フランク・ロイドのブログ

フランク・ロイドの徒然

A piece of rum raisin - 単品集、アイーシャとアキヒコ

シリーズ『ヰタ・セクスアリス』とシリーズ『A piece of rum raisin』は合体して、


1)ヰタ・セクスアリス(Ⅰ)雅子編 完了
2)ヰタ・セクスアリス(Ⅱ)第4ユニバース編 90%
3)A piece of rum raisin - 第2ユニバース 65%
4)A piece of rum raisin - 第1ユニバース 85%
5)A piece of rum raisin - 第3ユニバース 15%


この順番で整理中です。


だけど、取りこぼしたエピソードがあって、1)~5)にはめ込むのが難しいものを集めてみました。

アイーシャとアキヒコ


 ここは、どこのユニバースだかわからない世界。


 しかし、運命というのだろうか、別のユニバースでつながりのある生物は、他の宇宙でもつながりを持つものだ。


 アイーシャは、別の宇宙では、物理学者で、記憶転移装置なんてものを開発している。地球のガンマ線バーストによる種の大量絶滅を防ぐために。彼女はアイーシャ・ジャヤワルダナ博士で、CERN(セルン)に島津洋子とともに勤務している。


 しかし、この宇宙では、医者で人妻だった。

UL304便の機上、1986年12月25日

 私はエアランカ、UL304便の機上にあった。海外工事現場のしがない現場監督が職業である。


 半年ごとの日本への一時帰国の権利は9月だったのだが、現場が忙しく、取りそびれている内に、いつの間にか12月になり、気づいてみればクリスマス前は満席。 クリスマス当日に席があるという。それもがら空きで。


 21世紀では、1980年代の旅行者の数の数十倍が移動している。だから、たとえクリスマス当日でも、その翌日でも席は満席だ。


 しかし、おおらかだった1980年代では、クリスマス当日に国から国に移動するなどという人間はまずいない。それも田舎路線のコロンボ-シンガポールならなおさらだ。


「だから、アキヒコ、イブの前1週間は満席、クリスマスの後、26日以降は帰国者が多くてダメ。クリスマス当日なら空いているわ、それもがら空き」と私の会社の秘書がいう。私の仇敵だ。


 なんでも私をからかいのネタにする22才の生意気な娘だ。こんな女と結婚する男のツラを見てみたいものだ、と私は思った。


「わかった、それでいい、25日の便を取ってくれよ」と私。
「そんなに日本に帰りたいの?コロンボだって楽しい年末年始が送れるわよ、彼女さえいれば・・・いる?」と彼女。
「いないね。いつ、そんな時間が取れるというのか?」
「あ!わかった!日本で待っている女性がいるってことね?」
「それもない、とにかくいいから25日の便を頼むよ」
「もてないのねぇ~」
「うるさいなあ・・・」


 そのころのコロンボ空港は連結アームなどなく、増設される予定のDepatureビルも出来ていない。オランダ政府の援助で十数年前に造られた小さなDepature/Arrival兼用のビルがあるだけ。


 乗客はバスで駐機している飛行機に乗り込む。午前1時40分発、シンガポール着午前8時5分。シンガポールで乗り継いで、成田に向かう。


 秘書が言う。「コロンボ-成田のダイレクトフライトなら他の日も空きがあるのに・・・」
「だから、シンガポールに寄って、一泊してから成田に行く、っていっているでしょうに!」と私。
「シンガポールで悪いことをするのね?」
「日本に持っていく緊急の書類を受け取るんです!」
「だって、クリスマス休暇中でみんな休みじゃないの?」
「それは欧米の国、日本はカレンダーの新年前後が休みなんですよ。日系企業に勤めているんだから、日本文化も知っておいて欲しいものだね」
「アキヒコが教えてくれなきゃあ、わからないじゃないの?」ああいえば、こういうヤツだ。


 飛行機へのバスの中もがら空き。私のボーディングパスは44C。後ろ側のアイル(通路側)席だ。シンガポールエアに以前勤めていた秘書が、これだけはありがたく手配してくれた。


「ビジネスにするよりも、がら空きならエコノミーの方がいいわよ。DEFG席で寝転がってもいいわけだし」と。「アイルサイドでいいよ。Cでいい。飛行機の一番後ろ寄りに取ってよ」「う~ん、トライスターだから44Cなんかどう?」「それでいい。ありがとう」


