶転移、1986年28歳
森絵美  (第一ユニ):1978年20歳の時、第三からの記憶転移、1986年28歳
島津洋子 (第一ユニ):1979年27歳の時、第三からの記憶転移、1986年34歳
小平   (第一ユニ):1981年33歳の時、第三からの記憶転移、1986年38歳
湯澤   (第一ユニ):1981年23歳の時、第三からの記憶転移、1986年28歳
アイーシャ(第一ユニ):1981年23歳の時、第三からの記憶転移、1986年28歳

記憶転移タイムライン

2025年のガンマ線バーストの被害

極超新星爆発(第一ユニ):2025年ガンマ線バーストでの全種の滅亡
極超新星爆発(第三ユニ):2025年ガンマ線バーストでの全種の滅亡
極超新星爆発(第二ユニ):2025年ガンマ線バーストの目標から逸れる
極超新星爆発(第四ユニ):2025年ガンマ線バーストの目標から逸れる

● マルチバースと物理定数

 ユニ(一つ)バース(宇宙)に対し、マルチ(複数)バース、つまり、多元並行宇宙とは、観測できない別の宇宙が存在するという概念である。マルチバースの存在を提唱する科学理論には、絶え間なく誕生する泡宇宙から、私たちの宇宙とは異なる世界線にある空間領域まで、そのシナリオは多岐にわたる。これらの理論に共通しているのは、私たちが観測できる空間と時間は唯一の現実ではない、と示唆している点だ。


 真空中の光速c、電子の電荷の大きさe、万有引力定数G、プランク定数h、これら物理定数は、宇宙のどこでいつ測っても変わらない、宇宙を今ある姿にしている物理の四大定数と言われている。ユニバースならそうだろう。しかし、多元並行宇宙、マルチバースそれぞれではどうだろうか?物理の四大定数はどのユニバースでも普遍だろうか?

● ユニバースの分岐とマルチバースの生成

 物理学者のヒュー・エベレットは、マクロな私たちの現実は異なる宇宙の重ね合わせである、という解釈を提唱した。我々が何かを決定するたびに宇宙は分岐して異なる現実が生まれ、ときにまったく違った結果が生じることもあるという。


 多元宇宙では、無限の数の地球がパラレルに存在している。ある宇宙のある人間が実験をして何かの確率を決定したとしても、そのようになる地球に自分が住んでいると証明しただけだ。ほかの世界の地球では違った確率が出ていることになるという。誰かが複数の選択肢の中からどれかを選ぶたびに、別の選択をした誰かが生きている宇宙が分岐していく。しかし、その誰かが知覚できる現実は、誰かその人間が生きている現実だけだ。


 分岐した宇宙は、我々がアクセスできない次元で重なり合っている。分岐した宇宙の中で複数のシナリオがパラレルに展開されるこのような考えを「レベル3のマルチバース」と呼ぶ。

● マルチバース間の移動

 マルチバースの間を移動することはできるか?というと、科学者は「それはできない」と述べる。科学者たちは、少なくとも今のところはマルチバースの間を移動することは不可能だと考えている。科学者たちは、我々の物理学はかなり堅固に確立されているが、これらが完全に間違っていない限り、マルチバースの間を旅することはできないと主張している。しかし、誰にも断言できるわけではない。何も証明されていない。


 では、人間活動程度で宇宙が分岐するだろうか?何らかの理由で、ある人間がするであろうことをしないだけで、確率性が揺らぎ別の宇宙に分岐してしまうだろうか?そんなことが起こると、マルチバース世界は無限の質量(エネルギー)を必要とする。

● 宇宙が無限に分岐するわけではない

 そんなことは起こりはしない。物理定数が変わってしまうほどの揺らぎ、例えば、超巨大ブラックホールとか中性子星の破滅的な消滅が起こって、光速が小数点以下数桁、十数桁、数百桁ほと変わってしまうとか、そういうことが起こらないと宇宙は分岐しない。


