フランク・ロイドのブログ

フランク・ロイドの徒然

北千住物語 第二章 順子 Ⅰ

北千住物語 第一章 出会い Ⅰ

北千住物語 第一章 出会い Ⅱ


出会い Ⅰ、出会い Ⅱと違い、今回は覚醒剤、半グレ、合法JKの売春の物語。

北千住物語
第二章 順子 Ⅰ

一話 追跡デバイス


 タケシの引っ越しの当日、カエデの発案で、美久とタケシ、カエデのアイフォンに位置情報共有と携帯電話追跡アプリをインストールした。


「あ!そうだ!いいことを思いついた!」とカエデが言う。
「なんですか?」と美久が訊く。
「あの、節子さんと紗栄子さんと佳子さんが拉致されて強姦されかかったって言ってたでしょう?」
「ハイ、北千住は物騒なんです。ゴメンナサイ」
「まあ、美久さんとお兄でのしちゃったんだからね。すごいよね?」
「あれはたまたま運が良かっただけです」
「そうそう、危ないわよね。それで、美久さんアイフォンでしょう?私もお兄もアイフォンだから、三人のアイフォンに同じ位置情報共有と携帯電話追跡アプリをインストールしておくのよ。そうすれば、危ない場面でも場所がわかるじゃない?おまけに、抜け駆けもできない!エッヘン!名案でしょう?節子さんと紗栄子さんと佳子さんのスマホにもインストールしちゃいましょうよ?それで、六人がみんな居場所がわかるから、拉致されても追跡できるじゃない?」


「うん、確かにそれはいいアイデアかもしれない。特に、節子と紗栄子と佳子は半グレに目をつけられているようだし、みんなで位置情報を共有すれば助けに行けるね。美久、どう思う?」
「はい、私はかまいません。その方が安全でしょうし。でも、楓さん、わたし、抜け駆けはしませんよ」
「わかってます。美久さんはそういうひとじゃありません。じゃあ、早速、インストールしちゃお。美久さんは、節子さんと紗栄子さんと佳子さんにインストールしてあげて、設定してあげて。わたしが今やってみせるから」とカエデは美久とぼくのアイフォンを取り上げて、アプリをインストールし始めた。


 北千住から神泉に帰るメトロの中で、ドアの横でカエデが腕を絡めてきて密着した。胸を押し付けてくる。


「カエデちゃん、体も顔も近い!胸も当たってる!ちょっとお酒臭い!」
「なあに、お兄、チューはダメだけど『まあ、手ぐらいならいいでしょう』って言ったじゃない?」
「それは言いましたが、しかし、そんなにベタァ~として良いとは・・・」
「いいじゃん、このくらい。ふふふ、今ごろ、美久さん、ヤキモキしてるかなぁ~。ねえ、お兄?」
「うん?」
「美久さんって、可愛いね?二才年上だけど、私は可愛いって思う。ああいう人がタイプだったんだ?お兄は?」
「そういうわけじゃない。自分の好みのタイプなんてわからないよ」
「ふ~ん、ねえ、水川あさみとゴクミとどっちがいいの?」
「カエデちゃん、それ、美久に対する反則にならない?」
「誤魔化すのね。まあ、いいわ」


 神泉の家に戻った。ダイニングテーブルに座るとカエデが「ハイ、お水」とコップをわたしてくれた。(日本酒、飲みすぎだよなあ)カエデも水をごくごく飲んでいる。アイフォンを取り出した。


「美久さん、どこにいるかなあ?どれどれ?・・・あ、お兄、美久さんは分銅屋ってところにいます。あの女将さんのお店でしょ?」
「うん、そうだ」
「ねえねえ、美久さんもこの位置情報共有と携帯電話追跡アプリを見ていると思わない?」
「そんな、ストーカーじゃあるまいし」
「防犯用、護身用と言って下さい!LINEしちゃおう」
「え?誰に?」
「美久さんに決まっているじゃない」
「い、いつの間に?」
「ふん、お兄、女をなめてもらっちゃこまるわ。スピーカーフォンにするわね」


「あ!もしもし?美久さん?」
「あ!楓さん」
「今日はお世話になりました。今ね、神泉の家。美久さん、どこにいるの?分銅屋さんでしょ?」
「え?は、はい、そうです」
「あ、これ、今、スピーカーフォンですからね。お兄もそばにいて聞いてるよ。ねえねえ、美久さん、追跡アプリ、試してみた?」
「え?ええっと・・・」
「見てたでしょう?お兄と私の現在地?」
「・・・ハ、ハイ、ちょっとのぞいてました」
「やっぱり」
「ゴメンナサイ・・・」


「謝らなくてもいいのに。だって、このアプリはそういうものなんだから。私も美久さんの現在地チェックしたし。安心してもいいです。私は抜け駆けはしません。ちょっと、地下鉄の中で腕組んだだけ」
「う、腕を組んだの?」
「だって、チューはダメだけど、腕を組んでもいいって」
「そ、そうですよね。腕くらいなら・・・」
「ええっとですね、私、春休みの陸上の練習が終わっちゃって、休みなんですよ。それで、明日、午後、秋葉原にでかけられますか?」
「午後二時以降だったら大丈夫ですけど。なんで?」
「お兄は朝からアパートに行けばいい。でも、昼間一緒の機会を邪魔してやろうと思って」
「楓さぁ~ん」


「ウソウソ、あのですね、防犯用グッズの買い物に付き合ってもらおうと思って。行きます?」
「ハイ、まいります」
「じゃあ、明日、アキバの電気街口で二時に待ち合わせでいいですか?」
「わかりました。タケシさんは?」
「それは美久さん、お兄にご自分で聞いて下さい。私は三人デートでも二人でもいい」
「了解!タケシさん、明日は?」
「朝九時ぐらいから行くつもりです。引っ越しの片づけがあるから」
「わかりました。私も朝顔だしちゃダメ?」
「美久がよければいいですよ」
「了解!明日、お会いしましょう。合鍵も返さないといけないし・・・」
「ああ、合鍵持ってましたね。いいですよ。そのまま持っていて下さい」
「こら!お兄!同棲相手じゃないんだかね!ま、いいかぁ」
「楓さん、ありがとうございます。タケシさん、私、うれしい!」
「じゃあ、美久さん、また明日。バイバイ」
「ハイ、失礼します」


「ねえ、お兄、美久さんてキュンキュンしちゃう。こりゃあ、可愛いや。お兄がノックアウトされたのもわかる」
「あのね、カエデちゃん・・・」
「いいって、いいって。丁寧語でヤンキー口調がときどきでるし。天然だし」
「まあ、天然だな。裏表ないよ、美久は」
「どうして、今まで節子さんの言うように男っ気がなかったんだろうなあ」
「節子や紗栄子、佳子なんかの面倒を見ていて、興味がなかったんじゃないの?」
「ふ~ん、あんな美少女を男の子がよくほっておいたものね?」
「だって、この前までギャルスタイルの北千住のヤンキーの元総長だったそうだから、男は近づきがたかったんじゃないのか?」
「よくそういう近づきがたい女の子に一目惚れされたもんよね?お兄も?」
「そんなことぼくは知りません」
「まあ、そういうのが目前にもう一人いるんだけどね」
「カエデちゃん、勘弁して」
「ふん、まあ、いいわ。今晩は面倒なんで店屋物ですまそう?」
「そうだな、カツ丼でも食べるか?」


 その晩は、カエデとカツ丼を食べた。日本酒が覚めてきたけど、二人でビールを飲んだ。(高校生が晩酌しちゃダメだろ?まあ、いいか、ドイツなら朝から飲んでるし・・・)


 翌朝は、ぼくは八時に家を出た。カエデは洗濯して家の掃除をしてからアキバに出る、と言っている。「お兄も来てもいいけどね、今日の買い物は女性用の防犯グッズだからね!」と宣言している。


 二時に美久と一緒にアキバの電気街口に来た。カエデが改札で待っていた。カエデは黒の上下のスェットに薄水色のセーター、パンプス。美久は花柄のワンピースに黄色いセーター。「楓さん、こんにちは」「美久さん、可愛い。幼妻みたいだよ?」「ええ!そう見えるの?」「うん、キュンキュンしちゃう」「え?」「まあ、いいから、いいから、行きましょ」と言って人混みを抜けてスタスタ行ってしまう。ぼくたちは後を追いかける。美久はカエデに気を使って手も握ってこない。ちょっとさみしい。


 ゴミゴミした通りをぬけてカエデはビルに入った。二階に行く。知っている店なのか、迷わず店に行って入ってしまった。店員さんとも顔見知りのようだ。カエデが美久に「私もちょっとメカオタクっぽいところがあるんだぁ」と言う。


 カエデは店員さんに「こんにちわあ」と挨拶する。「あ!こんにちわ」「今日はね、GPSの発振器、リアルタイムトラッカーを見に来ました。防犯用ね」という。店員さんはあれこれ出してきた。カエデは、デザインがいまいち、ごついやつじゃなくて女の子がネックレスにぶら下げていても不自然じゃないやつありません?と言う。店員さんが銀色のミニモノリスみたいなプレートをカエデに見せた。


 店員さんが「これね、奥さんが浮気してるって疑っている旦那が買っていくんだ。アクセサリーに見えるし、奥さんのハンドバックに忍ばせてもいいやつ。データSIMが必要だけどね。月に500円くらいかかる。それは別に買って」という。「電池はどのくらい持つの?」とカエデが聞くと「そうだなあ、二週間から四週間くらい?USB充電。スマホでリアルタイム追跡と指定した日時の足取りをスマホのアプリで簡単に把握できる。パソコンのアプリでもできるよ」「複数のデバイスは登録可能?」「最大十台まで。会社のセールスマン向けにも使える」


「ヨッシャア、これだ、これ。お兄さん、いくら?五台欲しいんだけど?」「税込み12,732円だけど。ポツ八で色つけて・・・1万円でどう?」「もう一声!」「しょうがないなあ」「ねえねえ、私に免じて!」「美人に詰め寄られちゃあなあ、ポツ七五で、税込み9,500円でどうだ!」「やった!それでオッケー!クレカでいいよね?」「わかりました。お嬢ちゃんには負けるよ」とカエデは五台買った。


