フランク・ロイドのブログ

フランク・ロイドの徒然

よこはま物語、ヒメと明彦6、明彦編、ヒメと明彦 XXVIII

よこはま物語
ヒメと明彦6、明彦編
ヒメと明彦 XXVIII

登場人物

宮部明彦    :理系大学物理学科の1年生、横浜出身
仲里美姫    :明彦の高校同期の妹、横浜の女子校の3年生
高橋良子    :美姫の高校の同級生
生田さん    :明彦のアパートの大家、布団屋さん
坂下優子    :美姫と良子の同級生


張本芳子    :良子の小学校の同級生、大陸系中国人の娘、芳(ファン)
林田達夫    :中華街の大手中華料理屋の社長の長男
吉村刑事    :神奈川県警加賀町警察署所轄刑事
王さん     :H飯店のマネージャー/用心棒


小森雅子    :理系大学化学科の学生、美術部。京都出身、
         実家は和紙問屋、明彦の別れた恋人
吉田万里子   :理系大学化学科の1年生、雅子の後輩、美術部
内藤くん    :雅子の同期、美術部、万里子のBF
田中美佐子   :外資系サラリーマンの妻。哲学科出身


加藤恵美    :明彦の大学の近くの文系学生、心理学科専攻
杉田真理子   :明彦の大学の近くの文系学生、哲学専攻


森絵美     :文系大学心理学科の学生
島津洋子    :新潟出身の弁護士


清美      :明彦と同じ理系大学化学科の学生、美術部


ヒメと明彦5、芳芳編、ヒメと明彦 XXVI の続き。


 酔ってきたのか、雅子が、美姫には負けません!と言ったり、いいえ、美姫ちゃんが戻ってきたら、私は身を引きます!と言ったり、無茶苦茶言っている。良子は、私は雅子、美姫、どっちに転んでも安泰よ、とこいつもとんでもないことを言っている。良子、二人ともあぶれちゃったら、どうする?と雅子。そうよねえ、私は雅子と一緒に生きていこうかしら?あら、じゃあ、早速試さないと、良子、今晩、私のマンションに泊まらない?それ、いい考えね、私、雅子のマンションに泊まる!おいおい。


「明彦、なんとか言ってやれよ」
「どうしようもないなあ」
「こんな二人も美姫も捨てちゃって、私と仲良くなればいいじゃん!日本娘よりも中国娘の方がよっぽど良いよ。京都女はキツイよ?丘の上のお嬢様たちは身勝手よ。それに引き換え、私のような中国娘は尽くすわ。子供だって、じゃんじゃん産んじゃうもん。どう?」
「ファンファン、酔ってる?」
「冗談だよ・・・半分・・・って、みんな、6時半になった。もうすぐ陽が落ちるよ」


 良子が急にシャキっとなった。「よし、顔洗おう。雅子、洗面所、こっち。それでお化粧しましょう」という。
「お化粧?」何言ってんだ?
「ファン、あなたは中華街で面が割れている。雅子さんは東京に住んでいるからまだいいけど、私と明彦は地元。私とこの二人はちょっと細工する。雅子は化粧で面が割れないようにするのよ」と言い出す。なるほど。冷静ね、良子。二人が洗面所に行った。


「ねえ、ファンファン、キミの格好とか、良子も黒尽くめになるんだろう?ここから林田のアパートまで歩いていくのか?タクシー、拾うか?」
「ああ、私の家の若いのに送らせるわ。ハイエースがあるから。家の人間に手出しをさせると抗争になるから、運転だけ」
「ファンファンも得体の知れない女の子だよなあ」


 ・・・戻ってきた二人は、別人だった。明彦にも野球帽をかぶらせた。


 家に電話をかける。ちょうどいい!マーくんが出た。私に惚れてる若い子だ。四の五の言わずにハイエースでこの住所に来なさい!と指示した。良子張りに、20分あげます!と言ってみた。