 飛行機は後部にいくに従って、尾翼に向かい幅が急に狭まる。だから、44ともなると、真ん中の4シートを確保するために、左右の窓側のシートは、3席が2席になる。だから、44はAのあと、Bがない、隣はCということだ。早めの1番最初のバスに乗った乗客は20人足らず。だから、44Cの前は、10列近く誰もいない。


 こりゃあいいや、と思って、A、C両席を占有して寝転がって本を読んでいると、黒いストッキングが右の視野に入った。


「エクスキューズ・ミー、Are there 44A? I think it's mine!」という若い女性の声が降ってきた。


 起きあがると、私と同年配と思われるスリランカ女性がアタッシュケースをぶら下げてたっている。こんながら空きで、なんで隣席にチェックインカウンターは席をリザーブするんだろ?


「おっと、失礼。隣席に誰かが座るとは私はまったく期待していなかったものですから・・・」と私。英語を日本語に直すと、こんな日本語になってしまうのは許して欲しい。


「私、チェックイン前にこの席をエージェントに言って確保したの」と彼女。「私も同じ。会社の秘書に確保してもらったんだ」と私。


 ちょっとお互いにらみ合う。周囲は前後左右、空席で充ち満ちている。反対側の44K(窓側)だって空いている。


「OK。わかった。とりあえず、キミの荷物をコンパートメントにいれようか?」と私。「お願いするわ」と彼女。


 席に座って彼女が言う。「だって、リザーブしたんだし、離陸まではこの席に座らないと・・・」と航空規律に律儀な彼女。


「私も同じ。あとで私が席を換わろう。オポジット(反対側)の44Hだって空いている」「わかったわ」


「ところで、私は、アイーシャ。アイーシャ・リンドバーグと言います。アイーシャと呼んで」と彼女が言う。


「私は、アキヒコ、アキヒコ・ミヤベ。アキヒコで結構・・・ところで、アイーシャ、立ち入ったことをお聞きしますが、国籍はスリランカですか?私は日本人ですが・・・」と彼女に聞いた。だって、名字がリンドバーグじゃないか?


「スリランカよ・・・ああ、リンドバーグね。結婚してサー・ネーム(名字)が変わったの。英国人、英国人医師と結婚したのよ。私もメディカル・ドクター。旧姓は、スリランカでもポピュラーなジャヤワルダナだけど・・・」


「へぇ~、ドクターとは思わなかったな。私はエンジニア。コンストラクション・エンジニアです。スリランカに駐在している」
「あら、ヘルメットをかぶっているようには思えないわね」
「ありがとう、でも、サイトエンジニアだからヘルメットはかぶるよ」


「ところで、アイーシャ、なんで44Aなの?」と私は彼女に訊いた。
「飛行機後尾でしょ?墜落する時にもっとも生存率が高いって聞いたのよ。」とアイーシャ。


「なるほど。私は、秘書に言ったらここになった。飛行機の後ろの方ってリクエストしたらね」
「これも何かのFATE(運命)なんでしょうね。普通にチェックインしていたら、隣り合わせにもならなかったでしょう。これだけガラ空きなんだから・・・」


「そうだなあ。アイーシャのファイナルデスティネーション(最終目的地)はどこなの?シンガポールからどこかにいくの?」
「今、シンガポールが私のレジデンス(居住地)なの。彼氏がシンガポールの病院勤務で、私は大学の研究室。部屋代を節約するので、大学の講師専用棟にいるのよ」


「ああ、ブオナ・ビスタか」
「よくご存じね」
「知り合いが大学で教えていて、そういっていたんだ」
「あなたのファイナルデスティネーションは?」
「東京、成田。これから帰って、シンガポールの支社に寄って、書類を受け取り、日本に帰る。実家は横浜」
「私、東京に行ってみたい。ディズニーランドって面白そう」


 会話も弾んだ。「アイーシャ、あなたさえよければ、シンガポールまで旅の仲間ということで、このままの席でどう?」と私。「私はそれで結構よ」と彼女。


 アイーシャは、ブスの多いスリランカ人には珍しく、インド美人のようだ。彫り深く、鼻高く、足がすらっとして、黒のビジネススーツと同色のストッキングが似合う。胸の当たりまでとどく漆黒の長髪。ほのかに匂うディオールの香水。


 シンガポールまでの飛行時間は、約4時間。


 乗客も少ないので、ディナーが回ってくるのもすぐだし、お酒もよく勧められた。彼女はブランディーを飲んでいる。


「そのブランディー、VSOだろ?」と私。
「そう、ちょっとまずい」と彼女。
「クルボアジェーのXOがあるんだ。デューティーフリーで買ったやつが・・・」
「それ、あなたのお土産じゃないの?」
「いいや、自分でシンガポールであけて飲もうと思ったから。今あけてもいい」と彼女の答えを待たずに席を立って、上のコンパートメントから酒を取り出す。


