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フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス(Ⅱ)第六話 洋子 Ⅰ 👈NEW

フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス(Ⅱ)第六話 洋子 Ⅰ

●目次、登場人物

●クリスマスイブのホテル・バー、1978年12月24日(土)

●女性弁護士、1978年12月24日(土)


1978年12月24日(土)あらすじ

 どうも、あのあと(第五話 真理子、1978年12月5日)、メグミとも真理子とも気まずくなったのは仕方がない。そりゃあそうだ。しばらく女性とは距離を置こうと思った。


 さて、ぼくはかなり前から新橋第一ホテルでアルバイトをしていた。しかし、このバイト、これはかなりキツかった。朝、大学に行き、夕方、新橋へ。だいたい、午後5~6時頃に新橋第一ホテルに着く。


 バーのチーフの吉田さんが、「明彦、クリスマスイブは絶対に休むなよ、終わったらロイヤル・ハウスホールドを際限なく飲ませてやる」と言う。ロイヤル・ハウスホールド(Royal Household)、英国王室御用達のスコッチの絶品。バランタイン30年よりもさらにさらに洗練された味。バーのアルバイトは普通飲ませて貰えない。とりあえず「う~ん、え~、まあ、いいですよ」とぼくは吉田さんに答えた。


 ということで、24日午後5時に出勤。いつものごとく、社員用のレストランで夕食を取る。ホテルの社食だからこれがおいしい。クリスマス特別メニューで、ローストビーフ、ヨークシャープディングなどディッケンズの小説で出てくる料理がいっぱいで、楽しめた。


 11時になって、急に潮が引くように客がいなくなっていく。外の銀座の風景が美しい。第1次オイルショックの時はネオンも消えて寂しかったが、今回のオイルショックでは、あまりネオン自粛の声も聞かれない。


 カウンターには客が一人もいなくなった。フロアのアマネさんも暇そうにしている。


 階段を降りてL字型に座り心地の良さそうな樫の木づくりの10席ほどのカウンターが有り、そこから建物の端までは2席から4席のテーブル席が設けられている。


 アマネさんとフロアを見てよそ見していたぼくに、急に「ピンクジンを頂戴、タンカリー、ダブルで」とカウンターから注文が来た。いつの間にきたのか、チェアを引く音が聞こえなかった。「いらっしゃいませ。ピンクジン、タンカリーベースでダブルですね」とぼくはカウンターに目を戻して復唱した。


 女性だった。ビジネススーツを着ている。下がパンツなのかスカートなのか、カウンターからは見えない。非常に美しい。ネイビーブルーのビジネススーツはオーソドックスだが、シャツは白のフリルがついているかなり高価そうな代物。プラチナの揃いのピアスとネックレス。四角いダイアモンドのペンダント。カウンターにおいた手には結婚指輪はない。バーテンは瞬時に客層を見るもんだ、と吉田さんが言っていた。


 ミキシンググラスにロックアイスを入れ、タンカリーのダブルを注ぐ。ちゃんとメジャーグラスで計って注いでから、ちょっとハーフをグラスから足し増す。このおまけが客には重要だ。売り上げが上がる。


 中指と薬指を折り、親指と人差し指、小指でミキシングスプーンを支えて、軽くステアする。アンゴスチュラ・ビターズを数滴。ミントの葉を2枚。ピンクジンの出来上がり。彼女の前にコースターをだし、グラスをそっとおく。我ながら流れるような作業だ。


「おいしいわ」と彼女。ぼくもつられてニコッと笑う。


「クリスマスなのに大変ね?」と彼女がぼくに言う。「忙しいですが、イブにバーが閉まっていたらお客様がお困りになります」と私。

「お若そうね?」

「え~、大学生なんです」

「あら?ここに勤めているのじゃないの?」

「夜だけですよ」ぼくはグラスを磨きながら答える。


「いいわねえ、イブなのにやることがあって・・・」と彼女。「イブなのに、ホテルのバーでやることもなくピンクジンを一人飲んでいる寂しい女もいるのよ。今日も大変だった、クライアントと打ち合わせして、その後、食事。2次会も適当につき合って、ホテルに帰ってきたの。金沢から出てきたから知り合いもいないのね、あ~あ・・・うん、ゴメンごめん、愚痴が思わずでちゃったわね」と彼女はニコッとぼくに微笑みグラスを掲げて言った。素敵な笑顔だ。


「それは大変だったですね」とぼくはグラスを拭きながら言った。

「キミ、仕事が終わった後はどうするの?終電もないでしょ?バーが閉まるのは1時よね?」と彼女が訊く。

「ホテルの従業員階の一室に二段ベッドがおいてあって、バーの従業員は始発まで仮眠できるようになっているんですよ」とぼく。


「へぇ、そぉ?」と彼女が言う。ちょっと考えて、多少躊躇しながら彼女が小声で言った。「私ね、部屋が9階なの。903。ほら、この鍵」と真鍮のキーホルダーとキーを私に見せる。「キミ、その仮眠室、抜け出せるの?」と彼女。「え~、誰がいつ出て行った、なんて、同室のバーのバイト連中は気にしませんから。昼間まで寝ているフーテンもいます。ここを寝場所にしているようなものですよ。寝た後は誰も起きません」とぼく。