 マーくんの車にみんなで乗り込んだ。私は助手席に。マーくんに達夫の住所を言う。何も聞くな、近くで待ってろと言った。


 アパートには照明がついていた。達夫、在宅中!いい?私がチャイムを鳴らす。ドアは開けさせる。私が突入するから、良子が次。遅れて、明彦。雅子さんは、ドアの側で待機よと指示した。


 アパートのチャイムを鳴らした。ドアが細めに開けられる。誰だ?という達夫の声。ファンファンよ、張芳芳。あんたがなんか、女を売っ飛ばすって話を聞いてさ、私も一口乗せてもらえないかなあって思ってさ。あんた、仲里って人、ここにいさてているんだって?と良子張りの立板に水でまくし立てた。


 達夫はドアを閉めようとした。仲里?そんな女、知らねえな。ほほぉ、私、仲里とは言ったけど、性別なんて言ってないよ!ドアに足を入れた。無理に閉めようとするのを足を抜いて、思いっきり閉じた。また開ける。アホめ。


 玄関に踏み入った。チラッと達夫の後ろを見る。女の子はいない。男三人。良子、奥に男三人!と叫んで、達夫の金玉にブラックジャックをお見舞いした。股間を押さえて、うずくまる達夫。土足で部屋の奥に入る。さっと見回す。軽量級が二人。重量級が一人。


 良子、デカブツ任せた。私は残り二人!と後ろにいるだろう良子に声をかけた。私の横をスルスルと通り抜けて、デカブツに向かう。良子はデカブツの足を踏みつけて、膝を曲げ、下からデカブツの顎に掌底をぶちかます。吹っ飛ぶデカブツ。おい!それ、合気道じゃねえだろ?


 ファン、後の二人も任せて!明彦をお願いと良子が叫んだ。私が振り返ると、達夫は、ズタボロになっていた。私のブラックジャックで金玉を打たれて、明彦が杭打機のように達夫の脳天に頭突きをかましたから当たり前だ。出血はほぼないが、脳震盪でくらくらしているんだろう。素人は手加減を知らないからな。達夫と明彦の間に割って入って、明彦を止めた。


「明彦、お止め。止めなさい。もう達夫は反撃できないよ」と彼に言う。達夫が私の言葉にウン?という顔をした。


 達夫がニヤリと笑った。頭がガンガンするんだろう。頭を左右に振っている。「お!おお?あんたが明彦さんか?美姫の彼氏の明彦さんか?」と明彦の顔を見据えて言った。良子も残りの二人をぶっ倒したようだ。玄関の方に来た。


「おい、達夫!仲里美姫をどこにやった?」と聞いた。
「売っ飛ばしたよ。儲かった」という。このクソ野郎!
「どこに売っ飛ばしたんだい?このクソ野郎!」と良子が達夫の胸ぐらを掴んだ。
「お!よく見りゃ、あんたは、美姫と予備校で一緒のボディーガードのねえちゃんじゃないか?背高のっぽのねえちゃん。良子とか言う名前だったな?そうか。この色男は、美姫ともやって、良子ねえちゃんともやってたんだな?え?ファンファン、お前もこいつにやられたのか?良いよなあ、美姫、良子ねえちゃん、それにファンファン?」
「あなたは、私と美姫を予備校で見かけたの?」と良子が達夫に聞いた。
「そうさ。去年の春先から美姫を狙ってたんだよ。だけど、あんたがいつもボディーガードよろしく一緒だから、粉をかける隙がなかった。それが去年の8月、あんたがいないんで、美姫一人の時があった。それでナンパしてやったんだよ」
「おい、達夫、そういうことはベラベラ喋るくせに、美姫をどこにやったのか、売っ飛ばしたのかは、吐かないのか?台湾の連中というのはわかってんだよ、こっちは」
「よくおわかりで。でも、言うもんか。言ったら、台湾のヤツラに俺はドラム缶にコンクリート詰めにされて東京湾に沈められる。俺が言わない限り、お前らも手は出せないだろう?カタギのファンファンが俺を殺せるわけもねえ」
「このクソ野郎が!」