 21世紀の飛行機は実にうるさい。自分で買った免税の酒を機内で飲めなくなってしまった。おおらかな80年代は、免税の酒を機内であけて飲むのも自由だったし、喫煙も自由だ。44はむろん喫煙席。アイーシャももちろんタバコを吸う。


「アイーシャ、このお酒でいいか?」と酒瓶を見せて彼女に聞く。
「クルボアジェー、好きなのよ、私。ロックで飲むのよ、いつも」と彼女。話せるなあ。酒飲み、好きだ。


 私は、スチュワーデス(フライトアテンダントなんて呼び方は糞食らえの時代だ)をコールして、氷をたくさん持ってきて貰った。その頃のグラスはプラスチックじゃない。ちゃんとガラスだ。安物だけど。


「ミスター・ミヤベ、氷、バケットで持ってきたわよ、ナッツもこれでいかが?」とスチュワーデス。こういう気が利く女性は電話番号を聞きたいところだ。むろん、自宅の。携帯電話などない時代だから・・・


「Cheers(乾杯)!、アイーシャ!」
「Cheers(乾杯)!、アキヒコ!」


 飛行機後部で、誰にも邪魔されずに美人の既婚女医と酒が飲めるなんて機会はそれほどない。ざまをみろ、わが社の秘書めが!


 ところで、コロンボ-シンガポール便は、ベンガル湾を斜め下、南南東に横切る。北緯6度のコロンボと赤道直下のシンガポール。その途中で、インド領アンダマン諸島、ニコバル諸島上空も通過する。


 この海域は、低気圧が発生すると荒れることが多く、それもしばしば低気圧が発生する。海水面の温度も高いので、積乱雲の発生が非常に多い。だから、エアポケットに落ち込むことも多いし、積乱雲に突っ込まないといけないことも多い。もちろん、積乱雲の中は雷が四方八方でとどろいている。


 そういうフライトなのだ。


 フライト中のセックスをスカイハイと呼ぶ。これが予想外に多いのだ。知り合いの男女、見知らぬ男女が、1気圧以下の機内圧の中で大酒を飲む。そうすると、アルコールの回りが地上の5倍にも達する。結果、機内で欲情して、セックスにおよぶたわけ者が多いということだ。


 スチュワーデスは、この行為を注意して、停止しなければいけない義務がある。機内は、所属する国家の領海ということ。つかまれば、厳重注意、やめなければ、その国家の法律に従い処罰される。実刑も多い。


 ただし、他の乗客の迷惑にならなければ、乗務員はお目こぼしをすることも多い。むしろ、目の保養と考えている乗務員だっている。これは、乗務員から聞いた話だ。


 と、


 よからぬ想像を私とアイーシャの間でされた方も多いだろうが、私よりも酒の強いアイーシャ、ブランディーが半瓶空いても別に変わった様子もない。


 彼女の専門の血液学の話、彼女の彼氏の外科の話、病院で起こったこと、医師と看護婦の不倫の話。


 私も病院でアルバイトをしていたので、内視鏡の話、最新のファイバースコープ、手術室の話。淫靡な看護婦寮の話。話はドンドン落ちていく。


 周囲はひっそり。乗客は大多数が眠りについている。メインの照明はおとされ、手元灯だけ。読書をしている人間は2~3名にしか過ぎない。スチュワーデスも飛行機前部に移っていて、飛行機後部には私たちしかいない。


 かといって、私とアイーシャが身体を接するなんてこともなく、ただ、他の乗客に迷惑がかからないように、小声で次から次へとバカ話しを繰り出していく。


 スリランカの女性というのは、旅行者から見ると真面目で大人しく、貞節そうに見えるが、実際には、ジョークが好きで、猥談が好きで、不倫などもかなり多い。非常に気さくで話しやすい女性達なのだ。もちろん、社会階層、家庭の状態で、その差はあるものだが。