 アメックスのゴールドのクレカで支払う。「カエデ、よく買えるな?高いだろ?それに五台も?」と言うと、カエデは舌を出して「へへへ、私、ママのカードのサプルメントホルダーだから、ママが支払うの。五台って、美久さん、節子さん、紗栄子さん、佳子さん、それに私用です。お兄はいらないでしょ?」「それって・・・」「あら、気にしないで。私の下着の買い物よりも安いじゃない?」と言って平然としている。美久に「私はお嬢様じゃないの」と言った割には発想がお嬢様だよ、それじゃあ、とぼくは思った。


 店員さんは一台をカエデのアイフォンにセットした。店のデータSIMを試し刺しする。「デバイス名をつけるんだ。何にする?」「漢字で楓にできる?」「できるよ、ほら」とアイフォンを見せる。美久とぼくがのぞきこむと、もうマップに位置情報がインジケートされている。「電波が届かない場所もあるけど、その前後の位置は追えるからね。取説にデスクトップ用アプリのURLが書いてあるからそこからドルしてインストして下さい」「バッチリじゃない。ありがとう」と店員さんの手を握ってカエデは盛大に握手する。ちょっと照れてる店員さん。


 その店を出ると、別の店でカエデは「スタンガンじゃあ、取り出す時に大げさで大きいし・・・小さい口紅タイプの催涙スプレーがいいか。美久さんは空手ができるからいらないかもしれないけど・・・」とぶつぶつ言って催涙スプレーも五本買ってしまう。美久に催涙スプレーを見せて「美久さん、これ口紅みたいでしょ?ストーカーなんかにこれをシュッとやると、激痛で目が開けられなくなって、30分以上は確実に行動不能にできるのよ」などと物騒なことを説明している。「お兄と喧嘩したらかけちゃえばいいのよ」(おいおい)「シュッとですか?」と美久がぼくに催涙スプレーを向ける。「美久、美久ちゃん!」「タケシさん、冗談ですよ。でも、わたしと楓さん以外と浮気したらかけます」「・・・」(美久さん、カエデと会って性格変わってません?)


 北千住に戻って、美久とカエデはテレフォンショップに行った。データSIMを買うのだ。カエデは自分の分。美久は自分と三人組の分。「美久さん、デビットカードとかプリペイドカードはダメですからね」「ヘッヘェ、私も持ってるもん」と言って三井住友のゴールドカードを出す。「お父さんのサプルメントカード。護身用だから、後でお父さんに言っとくわ」(こいつら、結構ちゃっかりしてんじゃないか?天然の美久でも女は侮れない・・・)


 当然のように分銅屋に行く。途中で美久は三人組を呼び出した。「こんばんわー」と言って三人で分銅屋の暖簾をくぐった。先客がいる。南禅さんと羽生さん。この人たち、分銅屋に住んでいるんだろうか?女将さんが自衛隊組にカエデを紹介した。女将さんは昨日あったことを彼女らに既に話しているようだ。


 南禅さんが「あら、この方が兵藤くんの妹さん?楓さん?」「ハイ、兵藤楓です。よろしくお願いいたします」とペコっとお辞儀をした。「ふ~ん、美久ちゃんといい楓さんといい、兵藤くんは美少女、美人に縁があるのね?それで童貞だなんてね」と南禅さん。(南禅さん、それ関係ないって)「それで、三人で今日は何を?」と聞かれたのでカエデが今日の買い物の說明をした。「ふ~ん、確かに最近ますますここらは物騒だからね。位置情報がわかれば助けに行かれるし。兵藤くん、美久ちゃん」とぼくらの方を向いて「今度は私と羽生くんの分も残しておいてね。みんなのしちゃダメよ」と言う。北千住といい、自衛隊といい、やっぱり神泉とは違うようだ。


 三人組が来た。カエデが「昨日はどうも」と言って三人組のアイフォンを出させた。「護身用に位置情報を共有するの」と説明する。美久が「おまえら、位置情報がわかっても気にしないだろうな?」という。「ハイ、ネエさん、大丈夫っす」と三人が言う。カエデがまず三人のスマホに位置情報共有と携帯電話追跡アプリをインストールした。美久のアイフォンも出させて、リアルタイムトラッカーにSIMを挿れて、それぞれアクティベートさせていく。ぼくのアイフォンも取り上げられて、六人のアイフォンにみんなの位置を表示させた。


「ほらできた」と行って、アイフォンとリアルタイムトラッカーを美久と三人組に渡す。「ネックレスで首にぶら下げてもいいし、ハンドバックに忍ばせてもいいのよ。これで拉致されても場所がわかる。それから」と言って催涙スプレーも渡した。「これでシュッとやれば、悪いヤツは30分以上は確実に行動不能にできるの」と説明する。「遊びで使っちゃダメですよ。唐辛子成分なんだからすごく痛くて目が開けていられなくなるみたいだから」と言った。「アイフォンのアプリはこうしてオフできます。トラッカーは・・・あれ?オンオフついてないんだ。えっと、アルミホイルで包めば電波は出ないんで、位置情報を知られたくなければそうして。でも、防犯上いつもオンがいいんだけど。トラッカーはUSBで二週間ごとに充電して下さい」とテキパキ言う。美久もそうだが、カエデもテキパキ派だ。


 三人組が「楓ネエさん、ありがとさんっす」と言う。「ちょっと、節子さん、紗栄子さん、佳子さん、私は同学年です」とカエデが言うと、「いいや、今から楓さんも美久ネエさんの次のネエさんと呼ばせて下さい」と声を揃えて言う。(北千住はおかしな縁ができる街だな)「わ、わかりました。でも、楓でいいです」「じゃあ、楓さんで」「楓ちゃんでいいです」「わかりました。楓ちゃん」やれやれ。


 南禅さんが「楓ちゃん、見せて見せて」とカエデのアイフォンとトラッカーをいじる。「へぇー、こりゃあ、便利だ。過去情報もわかるんだ。なるほど、自衛官に持たせて、帰隊しないやつをふん縛るのにいいな。羽生くん、キミも持ったら?風俗行ったら私がわかるように」と羽生さんにニヤッとしてトラッカーを見せる。「南禅さん、なんで独身同士が監視されないといけないんです?それとも南禅二佐、俺と結婚してくれるんですか?」「ヤダね、キミなんかと」


 みんなで雑談をしていた。そうすると、美久が「順子もいればよかったのになあ・・・」とボソッと言った。「順子ってだれ?」とぼくが聞くと、節子が「ネエさん、後藤順子のことは話すもんじゃない。ネエさん、兵藤さん、確かなことがわかったら、お知らせしやすから。今は勘弁して下さい、後藤順子の話は」と言う。美久が腑に落ちなさそうに首をかしげている。「うん、まあ、節子がそういうのなら・・・」と美久が言った。女将さんは事情がわかっているのか、眉間にしわを寄せている。その時は、後藤順子の話はそれで終わったのだが、また後で大事になるような気がした。


二話 美久さん、謝罪す


 引っ越しして、「追跡デバイス」をみんなに配って、やれやれ、防犯・護身の準備ができたね、という時から数週間経って、美久が思わずカエデに抜け駆けしてしまったのは以下のエピソード。


「あの、タケシさん・・・」「なに?」「タケシさんの固いのが・・・わたしのあそこにあたってます・・・」「あ!あ!ゴ、ゴメン」「いいえ、さ、触っていい?・・・夜はあんまりきづかなかったけど、こんなのわたしに入るの?」「入るよ、問題ないよ」「もう、触るだけで、わたし、感じちゃいます」「ぼくも触っていい?」「ハイ・・・あ!それ、だめ・・・」「み、美久、美久ちゃん、どうする?しちゃいます?」「どうします?タケシさん?しなくても、これだけ気持ちがいいなら、もうちょっと楽しみは取っておきます?」「ぼくが我慢できるかなあ?」「私だって同じです・・・あ!そこ!ダメです!」
「タケシさん?」「は、はい?」「我慢できないんでしょう?」「・・・う、うん・・・」「節子なんかから聞いて知っています」「え?」「ちょっと待ってね」と美久はスルスルと毛布の中に消えてしまって・・・
 美久に予備の歯ブラシを渡した。女の子と二人で朝の歯磨きなんて、カエデとしかしたことがない。歯を磨きながら美久に聞いた。「なんであんなこと知っているの?」「節子たちが話してたから・・・」「でも飲んじゃったじゃない?」「え?節子たちは飲むもんだ、って言ってましたよ?変な味!あの味、慣れるもんなのかな?」ぼくはつくづく美久は不思議な子だと思った。


 歯磨きをしていて、美久が急に歯磨きを止めた。「あ!やっばい!タケシさん、どうしよう?」と言う。


「美久、何がどうしようって言うのさ?」とぼくが聞くと、「だって、私、アイフォンとトラッカー、オンのまま。どうしよう?どうしよう?どうしよう?私、有頂天になって、忘れてました。楓さんにバレてます!どうしよう?どうしよう?どうしよう?」と錯乱している。


「私、楓さんに抜け駆けしてしまいました!タケシさん、どうしたらいいんでしょう?楓さんは私がタケシさんの部屋に泊まったこと、わかっちゃいます!ああ、どうしよう!手つなぎどころか、タケシさんのをゴックンしちゃったんですよぉ?これ、反則でしょう?」とさらに錯乱する。


「黙って誤魔化せばいいでしょう?アイフォンとデバイスをここに忘れちゃった、とか」とぼく。
「それはいけません!約束に反します!秘密と嘘はいけません!私、楓さんに電話します!」って、おいおい。


 真っ赤になって、美久は電話しだす。「自分から言わなくても・・・」「タケシさん、黙って!」


「もしもし?楓さん?」
「あ!美久さん、おはよう」
「わ、私、楓さんに謝罪いたします!」
「え?何?月曜の朝から美久さん、何を言っているの?」
「アイフォンとトラッカー、見て下さい!」
「え?なになに?・・・あ!美久さん!あなた、お兄の家に泊まったの!なんてこと!」
「しゃ、謝罪いたします!申し訳ありません!抜け駆けいたしました!パンツ買ってもらって、有頂天になって、タケシさんの部屋に泊まってしまいました!」
「パンツ?」
「パンツです!タケシさんが私の苺パンツを『そりゃダメだろう』って、銀座でパンツを買ってくれまして・・・」
「美久さん、意味、わかんない!」
「それは・・・」と美久が昨日の話をした。