「そぉ、だったら、私の部屋にこられる?寝酒をつき合うっていうのはどう?」と彼女。


 ホテルの従業員はそういうことをしてはいけない、という理性の声も聞こえる。しかし、「問題ありませんよ、2時頃でもよろしいですか?」と平然と答えるぼく。相手によるのだ。彼女だったら・・・。

目次

シリーズ「フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス(Ⅱ)」目次

第一話 清美 Ⅰ、1978年2月24日(金)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18733823
第一話 清美 Ⅱ、"1978年2月24日(金)1978年2月27日(月)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18740056
第二話 メグミ Ⅰ、1978年5月4日(火)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18742144
第二話✔(第1ユニバースの)メグミ Ⅰ
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18750151
第三話 メグミ Ⅱ、1978年10月25日(水)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18749641
第四話 メグミ Ⅲ、1978年10月27日(金)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18769068
第五話 真理子、1978年12月5日(火)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18769591
第六話 洋子 Ⅰ、1978年12月24日(土)
●クリスマスイブのホテル・バー
●女性弁護士
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18781878#2
第七話 絵美 Ⅰ、1979年2月17日(土)
●森絵美の家
●御茶ノ水、明治大学
●明大の講堂
●山の上ホテル
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18783330
第八話 絵美 Ⅱ、1979年2月21日(水)
第九話 絵美 Ⅲ、1979年2月22日(木)
第十話 絵美 Ⅳ、1979年3月19日(月)1979年3月25日(日)
第十一話 洋子 Ⅱ、1979年6月13日(水)

シリーズ「フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス(Ⅰ)」目次

ヰタ・セクスアリス - 雅子 1、、2021年2月16日(火)、1977年春(小森雅子)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17949476
ヰタ・セクスアリス - 雅子 2、1977年春(小森雅子)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17950585
ヰタ・セクスアリス - 雅子 3、1977年春(小森雅子)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17959634
ヰタ・セクスアリス - 雅子 4、1977年夏(ヒデ、ユミ)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17960066
ヰタ・セクスアリス - 雅子 5、1977年夏7月(小森雅子、美沙子)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17960075
ヰタ・セクスアリス - 雅子 6、1977年夏7月(小森雅子、美沙子)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17960292
ヰタ・セクスアリス - 雅子 7、1977年夏9月(小森雅子、美沙子)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17960307
ヰタ・セクスアリス - 雅子 8、1977年夏9月(小森雅子、美沙子)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17960318
ヰタ・セクスアリス - 雅子 9、1977年夏9月(小森雅子、美沙子)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17960332
ヰタ・セクスアリス - 雅子 10、1977年11月26日(土)(小森雅子、美沙子)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17960343
ヰタ・セクスアリス - 雅子 11、1977年冬11月(田中美沙子、杉田真理子、加藤恵美)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17980459
ヰタ・セクスアリス - 雅子 12、1977年冬12月(杉田真理子)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17986850
ヰタ・セクスアリス - 雅子 13、1977年冬12月(杉田真理子)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17998953
ヰタ・セクスアリス - 雅子 14、1979年2月16日(金)(森絵美)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18025344
ヰタ・セクスアリス - 雅子 15、1979年2月16日(金)(森絵美)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18025349
ヰタ・セクスアリス - 雅子 16(エピローグ)、1979年夏8月(美沙子)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18010931

登場人物

登場人物(ヰタ・セクスアリス(Ⅰ)(Ⅱ)の世界)

シリーズ『フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス(Ⅰ)』

シリーズ『フランク・ロイドのヰタ・セクスアリス(Ⅱ)』

宮部明彦    :理系大学物理学科の2年生、美術部。横浜出身
加藤恵美    :明彦の大学の近くの文系学生、大学2年生、
心理学科専攻
杉田真理子   :明彦の大学の近くの文系学生、大学2年生、
哲学専攻
森絵美     :文系大学心理学科の2年生、明彦の恋人
島津洋子    :新潟出身の弁護士、明彦の愛人
清美      :明彦と同じ理系大学化学科の1年生、美術部
小森雅子    :理系大学化学科の3年生、美術部。京都出身、
実家は和紙問屋、明彦の別れた恋人
田中美佐子   :外資系サラリーマンの妻。哲学科出身

登場人物(第1、第2、第3ユニバース)

シリーズ『A piece of rum raisin - 第1ユニバース』

シリーズ『A piece of rum raisin - 第2ユニバース』

シリーズ『A piece of rum raisin - 第3ユニバース』


宮部明彦    :理系大学物理学科の2年生、美術部。横浜出身
加藤恵美    :お茶大の理系学生、大学2年生
杉田真理子   :明彦と同じ理系大学の2年生、明彦の女友だち
森絵美     :理系大学物理学科の2年生、明彦の恋人
島津洋子    :物理学者、明彦の愛人、第2では弁護士
清美      :明彦と同じ理系大学化学科の1年生、美術部
小森雅子    :理系大学化学科の3年生、美術部。京都出身、
実家は和紙問屋、明彦の別れた恋人
田中美佐子   :外資系サラリーマンの妻。哲学科出身