 なぜか、彼女と飲んでいると卑猥なジョークを思い出した。


「アイーシャ、イタリア語を知っている?」
「知らないわ、アキヒコ」
「ふむ、日本語は?」
「もちろん、ノーよ」
「そう、ええっと、イタリア人は女性に手が早いよね?」
「英国人でも早い人がいるわよ?」
「でも、平均でいうと、イタリア人男性、非常に女性に手が早い。日本人女性は、非常にウブな面がある」
「ふんふん」
「ある日のローマで、その典型的なイタリア人が街を歩いていたとしたまえ」
「それで?」
「そのイタリア人、歩いていて、オープンキャフェで本を読んでいる可愛い日本人女性を見た。このイタリア人、日本語のある単語を経験上知っていたんですな」
「うんうん」
「この男性、つかつかと日本人女性に歩み寄って、声をかけたということ」


 ・・・


イタ公「お嬢さん、こんばんわ、いいお天気で」
日本女「こんばんわ、本当にいいお天気!」
イタ公「どちらからお越しで?」
日本女「東京からまいりました」
イタ公「おお!日本人の方でしたか?ご旅行で?(見ればわかるじゃないか?)」
日本女「そうですわ」


イタ公「もう、ローマは長いのですか?」
日本女「3週間になります」
イタ公「3週間も!それでは、さすがに日本食が恋しくなっているんじゃありませんか?ローマ、日本食レストランも少ないし」
日本女「そうですねえ・・・そういわれれば、パスタやシーフーヅばかりで、日本食を食べていませんわ」


イタ公「日本で、え~、ツナのことをなんて言いましたっけ?え~と・・・」
日本女「カツオのこと?」
イタ公「(ゾクゾクして)、そうそう、カツオゥ(と、ちょっとイタリア風に訛る)!」
日本女「カツオかぁ~、食べたいわぁ~(イタ公がますますゾクゾクするのにも気付かず・・・)」


イタ公「私のアパートメントに、新鮮な、もちろん生ですよ、カツオがあるんですよ、大きくてウェットでとりたて。生きているみたいな・・・」
日本女「あら?!」
イタ公「でも、なんでしたっけ?日本の『サシミ』?っていうんですか?それの調理方法を知らないんですよ、ボクは・・・」
日本女「まあ?!」


イタ公「『ワサビ』っていうのと、ソヤソウスもあります」
日本女「まあまあ・・・」
イタ公「どうです?いいワインもある。ボクのアパートメントで、カツオゥをつまみにワインで一杯というのは?」
日本女「え~、どうしましょ?」
イタ公「カツオゥも悪くなってしまいますし、是非是非、お寄りください、今からでも!」
日本女「お言葉に甘えましょうかしら?」
イタ公「そうと決まれば話が早い!ちょ、ちょっと、お勘定!」


 日本女性は、イタ公のカツオゥを見せられて、最初は躊躇しましたが、そこはイタ公、ウブな日本女性をホイホイうまく持っていくのが得意。彼女にカツオゥの調理法をいろいろ伝授して、彼女はその調理法に非常に関心を示して、おいしくおいしく、イタリアのカツオゥを頂きましたとさ。食後にはおいしいワインを。ワインを飲んだら、また、カツオゥを賞味して・・・


 ・・・


「おしまい」と私。
「ちょっと、ジョークのポイントがわからないんだけど・・・」
「ああ、忘れていたな。アイーシャ、日本語のツナの意味の『カツオ』、イタリア語の『カツオゥ』になるとどういう意味か、想像できる?」
「まったく想像出来ないわ」


 私は小さい声で彼女の耳元に囁いた。「イタリア語の『カツオゥ』の意味は、男性性器、だよ」
「ま!アキヒコったら!」
「ホントだよ、この話」
「キャハハハ」


 非常に楽しい2時間が過ぎていった。


 そして、飛行機はアンダマン諸島を越えて、ニコバル諸島上空に。


 急に、機内のメインの照明がつく。"Fasten Sheet Belt"のサインが点灯する。機内アナウンスが流れる。


「現在本機はニコバル諸島に近づいておりますが、前方に低気圧、積乱雲が発生している模様です。乗客の皆さんは席に戻り、シートベルトをしっかりしめてください」


 おっと、やれやれ、とシートベルトをする。アイーシャも同じ。ブランディーの瓶を座席の前のポケットに突っ込んで、テーブルを戻す。グラスは・・・ちょっと残っているのを飲み干して、やはりポケットにいれる。