「ふ~ん、それで、美久さんに苺パンツの代わりのセクシーパンツをお兄が買ってあげたの?」
「そうです!それで、それをタケシさんにお見せして・・・」
「うん?・・・美久さん、はいてるのお兄に見せたの?」
「ハイ、そうです。それで、お酒飲んじゃって、ヘベレケになって、一晩中、二人っきりで・・・」
「したのね?セックス、美久さん、したのね?」
「してません!信じて下さい!・・・でも、ゴックンしました!」
「え?ゴックン?」
「ええ、ゴックンです。タケシさんのを飲んじゃいました」
「・・・」
「か、楓さん?」
「・・・なんでそうなるの?」
「だって、タケシさんが我慢できないって言って、節子とかから『我慢できない男はゴックンするものだ』と聞いたものですから・・・」
「・・・」
「楓さん?」
「・・・もう、美久さん!」
「ハイ?」
「手つなぎから、急に、ゴックンまで美久さんはハードルを下げたわね?」
「え?」
「つまり、美久さんがそこまでしちゃったなら、私もお兄のをゴックンまではしていいわけね?」
「え?え?え?それは・・・」
「お兄を出してちょうだい!側にいるんでしょう?」


「もしもし、カエデちゃん?」
「お兄!こうなったら、私もゴックンまで解禁だからね!」
「カエデちゃん、あのね・・・」
「ダメです!言い訳は聞きません!お兄も約束破りました!私はゴックンする権利と義務があります!今晩は、神泉にお帰り下さい。ちょうど、パパもママも出張中です!」
「カエデちゃ~ん・・・」
「美久さんに電話代わって下さい!」


「美久さん!今晩はお兄は北千住に泊まりません。神泉に泊まります。私だって、ゴックンぐらい・・・」
「楓さん!」
「あれ?ゴックンって、どうやるの?」
「私も節子たちが言っていたことを無我夢中で・・・」
「結構です!経験のある友人に聞きます。ゴックンぐらいできますもの。簡単です!美久さん、覚悟して下さい!」通話了。ツー。


「美久、だから、嘘つけばよかったじゃないか・・・」
「タケシさん、今晩、楓さんにゴックンされちゃうの?」
「なんか、激怒してるし、帰ってなだめるよ。帰らないとここに突撃してくるもの」
「でも、楓さんのことだから、絶対、ゴックンすると思う。タケシさ~ん、どうしよう?」
「大丈夫だよ・・・でも、美久、よくあんなことができたね?」
「だって・・・あの時はタケシさんが我慢できないのをどうしようと思って、無我夢中で・・・」と真っ赤になって下を向いた。


「美久、大学に行かないと。ぼくもいかなくちゃ」
「そ、そうですね。タケシさん、家に帰っちゃうの?」
「仕方ないでしょ。夜、連絡します」
「・・・」
「大丈夫、なだめるから」
「タケシさん、でも、抜け駆けしたの私ですから、ここはゴックンまでならしょがない・・・」
「・・・そういうもんじゃないでしょ?なんでぼくがこんな目に・・・」


(なんでこうなるのだろうか?)


 スマホの通話終了ボタンを押した後、楓は考えた。


(美久さんがゴックン、ゴックンなんていうから思わなかったけど、ゴックンの前にパックンしないといけないんじゃないの?パックンってどうするの?同級生の詩織としたのはパックンじゃないし・・・グーグルよ!パックン・・・じゃでないわよね?これか!フェ◯、ええええ!こんなことするの?美久さん、大胆!ええええ!どうしよう!でも具体的にどうするの?・・・海外無修正サイトよ!英語のスペルは・・・あ!え!ええええ?こんな風にするの?こんなものゴックンするの?いや~ん、私、できるかしら?美久さん、ヘベレケになったって言ってたわね?私もお酒飲んじゃおうかしら?・・・あああ、あの天然め!ペース狂うわ・・・って、あ!遅刻しちゃう!)


(カエデちゃんが帰る前に家に着いたほうがいいよなあ。ぼくが下着なんか買ってやるからこうなったんだよなあ。節子の口車に乗らなきゃよかった・・・でも、カエデちゃんにどういう顔で会えばいいのか。ゴックンされちゃったし。困った)


 玄関のドアが開いた。ぼくは覚悟を決めて玄関に行った。高校の制服姿のカエデが靴を脱いでいる。平静をよそおって「カエデちゃん、お帰り」という。カエデは下を向いて「ただいま」と言ってぼくの横をすり抜けて二階の自分の部屋に行ってしまった。(なんか、マズイじゃん)


 ぼくがダイニングテーブルでお茶を飲んでいると、カエデが二階から降りてきた。最初にカエデが家に来た時のようなグリーンのタンクトップにノーブラ。ボトムはトップに合わせた同色のショートパンツ。この格好はぼくに迫るヤツだ。ムスッとしてぼくの正面に座る。


「お兄!」
「ハイ」
「一線は超えなかったんですね?」
「ハイ、超えてません」
「でも、その手前まで・・・ゴックンまではされましたね?」
「申し訳ない。ぼくが下着なんか買って、酒なんか飲ますからそうなったんだ。ゴメン」
「学校でつくづく考えたんだけど、まさか、お兄つかまえて、さっゴックンします、横になっては無理です。だから、安心して下さい。私はあんなこと唐突にできません!」
「え?『あんなこと』ってカエデちゃん、知ってるの?」
「グーグルで調べました。美久さんがゴックン、ゴックン、って言うから思いつかなかったけど、その前にパックンがあるじゃないですか?」
「・・・」
「パックンの前にはいろいろあるじゃないですか?お兄と私もちょっとしたけど・・・」
「ハイ・・・」
「だから、そういうシチュエーションにならないと、今晩急にゴックンできません」
「・・・そ、そうだよね?」
「ですから、私は、パックン、ゴックンの権利保留を宣言します!」
「・・・カエデちゃん、それ何?」
「そういうシチュになったら、ゴックンまでできる、というジョーカーの札」
「・・・カエデちゃーん・・・」


 下を向いていたのに、急に顔をあげてカエデがニッコリして「って、ウソよ。お兄、あそこまで天然の美久さんには敵わないって私わかった。対抗できません。お兄は諦めます。戦線離脱。私はお兄みたいな人を探すわ。でも、お兄も手伝って、誰か紹介して。ね?それまでは、キスの練習台はしてもらうわ。せめてそれくらいしないと。それくらいは美久さんは私に借りがあるでしょ?」
「カエデちゃん・・・」ホッとするやら、少し残念な気持ちがする。


「さって、美久さんに電話をかけないと。敵はどこにいるんだ?・・・あ!不動産屋さんの事務所か自宅ね?」とLINE通話してしまう。
「もしもーし、美久さん?」と明るい。
「・・・楓さん・・・」と小さな声の美久さん。
「お兄といるの」
「・・・知ってます」
「あ!早速位置情報を確認したわね?」
「ハイ・・・」
「あのね、もうゴックンしました!」
「えええ!」
「ウソです。安心して。美久さん、よく聞いて。私、もう降参です。撤退します。お兄は美久さんに差し上げます」
「楓さん、急にまた、どうして?」
「お兄がほんとうに美久さんのことが好きなんだなぁ~って思う。私、勝てない。私はお兄に紹介してもらって、お兄みたいな人を見つけます。まったく、もう、美久さんみたいな人には対抗できません。でも、いいや、美久さんは私のお姉さんになるんだから。美久さん、お兄をよろしくね」
「楓さん・・・」と美久はもう涙声になっている。
「今晩は夕食すましたら、お兄は北千住に帰ってよし。放免する。もうね、パックンでもゴックンでも勝手にやって。最後までやっちゃって!・・・わぁ~ん、悔しい・・・」とアイフォンをぼくに差し出してカエデはベソをかいている。今日はみんな泣く日か?


 アイフォンを受け取って「美久、もしもし」「タケシさん、ど、どうなったの?」「ぼくにもわからないけど、こうなった」「楓さんにすまない・・・」と言っていたら、カエデにアイフォンを引ったくられた。


「美久さん、最後にチューくらいしますからね!私の気がすまないから、チューくらいさせてね。じゃあね」と通話を切ってしまう。


「ああ、もう悔しい。お兄が北千住に帰る前になにか食べよう。店屋物取ろう。もう、バクバク食べる。お兄、おごりだからね。うなぎ食べちゃう。お兄、『神泉いちのや』に上うな重、注文して!」と言った。


 ぼくは上うな重を二つ注文した。注文している最中にカエデが「あ!お兄、肝焼きと骨せんべいもね!」と言われて追加。ひぇ~、二万円近い出費。カエデは上うな重をバクバク食べて「お兄、酒!」と言われて彼女は酒も飲んだ。ぐい呑越しに睨みつけられた。


 家を出る時、カエデに日本酒とうなぎ臭いチューをされた。


「バイバイ、お兄」

三話 高校三年、順子、現在


 田中美久と兵藤兄妹が『ゴックン』などと呑気に騒いでいる頃。


 北千住の駅から1キロほどの大川町氷川神社の道路向こうの荒川の土手に、ヤンキー座りの高校生の三人組がいた。


 その内のボスの女の子が「おい、敏子はまだ酒を持ってこないのかよ?」と恭子に聞いた。
「順子ネエ、敏子、どこ行っちまったんでしょう?わたしが買いに行けばよかったかな?」と恭子が言う。
「何いってんだ、おまえ。恭子が店に行ったら、売ってくれるわけねえよ。チビなんだから。170センチの敏子より25センチは低いだろ?」と横目で恭子を眺めて言う。
「順子ネエ、わたしだって、身長は152センチありますよ。チビだ、チビだって言って、まったく」とふくれる。順子ネエと呼ばれる女の子は高校三年生で他の子たちは二年生だ。