 では、何らかの理由で、ある人間がするであろうことをしなかった場合、そのユニバースはどうなるのか?というと、まるで意志があるかのように、そのユニバースはタイムラインを修正してしまうのだ。

● 二十世紀の4つのユニバースへの分岐

 さて、二十世紀半ばに、人間が観測し得ない、地球にその光が到達していない時点で、その物理定数が変わってしまうほどの揺らぎがほぼ同時に三度起きた。そうして、我々のユニバースは、4つのユニバースに分岐した。それまで生きていた人類はほぼ変わらなかった。しかし、物理定数が変わったので、時間軸が多少ズレてしまった。

シリーズ『A piece of rum raisin - 第2ユニバース』

シリーズ『A piece of rum raisin - 第3ユニバース』


シリーズ『フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス(Ⅱ)- 第4ユニバース』

シリーズ『A piece of rum raisin - 第1ユニバース』


 仮に、この4つの宇宙を第1、第2、第3、第4ユニバースと名付けよう。例えば、第1ユニバースは第2、第3、第4に比べ時間軸が25年ずれた。光速が0.0000000000000000000000000005%ほど遅くなったからだ。そのために、起こったことが異なってしまった。


 例えば、第1ユニバースでは、

  • JFKの暗殺が起こった。
  • ロバート・ケネディ―の暗殺が起こった。
  • ジョン・レノンの暗殺が起こった。
  • レーガン大統領の暗殺は未遂に終わった。

 しかし、第2、第3、第4ユニバースでは、

  • JFKの暗殺が起こった。
  • ロバート・ケネディ―の暗殺は起こらず大統領に就任した。
  • ジョン・レノンの暗殺は起こらなかった。
  • レーガン大統領の暗殺が起こった。

 私の小説の登場人物で言えば、第1、3ユニバースでは、森絵美という登場人物は暗殺されなかった。そして、彼女は物理学者だ。第2、4ユニバースでは、ニューヨークで1985年12月6日に銃で打たれて殺された。こういった細かな部分で分岐したユニバース同士は異なった事象が生じていた。

● ワームホールを通じた記憶データのユニバース間の移動

 しかし、二十世紀半ばに起こったことであり、この4つのユニバースは非常に近接していた。そして、どうしてかは神でもないとわからないのだが、この4つのユニバースはブラックホールとホワイトホールがワームホールで連結されていて、質量(エネルギー)のやりとりをしていた。もちろん、入り口のブラックホールで、潮汐力により、物質は原子レベル以下で粉々にされる。

 このワームホールを通って粉々にならない物があった。それはデータだ。なんとデータは原型を保ったまま、4つの宇宙を往来していた。なぜかはわからない。


 そして、人間の記憶というものも一種のデータである。シナプスの構成マップと電子のやりとりで組まれたデータセット。それがなぜか4つのユニバースを往来し、別のユニバースの似たような人間に転移してしまう。似たような人間を類似体と呼ぼう。類似体への記憶転移が起こる。


 太古の昔から、この4つではない、4つに分岐する前のオリジナルの宇宙と遥かに別れ離れてしまった別の宇宙同士でも類似体間の記憶転移は起こったようだった。まるで、モーゼ、キリスト、ブッダなどの預言者たちが未来のことを見えたように。むろん、太古の昔の人間だから科学的な説明ができたわけではない。だから、彼らはその現象を奇跡と表現した。

● ガンマ線バースト、電子、陽電子

 巨大なブラックホールや中性子星の崩壊により、地球生命を数度壊滅させたガンマ線バーストという現象がある。極めて方向性を持っているため、地球に命中しなければ被害はない。しかし、バーストの標準が地球に合った時、それは地球のヴァン・アレン帯を剥ぎ取り、地球生命に致命的な電磁波が地表に降り注ぐ。