「ケッ!美姫をどこにやったかはゲロしねえけど、美姫とどうしてたかはいくらでも言ってやる。去年の8月、美姫が一人の時に、美姫をディスコに誘ったんだ。あいつ、ホイホイ着いて来やがって、世間知らずもいいところだった。ディスコで、酒に目薬垂らしたらイチコロだった。ラブホにに連れ込んで、朝まで犯してやったぜ。ああ、明彦、美姫の名誉のために言っておいてやるが、8月の時は、目薬で意識が飛んでたから、俺をあんたと間違えて、明彦、明彦とうめいて、抱きついてきた。あんな締りの良いマ●コはなかったな。え?その背高のっぽのネエチャンも締まりがいいのか?」
「ファンファン、その警棒を貸してくれ。ぼくはこいつを殺す」


「明彦、俺を殺したら、美姫は見つからねえぜ。まだ続きがあるんだよ、美姫と俺は。1回目は、美姫は正気じゃなかった。目薬と酒でラリってたからな。朝、気がついて、俺の顔を見た時の美姫の顔を見せてやりたかったな。抱かれていたのが明彦じゃなく、俺だったんだからな。だけどな、9月、10月からは違った。ノッポのネエチャンが一緒じゃない時、俺が声をかけると、美姫は自分からついてきた。もうその後は、薬なんかつかわねえ。シラフで美姫を犯した。美姫もアヘアヘ言って喜んでいたよ。ただな、抱いている最中に、『アキヒコ、ゴメン、リョウコ、ゴメンナサイ』って泣きながらヨガってるんだよ。もう、あの気分ときたら、たまんなかったよ。それによ、この前の月曜から、俺が美姫を拾ってかくまったが、俺は美姫を拘束しちゃあいないぜ。あいつがここにいたいというからいさせたんだ。明彦よ、よほどお前のより俺のチ●コが良かったんだろうな。俺は他の連中には手を出させなかったよ。輪姦さなかったんだ。商品だからな。逆に、感謝してもらわなくちゃいけねえよな?」私はこの減らず口をぶん殴って黙らせた。


「おい、達夫、そのへんにしときやがれ。お前、台湾野郎が怖いんだろう?美姫の居場所をゲロしたら、台湾野郎が米軍の不良兵士と組んでやってる若い女の誘拐と海外への日本女性の人身売買も一緒にバレるからね?ドラム缶にコンクリート詰めにされて東京湾に沈められる理由には十分だ。そうだろ?」
「お前、知っているのか?」
「ああ、ある筋からな。まあ、台湾野郎は怖いだろうさ。私たちは怖くないだろね。お前を殺すなんてできないからな。ただな、達夫、その台湾野郎どもと同じくらい怖い場所にこれから連れて行ってやる」
「ケッ!サツなんかこわかねえぜ」
「いいや、別の場所だ」
「ああ、もう一つ。奥の部屋のクローゼットに美姫のバックが入ってる。忘れんな。俺の精子のべっとりついた美姫のパンティーが中にあるぜ。ここに隠れさせた後もさんざん犯したからな。美姫ももうどうともなれと思ったんだろう?俺にすがりついてきた。あのよがり方半端じゃなかったな」
「お黙り、達夫。良子、私のバックに縄と目隠しと猿轡が入ってる。こいつを後ろ手にふんじばってやって」
「わかったわ。了解」良子は泣きそうになっている。そりゃあそうだろう。こんなクソ野郎に親友を犯されたんだから。明彦は床に膝をついて下を向いていた。


 私は、良子がのした達夫のダチのクソ連中の頭を蹴り飛ばして、しばらく起きないようにした。このクソどもが。少なくとも、美姫は輪姦されてはいないようだ。それだけが救いだ。


 クローゼットを開ける。美姫の中くらいの大きさのバックがあった。中を見た。化粧品、手帳、財布、衣服、下着。下着は確かに汚れている。クソが。まあいい。大事なのは手帳や財布などの身元が割れるものだ。明彦にこんなバックを開けさせるつもりはない。