「敏子が戻ってきたら、わたしのマンションにでも行くか?女四人だけどよ。女四人じゃなんにもできねえや」と言うと、恭子が「女同士でも楽しめますよ?順子ネエ」
「いやだね。レズのおまえとわたしは違うんだ。おまえのおもちゃであそこをかき混ぜられたくねえよ」
「そうっすか?男よりもずっといいのに。この前、敏子とやったら、敏子よがって、八回くらいいっちゃいましたよ」
「おまえ、敏子とやったのか?」
「ハイ、敏子、背が高くていかつい顔をしてますが、マゾだからね。あいつがネコちゃんでわたしがタチですもん。ヒィヒィ言うんで虐めてやりましたよ」
「おまえ、変態だよ。なんだ、敏子は両刀遣いになっちまったのか?」
「わたしが仕込んでやったんですよ。他の女の子と同じくね。グミの二、三個食べてキメセクすると最高なんすよ」
「恭子、商売物だぞ。それにあまり食うなよ。ヤク中にするこっちがヤク中になったら笑えないよ」


「まあな、おまえのカワイコちゃん面(ヅラ)とレズ癖がなけりゃあ、女の子を引っ掛けるのも大変だからな。まさか、おまえ、この恵美子も食っちまったんじゃないだろうな?」と順子はもう一人の女の子を指差した。
「恵美子はダメだ。なあ、恵美子ちゃん。こいつは男一筋だから。男ならだれでもいいってこってすがね。康夫さんの手下の浩二は嫌らしいけどね」と恵美子に言う。
 恵美子は「当たり前だよ。恭子に私のあそこをベロベロ舐められたくないよ。浩二?あの鈍牛?あんなのとやったら壊れちゃうよ。浩二なんて何時間でも何人とでもやるやつなんだから」と言う。


「なんだ、恵美子、ベロベロ舐めるなんて見てきたようなことを言って」
「だって、順子ネエ、恭子が敏子とやってるのを見せられたんだから。たまったもんじゃないよ。ちょっと感じたけどさ。チビがノッポをヒィヒィ言わしているんだよ」
「わたしの三人組は美久の三人と違って変態ぞろいか?まったく」
「順子ネエは、康夫さんとオジサマとしかやらないからね」と恭子。
「バァカ、今はな、普通に見える女の子が梅毒や淋病を持っているんだ。そういう女がパパ活して円光して、うつされるんだ。間接的にうつされてたまるかよ。わたしは決まった男としかやらないんだ。恭子、おまえだって、病気持ちの女のあそこをベロベロ舐めてたらうつるぞ」
「舐めるだけで?」
「バァカ、粘膜接触じゃねえか?」


 敏子が戻ってきた。重そうなプラスチック袋を抱えている。
「順子ネエ、遅くなりました。だんだん、酒を売ってくれなくなっちゃって」
「おまえの私服姿でもか?おまえ、十分成人にみえるじゃん?」
「身分証見せろと言われるんですよ。うるさいのなんの」
「まあ、ご苦労さん。おい、敏子、恭子から聞いたぞ。おまえ、恭子にヒィヒィ虐められたんだって?」
「あ!恭子、このバカ!内緒だって言っただろ?」
「話の流れでつい・・・」と恭子は舌を出した。
「さて、わたしのマンションにでも行こう」と順子が言う。


 順子は母親と住んでいるマンションの他に内緒で別のマンションを借りていた。恭子の言うオジサマが保証人になっている。そこで、オジサマやオジサマの友人と称する男に高校生を斡旋するのだ。


 手口は巧妙である。ちょっと見にはただの可愛子ちゃんに見える恭子が、グループがリストアップしたLJK(ラスト女子高生、高3のこと)をお菓子で釣るのだ。リストにはLJKの誕生日が調べられている。それで、その女の子が18才の誕生日を迎える頃、恭子が接触する。つまり、その子は、18歳の誕生日を迎え、高校生でありながら条例に抵触せず合法的にセックスのできる女子高生、『合法JK』となる。


 恭子は、生真面目で進学希望で勉強ばかりしている大人しい子を選ぶ。特に処女だと都合がいい。たいがい、そういう子は夜遅くまで勉強しているので、いつも睡眠不足だ。恭子はそっとその子に近づき、お菓子をあげる。ソフトグミとかだ。「智子、これ食べない?不二家の贅沢グミだよ」などと言ってお菓子を勧める。


 お菓子には、S(スピード、覚醒剤)が仕込んである。ポンプ(注射器)で仕込む。恭子にお菓子をもらった女の子は、眠気が覚めるのだ。彼女らは恭子にもっとちょうだい、あのお菓子食べると調子がいいの。買ったやつはダメみたい、恭子のがいいのと言ってくる。


 数日経って、恭子がソフトパックの栄養ドリンクを彼女らにあげる。「眠気覚ましにはこっちの方がいいかも」と言って。これにはお菓子の倍量以上のSが注入してある。わざわざ、コンビニなんかでは買えないドリンクパックを選ぶ。栄養剤を飲み続けた女の子たちは、徐々に中毒症状が進む。注射器を使わないから針のあとも残らない。


「恭子ちゃん、栄養剤、いいよねえ。眠くならないんだもの。それに体重減ったみたい」恭子だから安心するのだ。ロリ顔で純真無垢のような顔をした悪魔。これが順子や敏子、恵美子だったらこの手には引っかからないだろう。警戒される。それにレズ癖のせいか、女の子へのソフトタッチが性的経験のない子には心地よいのだ。
「私もね、勉強で眠くなると(ウソつけ!)あれを飲むのよ」
「宿題がはかどって。集中できるのよ。これで志望校も受かっちゃうんじゃないかしら」


 その内、恭子は栄養ドリンクを渡さなくなる。「え?恭子ちゃん、ないの?あれ?」と恭子に訊く。「あれ、高いんだよね。今、切れてる」などと恭子は言う。「手に入らない?」「そうだなあ、わたしの知り合いのマンションにあるかもしれない。一緒に行こうか?」と言って順子の借りているマンションに行く。


「ねえ、恭子ちゃん、ここ誰のマンションなの?」
「う?知り合いの人の。勝手に入っていいって言われているんだよ」
「ふ~ん・・・」何かおかしい。でも、栄養剤、欲しいしなあ。


 二人はマンションに入る。恭子は冷蔵庫を勝手に開ける。ときたま順子たちが自炊するので普通に食材が入っている。冷蔵庫のドア側に栄養剤がツーパック。わざわざ準備しておいたものだ。


「智子、あった、あった」
「恭子ちゃん、勝手に持ち出したら・・・」
「いいって。私がお金をあとで払っておくから」


 普通の意識を持っていれば「あれ?なにか変だぞ?」と思うに違いない。しかし、既に薬は智子の体内を巡っている。


「・・・恭子ちゃん、栄養剤って高いの?」


 もう既に栄養剤にストローを刺していチューチュー吸っている恭子は「う~ん、四千円くらい?」という。


「え~、私、お金ないよ」
「いいって、私が建て替えておくわよ。飲みなよ、智子」と言ってS入り栄養剤を智子にわたす。


 恭子は処女の場合にはおもちゃは使わない。処女は順子のオジサマや友人に高く売れるからだ。非処女ならおもちゃを存分に使う。恭子は薬で酩酊し感じやすくなっている女の子とキメセクをする。趣味と実益というわけだ。


「恭子ちゃん、今日の効くわね?」智子はちょっと寒気がするかのように腕を交差させて自分の体を抱く。智子、Sの量を増やしてるんだから、そりゃ、効くよと恭子。
「そう?」
「敏感になってる」
「え?智子ちゃん、敏感になっちゃってるの?」と智子の腕に触れる。
「あ!いやん」と触られた箇所から電流が走ったみたいに智子は感じる。
「(第二段階突入よ、智子)ちょっと寝室をのぞいてみようか?」と智子を寝室に連れ込む恭子。


「大きなベッドねえ?」
「クイーンサイズって言うんだろうね。ほら智子もお座りよ」と自分が座った横をバンバン叩いて智子を誘う恭子。
「わー、ふかふかね」と仰向けに寝てしまう智子。
「ね~、智子ちゃん、私、ちょっとレズはいってるの。チューしていい?」と恭子。
「きょ、恭子ちゃん、私、ぜんっぜん経験ないから・・・」からどうした?やっていいのか?経験なし。やっぱり。処女だな。おもちゃ使えないじゃんか?ま、いっか。と恭子は思いながら、
「じゃあ、私でチューの練習すればいいじゃない?」と言う。
「え?やん」といいながら目をつぶって待っているような智子。


 ベッドの上に四つん這いになって、顔を智子の顔に近づける。智子は小柄だが恭子よりは大きい。背が高い。二人共中学生と言っても違和感はない。かっわいいじゃん、智子、高く売れるよ、と恭子は思う。


 恭子は智子の体にさわらず、小鳥が口先でついばむように、チュッと。チュンチュン。もうちょっと長く。チュー。そっと肩に手を触れる。お!いいじゃん、智子も私の肩に触った。舌をちょっと出してっと。唇をペロッと。口開けよ?お嬢ちゃん!お!開いた、開いた。怖がらせないように舌をちょっと入れて。絡ませて。うん、いいぞ。肩を抱いてきた。もうちょっと口を開かせて。いい調子だよ、智子。


 ハァハァいってきたね。よし、舌で智子の歯をなぞって・・・智子も私の舌を吸ってきた。じゃあ、お言葉に甘えまして!ベロっと。もう智子に体重を預けてもいいかな?よしよし、もっと抱きしめてきた。つばを飲ませますかね?お!飲んだ飲んだ!私にも智子のつば、ちょうだい!うんうん・・・おっと、私もS入ったからビンビンになっちゃったな。やばいな。私のは量を減らしておいたのに。


 恭子は「智子ちゃん、脱いじゃおうか?」と言って智子の高校の制服を脱がす。さすが、真面目な子だよね。スカートだって膝たけじゃん?と手早く下から脱がした。パンツは取っておく。「智子ちゃん、わたしも脱ぐね」と言って、恭子は全部脱いでしまう。「恭子ちゃん、恥ずかしい・・・」と言いながら、でも、智子は恭子を止めない。