 ガンマ線バーストで降り注ぐガンマ線は、対消滅、対生成して、電子と陽電子を生む。陽電子は反物質であり、物質の時間軸に逆らって、時間を遡る。ガンマ線バーストにかぎらず、雷でもガンマ線、電子、陽電子が生成される。

 つまり、落雷や天文現象により、陽電子が生成された時、偶然、その範囲にいた人間の記憶データが陽電子に乗り、ワームホールを通って、別のユニバースに移動する可能性がある。事実、それは人類が想像する以上に頻繁に起こったことなのだ。

● マンデラ効果

 過去の記憶がいつの間にか事実と反するものになってしまっている現象を、「マンデラ効果」と言う。


 アパルトヘイト撤廃に尽力した南ア共和国のネルソン・マンデラは、2010年には存命なのだが、マンデラは1980年代に獄中で亡くなっていたものと思い込んでいた人がけっこういたというのだ。80年代にマンデラが死んだという記憶を持つ人々は、彼の葬儀の際には南アフリカの住民たちが大変嘆き悲しみ、逝去後には南アフリカの各地で暴動が起こったと言っている。実際はそのような暴動もない。マンデラは、1999年に大統領を辞職して政界から引退している。


 ネルソン・マンデラだけではない。元WBA&WBC統一世界ヘビー級チャンピオンであるモハメド・アリ、一部の人々は彼が1990年代からせいぜい数年前の間にすでに亡くなった人物であったというのだ。さらに、2005年にアメリカ南東部を襲ったハリケーン・カトリーナによる大災害が2005年の8月ではなく、不思議なことに同年4月だったと記憶している人が無視できない数、存在しているという。


 フィオナ・ブルームというアメリカ人女性は、2010年にマンデラ、アリは既に亡くなっている、ハリケーン・カトリーナの災害は2005年の4月だった、という記憶を持っていて、しかし、事実とは違うようだ、ということを彼女のブログに書いた所、大勢の人たちから「自分も同様の記憶がある」という反響があったのだ。


 2010年時点で「ネルソン・マンデラ氏は1980年代に獄中で亡くなっている」、「モハメド・アリは1990年代にすでに亡くなった人物」、「ハリケーン・カトリーナの災害は2005年の4月」という事実とは異なる記憶を持つ人が非常に多数いたということなのだ。このおかしな現象をフィオナ・ブルームは、「マンデラ効果」と名付けた。


 一つの説として、「マンデラ効果」はパラレルワールドに居たときの記憶ではないかと言われている。人間はこれまで何度もパラレルワールドと現実の世界を行き来しており、そのたびに記憶が書き換えられている、という説がある。そして、パラレルワールドに居たときの記憶が一部でも残っていると、それが「マンデラ効果」になると言われている。


「ネルソン・マンデラ氏は1980年代に獄中で亡くなっている」、「モハメド・アリは1990年代にすでに亡くなった人物」、「ハリケーン・カトリーナの災害は2005年の4月」という記憶は、パラレルワールドに居たときのもの、別の世界で起きたことだという可能性がある、ということだと、フィオナ・ブルームは主張するのだ。

● マンデラ効果、これが最初か?

 有史以来、別のユニバースとの記憶転移が起こったのは、マンデラ効果、これが最初か?有史以来、類似のことがいくども起こったと仮定する。


 例えば、モーゼに記憶転移が起こったとしよう。旧約聖書の出エジプト記には、モーゼはイスラエル人たちを『雷と稲妻が走る炎と煙に包まれた山に案内する』と記述がある。その中を予言者モーゼは神から十戒を受けるために頂上まで登っていった。『雷と稲妻が走った』のだろう?