「さ、みんな逃げるよ」と言う。明彦が力なく立ち上がって外によろけて出た。良子が後ろ手に回した達夫の腕を取って引きずり上げながら外に出た。アパートのドアの横で雅子が心配そうに見ていた。「雅子、逃げるんだ、車を呼んで」と彼女にお願いした。


 彼女が車を呼ぶ前に、ハイエースが来た。事情を知らないマーくんは、運転席から降りて、スライドドアを引く。良子が先に乗って、達夫の髪の毛を鷲掴みにしてハイエースに引きづり込んだ。続いて、雅子と明彦が乗り込んだ。私は助手席に乗った。


「明彦、大事な手がかりだ。手をだすんじゃないよ」と念を押した。明彦の目に殺意があるのを見たのだ。良子は顎をそらして上を向いて涙をこらえている。雅子は、事情が飲み込めないなりに、大変なことになっていると思っているんだろう。黙って達夫の顔を見ていた。


 私はマーくんに耳打ちした。達夫に行き場所を知られたくない。「マーくん、何も言わずに、H飯店本店の正面玄関にやってくれ。私らが降りたら、近くの路地に駐車して待ってて。手は出すんじゃないよ。見ざる言わざる聞かざるだ。私らが戻ってこなかったら、パパに知らせて」


 マーくんも小声で「お嬢、こいつ林(リン)とこのドラ息子でしょう?応援呼ばんでいいんですか?」と聞く。


「バカ。これはウチの家の問題はないんだ。ウチの家を巻き込んだら、抗争になるだろ?それもリンとだけじゃないんだ。話は後で説明してやるよ。私もパパに大目玉だよ。マーくんは知らぬ存ぜぬだからね。いいね」
「わかりました・・・本店ですね」
「そうよ。私らを降ろしたら、すぐに車を路地に隠すんだよ。用事が済んだら、私が呼ぶからね。みつかんじゃないよ」
「了解です」


 中村川沿いの汚いアパートの立ち並んでいる路地を抜けて、中華街の表通りに出た。中華街大通りを善隣門の方に左折する。もう夜9時過ぎで、観光客はいない。歩行者がちらほらいるだけだ。本店の前でマーくんが車を停めた。私は助手席から飛び降りて、スライドドアを開けた。良子から達夫を引き継いだ。肘を掴んでひねり上げて、前に押した。みんな、さっさと降りてドアを閉めな、と後ろに声をかけた。


 ガラス戸を通って、土産物がおいてあるところから、奥のレストランに入る。客がちらほらいて、私たちを見るが、視線をそらす。ほとんどが地元の客だ。関わり合いになりたくないのだ。


 奥にズンズン進む。左のドアから男が出てきた。マネージャー兼用心棒だ。私を見て目を丸くする。私が腕をひねり上げて押しているのが達夫だときづいて、剣呑な顔をした。


「張さんとこのお嬢、何の真似です?」と聞く。
「王さん、林(リン)のおばあちゃん、いるだろ?黙っておばあちゃんのところに連れて行っておくれ。おばあちゃんに事情は直接話す。さもないと、この店と林(リン)の家、潰れるよ」
「わかりました。こちらに」と左のドアを開けて奥に誘導した。足早に先を行く。先にばあさんに報告するつもりだ。


 明治の頃からある店だ。家系が4つ変わって今が達夫の父親の7代目。しかし、実権があるのは先代の嫁のばあさんだ。戦前の横浜大空襲で被害を受けた店を先代が立て直した。横浜の政界にも顔が利いた中華街の大ボスだ。中華街全体の復興にも寄与した。張の家も世話になっている。


 王が廊下を右に曲がる。一番奥の部屋の両開きのドアを開けた。達夫、私、良子、明彦と雅子の順に部屋に入った。一番奥の丸テーブルにばばあが杖をついて座っていた。私は達夫をババアの前に跪かせた。達夫もどこにいるのか、わかったんだろう。震えている。