「智子ちゃん、ほら、わたしを見て。どう?」と恭子は智子に自分の裸を見せる。先にわたしが脱がないとね。警戒させないように。わたしの体は、幼児体型だから、胸はあるけど、あそこは薄い毛がおおっているだけ。わたしってなんでこんな体をしてるんだ?悔しいな。悔しい。


「智子ちゃん、わたしにもあなたを見せてね」と言いながら、パンツ以外脱がしてしまう。「智子ちゃん、キレイだね」と言いながら、上半身から愛撫を始める。初めての智子にとってはたまらない。Sで敏感になってもいる。すぐ、逝ってしまう。


 よしよし、智子の体に叩き込んどかないとね。と恭子は思いながら、パンツも脱がせる。あ!こいつ、パイパンじゃん!と恭子はツルツルの智子の股間を触る。思わず智子は股を閉じるが、恭子はそっと開かせる。太ももからねちっこく。舐めあげて、でも、あそこは外して、円を描くように徐々にあそこに向かうんだ。ビクビクと智子は体を震わせる。いいぞいいぞ、この子、気に入っちゃったな。可愛いな。ゾクゾクするぜ。


 恭子は、智子のあそこを舐めあげる。智子は脚を閉じて恭子の頭を挟み付ける。その脚を開かせて、恭子はあそこを開き、智子の突起を吸う。痙攣する智子。ちょっと指一本くらいは入るかな?と中指を智子のあそこの中にクニクニと入れてみる。スルスル入るじゃん!もうちょっと中へ?まだ大丈夫ですね。どうだろ?ここで指を曲げて・・・お!ザワザワしてるじゃん?これ以上は処女膜を破るからダメだよね?この子、いいね?こういうのオジサマ、好きだろうね?


 智子はもう自分を制御できない。腰を突き上げている。もともと敏感だったんだね、智子。恭子は智子から溢れてくるものをすすって、飲み干す。さあ、わたしの番だよ、智子。


 恭子は体を180度回して、自分のあそこを智子の口に近づける。「智子、わたしのも。わたしのもやって。わたしがやったように・・・」と智子に言う。クスリで朦朧となって、気持ちよさが極限にまで高まった智子は、無我夢中で恭子のあそこに吸い付いた。智子のやったように、恭子のあそこを開かせて、舐め上げ、すすった。


 おっと。わたしが逝かされちゃうよ。こいつ、ガリ勉だから学習能力あるじゃん!あ!わたしのお尻までひらいちゃって。おいおい、困っちゃうよね。ま、順子ネエが言っていたように、勉強もさせて、家族と周囲に気付かせないように、クスリとセックスで堕とす・・・あ!こいつ、うまい。ほんとに初めてか?クソっ。おもちゃ使えれば一発なのに。こいつ舌、長ぇじゃねえか。とどいちゃうよ、奥まで。負けるものか・・・


 その後、「智子ちゃん、もう栄養剤ないや。でも、一本四千円なら注文する」と持ちかける。「恭子ちゃん、わたし、そんなお金ないよ」と言うと、「安心して。私の知り合いの安心できるオジサマがいて、私みたいに智子を気持ちよくしてくれてお金をくれるから。紹介するわ」と言う。おかしいとはわかっているが、栄養剤も欲しい。恭子としたように気持ちがいいならいいのかな?「恭子ちゃん、私やる。オジサマを紹介して」ということになる。


 オジサマたちも薬で感覚がするどくなっている高校生には大金を払う。おまけに順子のグループが合法JKというチェックもしている。もしもバレても東京都の淫行条例には抵触しない。経験があまりないので性病もないので安心だ。


 フリーでパパ活や円光をしている女の子は、出会いアプリ、マッチングアプリで相手を見つける。「ピッピ募集!❤穂別苺」というわけだ。「ピッピ」は「パパ」の隠語だ。そういう取引の場合、相場は本番で、穂別(ホテル代別)で苺程度。苺は1万5千円のことだ。


 しかし、順子のグループの保証付きの女の子なら、オジサマとオジサマの友人は諭吉を四枚も五枚も支払う。処女だと諭吉は八枚から十枚にもなる。順子のオジサマは一部上場企業の役員であり、友人は会社経営者や政治家、警察の上層部なんて客もいる。


 しかし、友人の身元はオジサマしか知らない。オジサマの身元すら順子たちは知らない。順子や恭子にとって金払いのいい安全な客というだけ。オジサマたちも女の子の身元は聞かないのが約束だ。お互い知らないのだから、身バレもない。持ちつ持たれつ。


 ホテルがまずいならば、オジサマたちは順子のマンションを使う。支払いは直接女の子に渡す。女の子は栄養ドリンクの代金として、恭子に現金を支払う。恭子は売りの代金を直接扱わない、ということだ。金は全部巻き上げない。フリーで苺で売るよりも多少多く残す。その方が女の子が金が足りない、という文句も言ってこないという狡猾さだ。


 女の子たちが、恭子にオジサマの紹介を求める頻度は高くなってくる。しかし、家族や学校にバレるほどには栄養剤は与えない。そして、恭子は自分の通っている高校を皮切りにして、薬漬けの女の子たちの紹介などで、北千住周辺の別の高校や大学にまで手を広げる。女の子は使い捨てだ。問題が起こりそうな女の子とは事前に手を切る。手を切ったところで、そういう女の子は、別の売人を見つけて自滅するだけだ。フリーのパパ活、円光では苺がせいぜいだ。


 それに、恭子や順子は隠しカメラを使って、順子のマンションでの恭子とのレズ行為とかオジサマたちとの性行為を動画に撮影してある。女の子がもしもタレコミなどしようとするなら、その動画をばらまく、と脅迫する。


 あまりオジサマに人気のない女の子や使い捨て候補の女の子は、康夫や浩二などのヤンキーグループに与える。Sの仕入先は康夫だから、Sの代金の一部としてそういう女の子を使う。もちろん、ヤンキーたちとやった子の動画も脅迫用に撮影しておく。女の子はラリっているので、撮影されたことすら気づかない。


 これが、順子たちの実体。高校生や大学生も含め、大人も含め、すべてがおぞまし過ぎる。だが、誰もこの蟻地獄から抜け出せないし、抜け出す努力もしない。


 順子、後藤順子は、かつては田中美久の最愛の妹分だった。しかし、後藤順子と恭子、敏子、恵美子が何かやっているということは、詳細は知らないが、うすうす田中美久も、節子も紗栄子も佳子も気づいていた。田中美久の時代だったら、盗みも薬も売りも厳禁だった。徐々に、自然にこの二つのグループの距離は開いたのだ。


 二つの世界が天国と地獄ほど変わってしまったのだ。


 当たり前のこと。

四話 高校三年順子、智子と紗栄子


 最初の頃は、智子は調子が良かった。眠くない。食べなくても平気だ。体重も減った。勉強ははかどった。おまけに、いいにくいことだが、恭子とも気持ちいいことができた。成績も実際に上がったのだ。志望校に受かるかもしれない。自分の人生に希望が持てた。


 恭子は時々、グミをくれた。一週間に三回くらい。だけど、グミだけだと調子が落ちてきた。だるくなる。勉強もする気がしなくなる。恭子との気持ちいいこともやりたくなくなる。何を食べても不味い。食べ物の味が紙を食べているような気がする。そもそも、何も食べたくないのだ。グミじゃ足りない。栄養ドリンクが欲しい。だけど、恭子は一本四千円と言っている。そんなお金ないよ。お小遣いじゃ足りない。


 恭子は、私の顔を見て心配そうだ。「眠れないよぉ、恭子」とか「肌がかさかさになって、クマがでてるんだよう」と言うと、何回に一回は栄養ドリンクをくれる。そうすると調子がまた良くなってくる。でも、効き目はだんだん短くなってくる。


 智子は恭子に尋ねた。「恭子、前にさ、私と恭子が初めて・・・初めてした時、恭子は『安心して。私の知り合いの安心できるオジサマがいて、私みたいに智子を気持ちよくしてくれてお金をくれるから。紹介するわ』って言ったよね?もう、智子、恭子がタダでくれる栄養剤じゃ足りないみたい。恭子、オジサマって誰?そのオジサマ、私にお金をくれるの?」
「オジサマって、どこかの会社の偉い人らしいよ。だから、保証済みだよ。性病もうつされないしね」


「智子、智子はオジサマに会いたい?お金をいっぱいくれるけど、恭子が智子を抱くんじゃないよ。智子のお父さんくらいのオジサマが智子を抱くんだよ?それもでいい?」
「うん、でも、気持ちいいことする前に、恭子、栄養剤ちょうだいね。あれなしだと私無理」
「もちろん、あげるよ。でも、オジサマからお金を貰ったら、全部じゃなくていいけど、栄養剤のお金は私にちょうだいね。かなり建て替えたから」
「もちろんよ、恭子。いくらくらい貰えるの?」
「え~っと、八万円とか十万円とか。智子は初めて・・・処女だから、高いんだよ。その次からは、四万円とか五万円とかだね」
「そんなに?・・・恭子、これって、パパ活とか売りってこと?」
「パパ活とか売りは、出会いサイトとかでするやつじゃない?これは、私の紹介だから、そういう話じゃないと思うよ。オジサマは身元もしっかりしているし、変なことはしない。智子を優しくかわいがってくれるよ」
「わかった。恭子、私やるわ」