 『雷と稲妻が走る』中、自然現象として記憶転移が起こったことは十分考えられる。モーゼがシナイ山にいた時に稲妻によるガンマ線、電子、陽電子の対消滅、対生成が起きなかったわけでもあるまい。


 あるいは、新約聖書のマルコによる福音書にも雷の話がある。第九章だ。


「また、彼らに言われた、『よく聞いておくがよい。神の国が力をもって来るのを見るまでは、決して死を味わわない者が、ここに立っている者の中にいる』。六日の後、イエスは、ただペテロ、ヤコブ、ヨハネだけを連れて、高い山に登られた。ところが、彼らの目の前でイエスの姿が変り、その衣は真白く輝き、どんな布さらしでも、それほどに白くすることはできないくらいになった。すると、エリヤがモーセと共に彼らに現れて、イエスと語り合っていた。ペテロはイエスにむかって言った、『先生、わたしたちがここにいるのは、すばらしいことです。それで、わたしたちは小屋を三つ建てましょう。一つはあなたのために、一つはモーセのために、一つはエリヤのために』


そう言ったのは、みんなの者が非常に恐れていたので、ペテロは何を言ってよいか、わからなかったからである。すると、雲がわき起って彼らをおおった。そして、その雲の中から声があった、『これはわたしの愛する子である。これに聞け』。彼らは急いで見まわしたが、もはやだれも見えず、ただイエスだけが、自分たちと一緒におられた」


 どうだろうか?モーゼもイエスも雷、稲妻から未来記憶を得たとしたら?


 モーゼやイエスに限らない。悪魔崇拝者にとって、稲妻はサタンの象徴だ。秘密結社のイルミナティは『光を与える者ルシファー』を象徴するものとして稲妻を利用する。カバラの生命の樹の象徴は稲妻だ。異教の神秘宗教では、最高神が『稲妻や雷を伴って空を飛ぶ蛇』として描かれることがあった。


 ギリシア人とローマ人は、稲妻と雷を発する天の王座に座る、怒れる神々ゼウスとジュピターを崇拝していた。稲妻のシンボルを現代において復活させたのは、ナチスだった。ナチスの収容所で働いていた医師は、円形の中に稲妻が入ったシンボルを着用していた。


 秘密結社のイルミナティは、男根のシンボルを稲妻と同一視した。その起源は密教にあった。密教では、稲妻は、男根の形をした杖、宝石、リンガム(ヒンドゥー教のシバ神の象徴として崇拝される、男根をかたどった長円型の石) 、魔法の杖であると教えられた。


 さあ、これらのことをどう解釈する?

● 第3ユニバースで起こったこと

第 7 章 第三ユニバース:高エネルギー加速器研究機構(4)
2010年5月11日(火)


 ジュネーブのCERN(セルン)から参加している島津が、疑わしそうな顔で小平に質問した。「先生、確かにマンデラ効果の話は理解できます。私の記憶を探っても、この世界では、ジョン・ケネディは暗殺された、ロバートは暗殺されず第37代アメリカ大統領に就任した、レノンは生きている、これらの記憶と、ジョンとロバート・ケネディは暗殺された、レノンの暗殺の記憶はない、という第一ユニバースの私の記憶とがあるのは事実です。LHCの熱暴走以前には、ロバート・ケネディの暗殺の記憶などありませんでした。しかし、モーゼとイエス、イルミナティ、ギリシャ・ローマ神話、ナチス、ヒンドゥー教は関係のない話では有りませんか?」


「島津くん、いい指摘をしてくれた。確かに、マンデラ効果は理由はともかくとして、現象としてわれわれ七人に起こったことなので事実として認めざるを得ない。それに対して、モーゼやイエスなどの話は荒唐無稽に思える。


 まずは、マンデラ効果から整理してみよう。今回の場合、まったくの偶然からLHCの熱暴走が発生してガンマ線フラッシュが人為的に起こったが、十分な出力のガンマ線フラッシュを発生する世界の円形・線形加速器など数が知れている。CERN(セルン)の出力でさえ数兆電子ボルトだ。高エネルギー加速器研究機構(KEK)のJ-PARKメインリングで300億電子ボルトだ。幸か不幸か、LHCの熱暴走でガンマ線フラッシュの十分な出力を得られたが、こんなことはそうそう起こることじゃない。というか、有史以来初めて、人為的なガンマ線フラッシュによって記憶転移が起こったということだ。それ以前の記憶転移はすべて異なる並行宇宙間で発生した相互の落雷現象で起こったと思われる。