 急にエアポケットに入ったようで、機が数百メートル落ち込んだ。ジェットコースターの下りと同じ。普通のエアポケットよりもかなりひどい。


 機はまた上昇した模様だが、ガタガタと振動が続き、窓の外は雷光が見える。それがどんどん近づいてきて、機体の付近をかすめるのがわかる。


 アイーシャは怖がっている。


 私は、「よくあることだよ、アイーシャ」といった。「でも、アキヒコ、怖いわ」と彼女。


 しかし、よくあること?今日のよくあることはちょっとひどい。気象予報で回避出来ない話だったのか、気象予報がはずれたのか?こんな雷雲にまともに突っ込むことはあまりない。機体の周囲でそこいら中が雷光で満ちている。


「アイーシャ、大丈夫?」
「アキヒコ、私の手を握っていて」
「わかった」


 アイーシャの右手を左手でしっかりと握った。それでも、彼女はガタガタふるえる。彼女の左で雷光が炸裂する。悲鳴を上げる彼女。


 私は、窓から彼女を遠ざける(いまさら席をかわれるわけもない)ために、席の間のハンドホルダーを持ち上げて、彼女の肩を抱く。私の方に身体をよせる彼女。


 私の方に身体を傾け、彼女は上体を預けてくる。彼女の頭の後ろを左手でささえ、右手で彼女の背中をさする。彼女は私の胸に顔を埋める。私は彼女を抱きしめる。この状態が20分ほど続いた。


 そのうちに、雷雲群を通過したのか、だんだんと機体の震動は収まり、機は常態を取り戻しつつあった。


 変な話で、勃起してしまった。これは、美人を抱きしめているのと、人間が本能的に危険な状態になったとき、性的興奮を覚えるという理由からじゃないかと思う。ちょっと恥ずかしい。気付かれないことを祈るだけだ。しかし、彼女の左肘が私の勃起した部分に触れてしまう。


 後から彼女が言った話だが、危険な状態で性的興奮を覚えるのは、何も男性だけではないということ。彼女も濡れてしまったそうなのだ。いや、そうなのだ、ではなく、数時間後、実際にその濡れがひどいことを確認した。


 アイーシャは、顔を上げて私の顔を見る。「ゴ、ゴメン・・・」と私。無言で首を振るアイーシャ。


「落ち着いたみたいだね、もう大丈夫のようだよ・・・」
「このままでいて・・・」
「ちょっと困っているんだけど・・・」と私。
「いいから、このままでいて・・・」 私の股間の状態を知ってか知らずか彼女。


 その内、スチュワーデスが回ってきて、大丈夫ですか?と聞くので、水、アイス、グラスを下さい、と頼んだ。飲まないではいられない。 いや、雷が怖い、という話じゃなくて・・・


 水、アイス、グラスがくる。スチュワーデスが、照明をおとしますけど、必要で有れば機内灯をつけてくださいね、という。ありがとう、という私。私の胸に顔をつけたままのアイーシャ。


 メインの照明がおち、周囲は薄暗い。アイーシャに抱きつかれて、姿勢がキツイ中で、なんとかブランディーロックを作り、「アイーシャ、ブランディーだよ」という。「ふるえてグラスが持てないわ、アキヒコ」という彼女。


「う~ん」とどうしたものかと思っていると、「飲ませてくれない、口移しで」というアイーシャ。


 私はちょっとためらったが、ブランディーを口に含み、彼女の唇に触れる。ブランディーが私の口から彼女の口に移る。ブランディーを飲み込むと、彼女は舌を私の口に差し入れてきた。


 ニコバル上空から、シンガポール上空で機体が着陸姿勢になるまで、私たちはずっとキスをしていた。シンガポールの日の出は、365日午前6時30分。朝焼けが窓から差し込み、彼女の漆黒の髪が輝く。


 彼女が唇を離して、「アキヒコ、今日はどうするの?」ときく。「ホテルはアーリィチェックインの予約を入れていないから、2時までは荷物を預けて、街をぶらつこうかと思っていたんだ」と私。


「ねえ?」
「何?」
「・・・ブオナ・ビスタの私の部屋に来る?」
「ちょっと、アイーシャ、それは・・・」
「ハズバンドは、今、ヨークシャーに戻っていないのよ。だから、私の部屋にはだれもいない・・・」
「・・・い、いくよ」と私。


 イミグレの通過も、ラゲッジが出てくるのを待っている時間もいらだたしかった。


 空港タクシーをひろい、「ブオナ・ビスタ!」という。車内で、私たちの手はお互いの太腿の上に。


 ・・・


 3時間後。


「あのねえ、アキヒコ?」
「ん?」
「あの時、私も濡れていたのよ、あなたのカツオと同じように・・・」
「わかるよ。この部屋に入って5分後にわかった。キミの下着、使い物にならなくなっているじゃないか?」