「順子ネエ、一丁上がりだよ。この前から話していた処女の智子だ。自分から売りたいって言ってきたよ。オジサマに聞いてみて。どのオジサマが智子を欲しいのかって?」
「恭子、わかった。段取りするからね。智子はいつがいいの?」
「できるだけ、早くって言ってる」
「まだ、たらしこんで、二週間も経ってないじゃないか?薬効きすぎなんじゃないの?」
「他の女の子と同じ分量しか渡してないんだけどなあ・・・」
「効きに個人差があるんだよ。量を減らしたほうがいいねえ」
「減らすと、ちょっと禁断でるかもしれない」
「二週間弱で?」
「効き過ぎたのかなあ?」
「まあ、様子を見よう。明日とか明後日で、家族にばれないように、夕方七時頃とかで都合がいいか、聞いといて。二時間厳守にしておく。九時までにホテルを出られるように。北千住から離れたホテルにしようか?」
「私もついていく?」
「初めてだからね」
「順子ネエ、私は外で待ってればいんだよね?私、男ダメだから」
「そりゃあ、問題ないよ。恭子は敏子や恵美子と違うもん。レズなんだから。オジサマ相手にできないだろう?今、オジサマに電話する・・・あ!オジサマ?この前から話していた初めての子。明日とか明後日の七時から二時間でいいかな?え?明日ね。え?病気も何もないよ。初めてだもん。ウチの子が確認済み。ロリだよ。中学生に見える。でも合法JKだから。そうそう、クスリは飲ませておくから。だから、スゴイと思うよ。キメセクだよ。え?諭吉九枚?十二枚くらいちょうだいよ。可愛いんだよ。写真送るよ・・・どう?え?十枚?まあ、いいか。じゃあ、それで。オジサマの方こそ相手の人、変態じゃないでしょうね?え?オジサマがするの?ちょっとぉ、私はどうなるのさ?え?そのあと?わかった。ホテルはこっちでリザーブしておく。場所を連絡するから、先に部屋にいつものように行ってね。ウチの子がドアまで送っていくから。ハイ、ありがとうございます」
「恭子、明日だよ。七時」
「私も智子に連絡するわ・・・あ?智子?明日七時、どう?二時間。学校が終わって、五時に私と一緒にこの前のマンションに行って、何か食べよう。ピザとか。それで、栄養剤を貰っておくから飲んでさ、で、七時にホテルに行くの。私もホテルの部屋の前まで一緒に行ってあげる。安全でしょ?帰りも一緒。あ!私服持ってきて。目立たないやつを。替えの下着も。マンションで着替えればいいよ。うんうん、わかった。じゃあ、明日・・・順子ネエ、オッケーです」
「恭子、ご苦労さん。最初が肝心なんだ。今回はオジサマだから安心だけど、智子は慣れてないから、部屋に入ってから、シャワーしますとか、作法を教えておかないと。細かいことはオジサマが智子に教えるだろうけどさ。恭子が建て替えたって智子に話した栄養剤は何パックって言ってある?」
「十五パックくらい。そのくらいは渡した」
「じゃあ、六万円ぶんくらいだね。ちょうどいい。十万円もらって、六万円巻き上げる。6対4くらいで、相手に四割くらい残すのがいいよ。どうせ、残りのお金も栄養剤に消えるんだから。厳しく巻き上げるよりも、細く長くやらせるのがコツだよ。次からは、智子だったら、六万円は固いから、三万六千円巻き上げて、二万四千円残してやるとかね。女の子にもよるんだ。原価なんてないんだから。6対4を守って、適当に建て替えた数を言っておくとか、まけてやるとか、それでコントロールすればいい。普通に売りやってれば穂別苺(ホテル代別、一万五千円)だろ?それ以上残してやれば相手だって文句ないさ。バックられるとまずいからね。金を適当に残してやって、周りに気づかれるほどの中毒にしない量を与えりゃいいんだ」
「そうか。欲をかいちゃダメ、ってことだね」
「そうそう。わたしらは人を紹介しているだけ。売りしてる女の子が客から金を勝手に受け取っているだけだからね。わたしらが受け取るのはあくまで栄養剤の売り賃だよ。売春斡旋しているわけじゃない。女の子が自由恋愛しているわけさ。おまけに合法JKなんだから」
「順子ネエ、あったまいいね。サツもわたしらに何にも言えないってことだね?栄養剤以外」
「恭子は頭がいいよな。わたしゃ、あんたに任せられるよ」
「でも、順子ネエ、私にもご褒美ちょうだいね」
「ああ、栄養剤とグミとね。でも、恭子もやりすぎちゃあダメだよ。こっち側が中毒になっちまったら、元も子もないからね」
「だから、順子ネエはそんなにやらないんだ」
「沢尻エリカみたいに、量をコントロールするってこったよ」


 翌日の午後五時、マンションに来た恭子と智子は、ピザの出前を注文して仲良く一緒に食べた。「でさあ、智子、ホテルの部屋までついていってあげる。着替え持ってきた?制服マズイからね。着替えて見せて・・・ああ、いいね、目立たないカジュアル。ホテルにも通行人にもバレちゃあまずいし。部屋に行ったら、シャワー使うんだよ。髪の毛は洗わないこと。家の人にシャンプーの匂いが違うのがバレるとダメだろ?」


「恭子、わかった。初めてなのよ。い、痛いかな?」
「大丈夫よ。栄養剤飲んでたら痛みよりも気持ちいいのが勝っちゃうから。ハイ、これ、栄養剤。今飲むんだよ。それから、グミを四個あげる。これはシャワー浴びる時に飲むこと。そうすると、オジサマとする時に効き目が出てくるからね。それで、この錠剤を終わった後のシャワーで飲むんだ」
「これ、何の薬なの?」
「アフターピル。もしも中出しされても妊娠しないようにする避妊薬だよ」
「恭子、ありがとう。妊娠、怖かったんだ」
「このくらいしかできないけどね・・・出かける前に、体をほぐしておこうよ。わたしと気持ちいいことしよう。そうすると、体がほぐれるし、もっと気持ちよくなりたいと思ってくるからさ。終わったら、栄養剤もっとあげるね」
「恭子、わたしいくら恭子に払えばいいの?いっぱい建て替えてもらったし・・・」
「十五パックくらい?六万円くらいだよ」
「よかった。足りるのね?」
「充分だよ。残りは何にでも使えばいいんだから」


 オジサマは智子をすごく気に入ったようだ。友人を紹介するよ、と順子に言った。順子は間を開けて、智子が落ち着いたら連絡する、とオジサマに言った。さすがに処女喪失してすぐってわけに行かないでしょう?いくら、智子がお金を欲しがってもね。


 彼らは実に巧妙だった。


      ―★―★―★―★―★―★―


 美久の三人組の一人の紗栄子は、幼稚園の頃から智子と学校が一緒だった。家が近所なのだ。紗栄子も智子も中学の頃の成績はそれほど良くない。だから、偏差値40の北千住から荒川の向こうの高校を選んだ。校舎はボロかったが、制服はまあまあ可愛い方だ。中学の頃から面倒を見てくれている田中美久もその高校だった。紗栄子と仲のいい節子と佳子も同じ高校を選んだ。それほど近い関係でもない智子も同じ高校だ。


 田中美久は紗栄子と二才違いで、紗栄子が入学した時に田中美久は高校三年生だった。田中美久の妹分の後藤順子は高校二年。顔見知りではなかったが、恭子、敏子、恵美子の三人組も紗栄子と同学年の一年生だった。


 紗栄子の一年生の最後の学期、その高校で前代未聞のことが起こった。田中美久は進学コースを選んでいたのだが、高校二年、三年生で人が変わったように勉強した田中美久が、ヤンキーのくせに(と教師・生徒や周囲から言われた)学校推薦型選抜でお茶の水女子大学の理学部に合格してしまったのだ。


 その年度の美久の学年の大学合格実績を見ればわかる。


 お茶の水女子大学、帝京科学大学、明海大学、川村学園女子大学、中央学院大学、帝京平成大学、東洋学園大学、流通経済大学、敬愛大学、淑徳大学、聖徳大学、千葉商科大学、国士舘大学、専修大学、東京経済大学、東京未来大学、東京理科大学、東洋大学、文京学院大学、すべて一名ずつ。


 他の大学のレベルを見れば、田中美久の進学がいかに異常なことかがわかるだろう。それもヤンキーなのに。


 その高校は、高卒認定もらって働くという人には向いている程度の学校だ。それに紗栄子の家は、紗栄子を大学に進学させるほどの資力はなかった。佳子も同じだ。節子は家がまあまあ裕福だったが、勉強する気もあまりなく(田中美久は口酸っぱく勉強なさいと言っていたが)、三人組はみな就職コースだった。


 田中美久が周辺の高校を束ねて君臨していた二年間、グループの規律は厳しかった。喧嘩沙汰は起こすが(それもしばしば)、売りもクスリも盗みもご法度だった。妹分の後藤順子もその規律をよく守っているようによそおった。


 後藤順子が処女を失った相手は、別の高校の康夫という男子だった。康夫もヤンキーグループに所属していた。ただ、付き合いが、北千住の半グレや暴力組織だった。康夫は密かに覚醒剤を扱っていた。康夫に感化された後藤順子は徐々に田中美久に内緒でその方面に手を出していった。


 紗栄子が高校一年生の時に事件が起きた。半グレのグループに拉致され、輪姦されたのだ。激怒した田中美久は、自分のグループにも言わず、一人、半グレのアジトに殴り込みをかけ、紗栄子を取り戻してきた。それ以来、紗栄子は田中美久をさらに崇拝するようになった。仲間の節子も佳子もそうだ。この件で、以前から警察に目をつけられていた田中美久は、警察にこってりと絞られた。しかし、事情も事情なので、お咎めなしだった。田中美久の警官の知り合いができたのはこのときだ。


 田中美久がお茶大に進学する時、後藤順子の密かにやっていることを知らない彼女は、順子に後を任せた。後藤順子のことを胡散臭いと思っていた節子、紗栄子、佳子は反対したのだが、美久は昔からの妹分の後藤順子を信じ切っていた。


 順子が仕切りだすと、高二になった節子、紗栄子、佳子はグループと距離を置きだした。代わりに、恭子、敏子、恵美子の順子と仲の良い三人組がのしてきた。徐々に、順子は秘密にしていた(彼女と康夫の言う)事業を拡大していった。恭子、敏子、恵美子はその事業の手下になっていった。


 高校に進んでから、智子の成績はよくなっていった。紗栄子たちのグループにも属さず、大学進学の特進クラスに選抜された。智子は、大人しい性格の女の子だった。160センチと目立ちもしない普通の背丈。しかし、可愛らしかった。引っ込み思案の本人は気づいていないが、AKBとか坂道グループのオーディションを受けても合格できるレベルだ。一部の男子から噂されたが、性格が陰キャで積極的ではなかったので、誰とも付き合わなかった。