「張(チョウ)さんとこのファンファン嬢ちゃん、ウチのバカ孫を連れて、何の用だい?」としわくちゃの唇を突き出して、下手な日本語で聞かれた。
「林(リン)のおばあちゃん、お久しぶりです。今日、ここに来たのは、達夫がね、ちょっと悪さをしちゃって、ご相談に来たんですのよ」
「悪さ、かね?こいつはいつも小悪党の悪さをするが?」
「それがねえ、今回は違うのよ」
「ほぉ、聞かせておくれでないかい?」


 私は美姫の細かい部分をすっ飛ばして説明した。私の友だちとねんごろに達夫がなってしまって、それは良いんですけど、こいつ、金を儲けようと、友だちを台湾の連中に売っ飛ばしたんですよ。それがね、台湾の連中、米軍の不良兵士とグルになって、若い女の誘拐と海外への日本女性の香港・広東への人身売買をしてるんです。何度も。


 それで、今回、達夫が売っ飛ばした私の友だちは、他のカタギの女と一緒にどこかの倉庫に閉じ込められているはず。近々、船で出荷されます。達夫の噛んでいるのは私の友だちだけで、他の女性を彼は知りません。だけど、県警は今も調べているはず。友だちを県警が見つければ、達夫に、林(リン)の家にも結びつくでしょ?


 私が台湾の連中から取り戻したいのは、友だちだけ。他の女性は県警に任せましょう。林(リン)の家も彼女だけが達夫とつながっているだけでしょ?だから、達夫が倉庫の場所を私に教えるように、おばあちゃんから手助けしてくれません?張(チョウ)の家とは無関係ですよ。私の一存で動いてますから。


「ほほぉ」と杖をついてババアは立ち上がった。「嬢ちゃん、頭が働くねえ。ウチの家にほしいところだよ。といってもこのぼんくらじゃあねえ」と杖の握りで達夫の頭を叩いた。いつの間にか達夫の父親が来ていた。私の横を通った。私に一礼する。達夫に近づこうとするが、ババアが静止した。「お前が息子を甘やかすから、こんなことになるんだよ。さあ、達夫、ばあちゃんにファンファンの友だちの居場所を教えてくれないか?」と聞いた。達夫は震え上がった。杖の握りで顎をあげさせる。


「そら、早くお言い」
「お、お祖母様、ノースピアです。ノースピアの米軍の陸軍倉庫です。108棟です。お、お許しくださいませ」と達夫が這いつくばる。台湾連中はなんとかごまかせるが、ババアはごまかせない。ババアの方が達夫にとって恐ろしいのだ。しかし、ノースピアとは。本牧じゃなかったんだ。浩司が見落とすはずだ。


「ほぉほぉ、よく吐いたね。お前」と今度は達夫の父親に杖の握りを突き出す。「どうするんだい?達夫を?え?この落とし前。そうさね、中国じゃあ、まだ、下放運動やっているだろう?上山下郷運動を?まさか、林(リン)の家のものを東京湾に沈めるわけにもいかない。かといって、日本に置いておくのも厄介だ。達夫は、雲南省の山奥にでも下放させて、農村の娘とめあわせるがいいいさ。もう、二度と日本に戻れないようにパスポートも取り上げて。共産党に見張りさせようじゃないか?いいね!」と達夫の父親に指示した。


「ファンファン嬢ちゃん、あんたが友だちを取り返しにいくのかい?」
「おばあちゃん、この後ろにいる三人と一緒に行きます」
「へぇ、女三人、男が一人かい?みんなカタギじゃないか?」
「私とこの人」と良子を指す。「二人で十分です。他の二人はオブザーバー」
「失敗したら、こっちも迷惑だね。いいよ、ウチの者を連れておいき」
「よろしいんですか?」
「もともとは、こっちの家の不始末さね。王!腕っぷしがいいのを・・・」
「おばあちゃん、王さんと後一人で十分です」
「いい度胸だ。王、わかったね?」
「ハイ、承りました」