 次に、記憶転移が起こる対象の話をしよう。第一と第三ユニバースでは、われわれ七人は、同じ性別、同じ姓名を持っている。年齢もほぼ同じだ。第一と第三ユニバースは非常に近しい並行宇宙と言える。だから、第一のわれわれ七人とこちらの七人は非常に似ている。これを類似体と呼ぼう。この類似体間では、記憶の同期・同調が容易なのではないかと推測している。だから、七人まとめて記憶転移が起こり、マンデラ効果が発生したのではないか?」


「既視感(デジャブ)やアプリオリな知識(先天的知識)などは、自然現象での記憶転移が関わっているような気もする。どこかで既に経験したことがある、しかし、実際はそんな経験などしていない、という既視感(デジャブ)、経験してもいないのに知っているというアプリオリな知識は、他の並行宇宙の類似体からもたらされた記憶かもしれない」


「われわれ七人は、性別も生まれも年齢も近しい類似体が存在するが、性別も生まれも年齢も異なる類似体だって存在するはずだ。そういう類似体間での記憶転移は、輪廻転生/リーインカーネンション、生れ変りという現象なのではないか?」


 モニタースクリーンのアイーシャが「小平先生、そう言えば、私の故郷のスリランカでは、仏教の影響なのかもしれませんが、他の国に比べて、生れ変りの事例が多いのですよ。民間伝承ですけれども。それに雷の多い国なのですよ」と言った。
「アイーシャ、それもまた可能性のひとつだ。仏教の影響、仏教の信仰は、類似体間の同期・同調性を促進するのかもしれん」


「仏教、輪廻転生で言えば、チベット仏教のダライ・ラマ法王制度は世襲制でもなければ、選挙で選ばれるわけでもありません。先代法王が亡くなられた後、法王の次の生まれ変わり(化身)を探す『輪廻転生制度』を採用していますね」
「それも興味深い話だ。法王の次の生まれ変わりではなく、異なる並行宇宙の類似体間の記憶転移が赤子に起こることだってありうるのだ。転生者(化身)ではなく、記憶転移者(類似体)なのかもしれん」


「さて、次に、モーゼやイエスなどの話だが、有史以来、自然現象としての多元並行宇宙間の記憶転移が無数に起こったとしよう。人々は、それを輪廻転生だとか、多重人格だとか、心霊的理解、超常心理学的理解で片付けてきた。その内、誰が最初の人間かわからないが、教団の始祖みたいな人間が『これは別の宇宙からの未来の記憶が雷、稲妻が原因の自然現象で起こっていることじゃないか?』と気づいたとしたら?」


「むろん、記憶転移の時間的遡及性はあるのだろう。落雷によるガンマ線フラッシュの出力では、何百年、何千年も記憶を飛ばせるわけじゃないと思う。それほど未来の類似体の記憶ではなく、その頃は科学知識も十分ではない。しかし、始祖は頭のいい人間だったのだろう。そのような記憶の未来からの伝搬が起こることを前提に、ユダヤ教だとかキリスト教だとか、イルミナティ、ギリシャ・ローマ神話、ナチス、ヒンドゥー教、仏教などの団体を組織したとしたら?」


「その始祖みたいな人間は、宗教体型を作り上げた可能性もある。輪廻転生したものを探せ、多重人格者を探せ、そのものたちを組織に迎え入れろ。育成しろ。知識を共有しろと。始祖とその団体は、社会の闇深く潜伏した。科学者、神秘論者、錬金術師、ある宗教で異端とされた宗派など正統派宗教や社会などの粛清から逃れる人たち、団体と親交を結んでいった。何百年、何千年もかけて、新たなメンバーを吸収し力を蓄えていったのかもしれんな。まあ、これは荒唐無稽な話だがね」