 高校一年生の時、智子はクラスカーストで差別されイジメを受けそうになった。その時、智子をかばい、イジメっ子から守ったのが恭子だった。恭子にして見れば、勉強のできる智子を助けておけば宿題なんかで助かるわ、という自己中の考えで助けたのだが、友達も少なく、それも陰キャばかりだった智子にとって、背は低かったが可愛く目立ち明るい陽キャの恭子に助けれたことは彼女にとってエポックメイキングなことだった。もちろん、智子は恭子の裏の顔を知らない。


 そう、恭子に目をつけられ、今や堕ちようとしている智子の周辺はこういう状況だったのだ。


 ある日、紗栄子が下校しようとした時、校舎の横で顔見知りの智子と恭子がヒソヒソと話をしているのに気づいた。「おっかしいなあ、あのガリ勉の智子とヤンキーの恭子とどう接点があるんだろうか?」と紗栄子は訝しんだ。横目で見ていると恭子がカバンからお菓子のグミを取り出して智子に勧めている。(おいおい、グミ食ってるよ、チビ二人。お子様だね。まあ、智子に友だちができるのはいいことさね)と紗栄子は思った。


 下校して北千住駅の周りを節子と佳子とつるんで歩いている時、紗栄子が「節子、佳子、あの智子って知ってるだろう?」と言った。
「ああ、紗栄子の幼馴染のあいつか」と節子。
「幼馴染ってほどじゃあないよ。近所で学校が昔から一緒だっただけだよ。あいつがさ、今日みかけたんだけど、あの恭子と仲良くしてるんだよ。グミなんか一緒に食べちゃってさ」
「恭子と?おかしな組み合わせだねえ・・・」
 その時は、それで話は終わった。


 数日経って、紗栄子は一人で上野に家の買い物の用事ででかけていた。ついでに自分の買い物もする。買い物と言ってもオシャレに興味のない紗栄子はもっぱらウィンドーショッピングだ。上野松坂屋をのぞいたり、エキュート上野、アトレ上野なんかをぶらぶらした。山手線沿いにアメ横も冷やかしに行ってみた。御徒町まで来てしまった。


 紗栄子が昭和通り沿いのルノアールでコーヒーとケーキを食べていると、窓の外を手をつないで上野方面に歩いている智子と恭子をみかけた。(あれ?また変な組み合わせが、御徒町にいるよなあ?)紗栄子はもう店を出るつもりだった。お勘定をすませ、興味本位で二人のあとをつける。


 二人は、昭和通りを上野方面に歩いていく。(何の用事だ?ショッピング街があるわけでもないここら辺で?)と紗栄子は思った。二人は百数十メートル歩いて、ホテルサードニクス上野というビジネスのようなホテルに入ってしまった。二人に気付かれないようにホテルのエントランスからのぞくと、智子はエレベーターで上の階にのぼってしまう。恭子は、ホテルの横のカフェに入ってしまう。


(え?なんだ?あいつら、何をしてるんだ?一緒でもなく、智子は上の階?それって、ホテルの客室?それで、恭子は横の喫茶店?おっかしいじゃねえか?)


 紗栄子は、暇だったし、智子と恭子が出てくるまで待つことにした。カフェに居るだろう恭子に気付かれないように、昭和通りを行ったり来たりする。紗栄子は節子に電話することにした。LINE通話をかける。節子が出た。紗栄子は節子に今見ている話をした。「そりゃあ、紗栄子、おっかしな話だよな?おまえ、外で待って見てろよ」と言われ「うん、そのつもり。まったく変だよねえ」「おっかしな話だよなあ」と言って通話を切った。


 一時間経っても出てこない。イライラする。一時間半。まだだ。二時間ちょっと経った頃、ようやく智子と恭子がホテルを出てきた。こころなしか智子の顔は上気している。最近は青白かった顔がピンク色だ。見ていると、路上で智子がお札を数えだした。数えて、何枚かを智子は恭子に渡した。


(なんじゃ?ありゃあ?う~ん、どういうことだ?なんで智子は恭子に金を渡すんだ?まさか、あの智子が売りやってんのか?)


 紗栄子は頭の中が疑問符だらけになった。二人は御徒町駅の方に戻っていく。紗栄子は彼女らと距離を開け、ついていったが、二人は北千住にもどるようだった。


(まあ、節子と佳子と話そう。美久ねえさんと兵藤さんにも相談してみるか?)


 紗栄子は智子と恭子と離れ、別の電車で日暮里経由で北千住に戻った。


五話 高校一年順子、順子と美久


 北千住の駅の改札口を出て、美久とタケシ、カエデの三人組が分銅屋の方に向かって歩いていた。「カエデ、なんで一週間に三回は北千住に来るの?」とタケシが聞く。
「お兄、美久さんにね、お兄を差し上げます、とは言いました。でもね、お兄は私にまだ彼氏を紹介してくれないし、紹介して私がその男性を気に入って、お付き合いするまでは、美久お姉さまを邪魔してやります。二人だけでベタベタして、ホヨヨ~ンって気分でいられてたまるもんですか!邪魔して差し上げます。それに私が北千住に来て遅くなると、お兄は私を神泉まで送る義務があります。どうだ、まいったか?」
「やれやれ」
「でも、タケシさん、楓さんといると楽しいわ。タケシさんが彼氏さんを楓さんに紹介して、楓さんが北千住に来なくなると、私、寂しいかも」
「もう、美久お姉さま、ぜんぜん効いてないのね?今の状態は一夫多妻制に等しいのよ!」
「なんのこと?」とキョトンとしている。
「こりゃ、ダメだ。お姉さま、負けました。スミマセン。まったく。それよりも二人共、私が来ない日には『ゴックン』以上進んだの?」
「え?あ!・・・進んでないよ」とタケシ。
「ハイ、楓さん、あのままで止まってます」とイジイジとタケシの袖をいじりだして、下を向いて赤くなる美久。
「え~、あれで止まってるの?私の邪魔って意味ないじゃん?もう、やっちゃえばいいのにさ。意気地なしねえ、二人共」
「ま、まあ、その時が来たら。ねえ、美久?」
「ハ、ハイ。が、がんばります・・・」


 手のひらで額を叩いて天を仰ぐカエデ。このバカップル!


 三人が分銅屋の暖簾をくぐった。「こんばんわ~」と店に入って板場を見た。三人とも固まった。女将さんは普通に薄水色のセーターにエプロン姿だ。しかし、その隣に、髪を料亭の女将のようにアップにして落ち着いた和服姿の女性が立っていた。せ、節子ぉ~?


 節子が和服の前合わせに両手を揃え、立礼をした。顔をあげて、「兵藤様、田中様、いらっしゃいませ」と言う。さすがに三人とものけぞった。カウンターには南禅と羽生がもう座っている。「美久ちゃん、楓ちゃん、タケシくん、こんばんわ。あのさ、今日来てから節子はずっとこの調子なんだよ。こっちの調子狂っちゃうよ」と羽生が言う。


 美久が女将さんに「姐さん、これどういうこと?」と聞くと「この前、ヤンキーからフレンチにイメチェンして、じゃあ、アルバイトはどう?って聞いたでしょ?それで、節子がやらして下さい、というのでお願いしたのよ。そうしたら『女将さん、居酒屋ですから和服にします。和服貸して下さい』と言うので、和服を着せたらこうなっちゃったの。格好が変わったら、挙措動作まで変わっちゃって、人格が豹変したのよ。もう、紗栄子も佳子も呆れてるわよ」
「女将さん、私もいい大人なんだから、女性らしくしないといけないと思いますのよ。美久ネエさん、兵藤さん、楓さん、まずはおビールになさいます?」


 そんな節子の格好の話を一同していると、佳子を連れた紗栄子が入ってきた。「こんばんわ~、って、節子、和服のまんまか?」「あらぁ、紗栄子さん、佳子さん、いらっしゃい」「節子!調子、狂うんだよね、まったく。ああ、今日来たのはさ、節子、さっき電話かけたろ?恭子と智子の話?」


 節子は元の調子に戻って、「ああ、あれどうだったんだい?」と紗栄子に聞く。「あれから、あいつら北千住に戻ったみたいで、私は別の電車で帰ってきたんだけど、ありゃあ、やっぱりおかしいよな?」
「う~ん、確かに」
「それは何のこと?恭子と智子って、あの恭子のこと?」と美久。
「そうそう、美久ネエさん、ネエさんの妹分の順子の三人組の恭子ですよ」


 紗栄子は、紗栄子が下校しようとした時、校舎の横で顔見知りの智子と恭子がヒソヒソと話をしている日の話から初めて、さっきの御徒町の話までをみんなにした。


「売りを智子が?恭子が金をもらってたって?おかしいじゃないか。グループじゃあ、盗みもクスリも売りもご法度だよ。け、喧嘩は・・・」とチラッと美久はタケシを見て「喧嘩はちょっぴりするけどさ」と言って赤くなった。「まあ、状況証拠だから、ホテルの上の階に行ったからって売りとは限らないだろ?なんなら、私が順子に直接聞いて・・・」


「いや、美久ネエさん、ネエさんは抜けたんだから、私らがもうちょっと調べてからってことにして下さい」
「わかったわ。順子がそんなことをするわけがないと思うけど・・・」
「ねえ、美久、その順子って、この前から時々名前がでるけど、美久や節子、紗栄子、佳子とどういう関係なの?」とタケシが美久に聞いた。


 女将さんが「美久ちゃん、最初から後藤順子の話をタケシさんにしてあげなさいよ」


「女将さん、わかりました。う~ん、その前に、この話はタケシさんと楓さんにしてないね。タケシさん、楓さんに、なぜ、ヤンキーだった私が大学の理学部なんかに行こうと思ったかを説明しないと」
「そうなんだよねえ。ネエさん、高校二年生で突然ガリ勉になっちまうんだからね」と節子が言う。そうそう、と紗栄子と佳子がうなずく。