 王が私に向かって「お嬢さん、大丈夫ですか?お嬢さんとこの娘さんでしょ?」と言う。


「王さん、私だって、武術の有段者だよ。でも、この子には勝てないよ。ここいら当たりで一番強いでしょう」と良子を指さした。王が目を細めて良子を見た。
「ああ、高橋さんのお嬢さんじゃないですか」と言う。良子がビックリした。「いえいえ、ここいら当たりの古い家はお客様ですから。商売柄覚えているんですよ。そうですか。腕には自信がおありのようで。でも、危ない橋をわたるのは私にお任せください」良子がコクコク頷く。


「あ!おばあちゃん、もう一つ。達夫のダチを三人、良子がのしちゃったのよ。達夫のアパートに居るわ。掃除しとかないといけないでしょ?」と言った。ババアが達夫の父親に顎を上げた。父親は手配のため、出ていった。ババア、よく父親の援助でアパートを借りているのを知ってるわね?
「じゃあ、おばあちゃん、後は王さんと相談します。でも、最後に」と明彦に「明彦、達夫の金玉、蹴り上げてみたくない?」と聞いた。


 明彦が達夫を思いっきり蹴った。しかし、素人だ。ケツを蹴っただけだ。良子が前に出てくる。私のお友達の分も蹴っておかないとね。と、エイとか剽軽な声で言ったが、つま先が達夫の金玉にめり込んだ。あら?雲南省でお嫁さんを迎えるのに、子供ができなくなっちゃったかしら?と言う。金玉潰れたんじゃないかね?恐ろしい女だよ、お前は。


 ババアがオフオフと笑った。「ファンファンといい、高橋さんのお嬢さんといい、面白い嬢ちゃんたちだ。二人とも、何かあったら私にお言い。借りを作るのはイヤだからね」と言う。「あら、オバア様、なら、今度、フカヒレ食べ放題で、紹興酒飲み放題でお願いしますわ。では、ごきげんよう」と良子はお辞儀してスタスタ帰ってしまう。明彦と雅子が後を追う。まったく、良子流だぜ。「じゃあ、おばあちゃん、私も行きます」とお辞儀した。


 王の肘を掴んだ。「こっちは家のハイエースを待たせてあるけど足をどうする?」と聞く。


「ナンバープレートは?」と王。
「確か、ダミーが車に積んである」
「こっちも車を一台出そう。二台で行く。武器は?」
「ブラックジャックと警棒。後は」と王に手袋をした拳を突き出す。「これだけ」
「無鉄砲だね、嬢ちゃんたちは。まあ、発砲したらマズイからな。俺と手下一人も警棒にしとくか。ノースピアで米軍が実弾を使うとも思えないし、台湾の連中もそこまでやらんだろ」
「ねえ、王さん、バラクラバ帽ある?人数分。運転手も含めて5人分。面が割れちゃマズイじゃん?」
「事務所にあると思う。それで、嬢ちゃん、お友達を取り返した後はどうする?気づかれるかもしれんぞ?」


「そうね。県警にまかせようかしら?他の女性が可哀想でしょ?遅かれ早かれ、県警も勘づくでしょ?だから、刑事を一人、呼んでおくわ」
「県警?刑事?それはダメだろ?林(リン)とか張(チョウ)の関係がバレる」
「心配しないで。加賀町署の吉村刑事に連絡するから。彼は私たちのことは黙っていてくれる」
「吉村?彼は知ってるが、黙っていてくれるとなぜ確信がある?」
「だって、王さん、彼、私のボーイフレンドだもん。体の関係があるのよ」
「・・・ハニトラでもしたのか?嬢ちゃん、あんた、得体の知れない女だな?」
「あら?私はごく普通の女子大生よ。さ、車で店の後ろで待ってるわ。15分。その間に浩司、いや、吉村刑事に連絡しておく」
「わかったよ。じゃあ、後で」


ヒメと明彦 XXIX に続く。