「まあ、突然じゃないのよ。高校一年生の時、グレて喧嘩ばかりしていた。タケシさん、ゴメンナサイ。それで、三学期が終わって春休みの時、女将さんが、『美久、出かけるよ、ちょっと遠出だ。ついておいで』って、茨城県まで車で連れ出してくれた。そこは、原子力科学研究所内にある高エネルギー加速器研究機構のJ-PARCという施設だったの。女将さん、物理科の院卒でしょ?だから、女将さんが知り合いにお願いして私に特別に見学させてもらったの。森さんっていう女性ですごく若いのに博士の人が案内してくれて。白衣着て格好良かった。森博士が見せてくれたのはいろいろな加速器。50GeVシンクロトロンとか。私、楓さんみたいにメカは強くないんだけど、森博士が説明してくれる原理がわかったような気がしたの。勉強もしなかったのに、なぜかわかるのよ、物理原理が。公式が頭をスクロールするのよ。私、感動してしまって・・・」


 あ!それでか!美久お姉さまって理論系なんだ、と楓は思った。


「それで、南禅さんと羽生さんのお知り合いで、ここに時々いらっしゃる小平先生という方がいて、東京大学の宇宙線研究所に勤務されているの」
「小平先生って、小平一平教授?」とタケシが聞く。
「そう、小平一平教授」
「ぼくは時々お見かけすることがある。大学で講演されて聴講したことがあるよ」
「そう、その小平先生は、スーパーカミオカンデもご担当されていて、ニュートリノの話などをしてくださって。スイスとフランスにあるCERN(セルン)の話とかも。世界最大の大型ハドロン衝突型加速器の話。もう、私、頭をぶん殴られたみたいで。タケシさんも小平先生と同じ大学でしょ?実は、アパートの賃貸の申込書を見て、ああ、この人、小平先生と同じ大学なんだなあ、って思って、思い切ってここにお酒に誘って・・・こうなっちゃったの、ス、スミマセン」


 あ~あ、ユングのシンクロニシティ(非因果的連関の原理)かよ。お姉さまは私の大学の先輩になるし、これは私もシンクロニシティに組み入れられているの?と楓は思った。


「だから、今の私があるのも、みんな姐さんのおかげなの。これが私が大学に行った理由。それで、順子の話ね。え~、話は私が高校二年生の頃の今から二、三年前の話になるんです・・・」


      ―★―★―★―★―★―★―


 美久と順子が、美久の家の不動産屋事務所の奥の美久の家にいた。畳部屋に六尺の欅の座卓がおかれていた。横並びになって、学校の宿題をやっつけている。美久は高校二年、順子は高校一年。


 二人共、タータンチェックのミニスカート、白のブラウス、茶色のニットのベストの制服姿だ。校則がうるさいので、学校ではスカートは膝丈だが、学校を出るとみんなスカートを織り込んで、膝上20センチのミニスカートにしている。


 美久は長髪の茶髪で身長は160センチくらい。昔の後藤久美子にちょっと似ている。可愛い顔をしている、高校生のギャルのようだがヤンキーである。順子は、身長165センチ、ダークカラーのボブのヘアスタイル。黒木メイサのようなハーフっぽい顔立ちをしている。美久よりも年下だが、美久より大人っぽい雰囲気だ。


 順子は英語の宿題をやっていて、時々髪の毛をかきむしりながら悩んでいる。横を見ると美久は胡座をかいている。「美久ネエさん、パンツ見えてるよ、ネエさんの苺パンツ」と順子が言った。


「え?キャッ!」と美久はあわててスカートの前をかきあわせる。
「美久ネエさん、いい年こいて苺パンツかよ?」
「そういう順子はなにはいているのさ」と順子のスカートをめくる。黒のインナーパンツだ。「順子、おまえ、そんなインナーなんてはいて、蒸れるだろ?」
「美久ネエ、エッチだな。スカートめくるなよ。駅の階段下でのぞいているヤツがいやなんだ。だから、インナー必須よ」
「わたしは蒸れるの嫌いだもん」
「蒸れるの嫌いでも、苺パンツはないでしょ?」
「あのねえ、順子、なくなったお母さんがわたしに買ってくれたのが苺パンツばかりだったの。それ以来、苺パンツなの」
「それって、美久ネエが小学生の頃だろ?もう高校二年だよ?もっと色っぽいパンツはきなよ」
「色っぽいって、彼氏もいないのに、そんなパンツをはいてもしょうがないじゃん。彼氏ができたら、買ってもらうよ。じゃあ、順子はそのインナーの下になにはいてるのよ?」
「え?美久ネエ、みたい?見せてあげようか?」
「いいよ、別に見せても」


 順子はインナーをめくって、「ほら」と美久に見せる。「ええ?なにこれ?」
「赤のウィングショーツだよぉ。上下おそろい」
「ふ~ん、こういうのを順子はくのかあ」
「美久ネエみたいに結婚まで処女守ります、っていう現代の化石じゃないのよ、私は。男が欲しいのよ。彼氏がほしいの。だから、いつでも準備万端!」
「順子、私だって処女守っているわけじゃないよ。彼氏がいないんだもん」
「それは美久ネエが彼氏を作るつもりがないだけじゃない。可愛い顔して男無視してるからじゃん」
「無視してないよ。よってこないだけだよ」
「まあね、喧嘩強いし、男は近寄りたくないタイプなのかもね」
「そこが悩みのタネなんだけどなあ・・・」


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「美久さん、ぼくは感動した!美久さんのルーツは苺パンツだったんだ!お母さんの買ってくれた苺パンツが美久さんのルーツになって、貞操を守り、いつか苺パンツを超えるパンツを買う彼氏をまっていたんだ!」
「そおですよ、タケシさん、それがタケシさんだったんです!キャッ!」


 みんな、呆れて二人を見た。カエデは思った。ちげぇーよ。美久さんばかりと思っていたら、お兄も天然か?そこが話しのポイントじゃねーだろ!この天然バカップル。呆れて物が言えんよ。このどアホ!早く話続けろ!


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 順子は北千住のもっと上の荒川沿いに住んでいるんだけど、同じ高校に入学してきて見かけたことがあるかな、というほどで、知り合いでもなんでもなかったのよ。それがある日、私がコンビニで週刊誌を読んでいたら、順子も入ってきて、お菓子とか見ていたの。横目で見ていると、悪そうなヤンキーの男二人が順子のトートバッグにお店の商品をそっと入れているのが見えたのよ。それでレジの方を見ていると、店員はそれを見ているはずなんだけど、何にも言わないの。男二人は店を出ていった。順子も店を出ようとしたら、店員が順子の肩をつかまえて、「お嬢ちゃん、お店のものはお金払わないと持って出れないよ」と順子に言ったのよ。「私、何もしてませんけど?」と順子が言うと、じゃあ、そのトートバッグ見せてよって開けさせたの。男二人が入れた商品がでてくるわよね。「私、知りません」という順子の手を引っ張って、店員は奥の事務所に順子を連れ込んだ。


 私は、「はっはあ、男二人は店員とグルだ。店員はこの子を強請るかエッチなことをするか、悪さするつもりだな」と思った。どうしようかな?関わるのもメンドイなあ、と思ったけど見ちゃったからね。店内を見回すと、CCTVカメラがあって、男二人が順子のトートバッグに商品を内緒で入れた様子はカメラの視野に入っているみたいじゃない?と思ったの。外を見るとあの男二人も戻ってきていて、店内に入って知っているみたいに平気で事務所に入ってしまった。


 あ!こりゃ、店員と二人でグルで、女の子をはめて、どうにかするつもりだな?と思った。事務所によっていって、ドアをそっと開けると、男の一人が女の子を羽交い締めにして、口を押さえていて、店員は女の子のパンツの中に手を入れて、ズボンを下ろしてあれを出しているのが見えた。もうひとりの男がスマホで写真か動画を撮っている。このマンガみたいな展開で、私はカッとなって頭に血が上っちゃってさ。乱入しちゃったんだ。


 この野郎、一部始終私は見てたぞ。CCTVにだって、こいつらが店の商品をこの女の子のトートバッグに忍ばせたのが映っているはずだろ?おまえらグルでこの子をはめたな?と言ったら、男二人が順子を離して私に向かってくるんで、橋本真也のやるバックハンドで首筋に袈裟斬りチョップ食らわして、股に蹴りを食らわしてのしたの。それから、店員がズボンをあげようとしたので、それも股に蹴りを食らわした。店員はあれを出してのびたよ。って、タケシさん、ゴ、ゴメンナサイ。


 男のスマホを取り上げて、女の子のパンツをなおしてやって、サツに・・・警察に連絡した。そうしたら、顔なじみのお巡りさんが来て、美久、またおまえか?って言うんで、事情を話して、CCTVを再生すればこの子がはめられたのがわかるよ、って説明したのよ。男のスマホは渡したけど、この子の恥ずかしい写真か動画が映っているから、今、削除して!今!って言って、お巡りさんが証拠品とかブツブツ言っているので、この子の人生をあんた潰す気か?って言って消去させたの。


 まあ、これが順子との出会いで、順子が止めろと言うのにグループに入ってしまって、私の妹分になったの。で、節子と紗栄子と佳子が高校に入学すると、順子の近所の恭子と敏子と恵美子も入学してきて、彼女たちは順子の妹分になった、ってこと。それで、大学に入学するので、グループを抜けたんだけど、みんなが順子を後釜にというので、順子が後釜になったということ。節子と紗栄子と佳子は反対したんだけど。


 順子は、中学の時に、両親が離婚して、お母さんに引き取られたの。お母さんは銀座で水商売をやっている雇われママで、順子は鍵っ子だったから、コンビニ事件以来、うちによく来て、ここにも連れてきてた。面倒を見ていて、妹ができたみたいと思った。順子が高校二年になって、康夫っていう男とできちゃって、少し変わっちゃったし、疎遠になっちゃったけど、根はいい子なのよ。


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「あっしたちはそうは思わねえ。ネエさん、順子は影でなんか悪いことをやってるよ。なあ紗栄子、佳子」と節子が言うと、紗栄子、佳子もうんうんとうなずく。「ネエさん、こっちも少し調べるから、今は黙ってみていて下さいな。紗栄子、佳子、あとで相談しよう」


 この時、みんなで調べていれば、あんなことにはならなかった。