奴隷商人 Ⅱ 第14~17章
第14章 ●奴隷商人12、紀元前47年
見破られた!私はガバッと起き上がった。失敗した。驚いた素振りを示したら、認めたようなものじゃないの!「ソフィア、ジュリア、お前たちは、なぜ、そんなとんでもないことを思いつくの?私が二人って、そんなことがあるわけがないでしょうに!」
ソフィアとジュリアも起き上がって私の正面に座った。二人で顔を見合わせる。
ソフィアが「エミー様、私がおかしいなと思った最初は、旦那様と話される時、別の言葉でお話しされていたからです。私もジュリアも多少はコーカサス語がわかります。それで、コーカサス語で奥様が話される時、旦那様は奥様を諭されるように説明するようにお話しなされます。まるで、年下の女の子に話されるように。ところが、私がわからないまったく別の言葉で奥様が旦那様にお話なされる時、奥様は旦那様と対等というのでしょうか、何でも知っているような素振りでお話されます。旦那様も奥様にご相談されるようにお話されます。そして、別の不思議な言葉で話される奥様の時、奥様は私たちの知らない知識を持っているように思われました」
第15章 ●奴隷商人13、紀元前63年
知性体と絵美がこの世界に現れる16年前、第三次ミトリダテス戦争(紀元前75年~63年)の頃、ハリカルナッソス(現トルコのボドルム)近辺を拠点にしていたギリシャ系海賊頭目のピティオスもポンペイウスの軍団に蹴散らされた海賊の一人だ。ローマ軍に海賊村を焼かれ、家族・親族・手下共もほとんどローマ兵に殺された。
命からがら、ピティオスは生き残った手下八名と小舟に乗って南へ逃走した。しかし、アナトリア半島の南岸もキプロス島も現在のシリア地中海沿岸もどこまで行ってもローマ支配下に変わりはない。何度もローマ軍に追いかけられて、最後に、命からがらベイルートの北の小さな漁港にたどり着いた。
その小さな漁港は、フェニキアの奴隷商人、ムラーの一族が支配していた地域であった。ムラーの一族は漁港からその一帯の丘陵地帯までを領地としていた。領地の漁民から一報を受けた14歳のムラーは、手下にピティオス一味を捕らえさせた。
第16章 ●奴隷商人14、紀元前50年
俺らが冷やかしながら歩いていると、ピティオスが「旦那、あれは拾い物の上物かもしれやせんぜ」とある演台を指さした。
その演台には、髪の毛をおカッパにした少女が二人立っていた。首の札を見ると、エジプト人だった。名前はペトラとアイリス。15歳と14歳。体つきはよさそうだ。1~2年でかなりの美人に育つだろう。
そこの奴隷商人が「ムラーの旦那、どうですか?姉妹ですぜ。エジプトから拐われてきたんでさ。まだ、男の手はついちゃいませんぜ。安くしときますぜ」と説明した。
俺はピティオスに「なんでこれが上物なんだ?キレイはキレイだが、別に他とあまり変わらないじゃないか?」と小声で耳打ちした。「旦那、この商人、よくわからないでこの姉妹を売っているかもしれやせん。姉妹のイヤリングをみなせえ」
「なんてことはないイヤリングだが」とピティオスに言うと「旦那、ありゃあ、プトレマイオス朝縁故の人間の身につけるものでさ」と答えた。奴隷商人は、よそを見ている。
第17章 ●奴隷商人15、紀元前47年
なぜ、数いる奴隷女どもの中で、アイリスのことが思い浮かんだのか?
俺はオリジナルのムラーの記憶を探った。ペトラとアイリスは、買われてから3年、従順に勤めを果たし、目立たず、無口で勤勉で、愛想よく振る舞っていたらしい。偶然、ペテロのところに姉のペトラを嫁がせる話をしたので、その妹を思い出したのだろうか?
ムラーの記憶は、ペトラとアイリスを買った3年前に遡っった。
「まあ、いいだろう。じゃあ、アイリス、俺の将来を見てくれ。俺はどうなる」
「言ってよろしいんですか?」
「ああ、遠慮なく言え」
「ムラー様は、これから四季が三回巡った後、別の人間になられます」
「おかしなことを言うな。別の人間とは生まれ変わるってことか?」
「いいえ、旦那様のお体はそのままで、別人になられるのです」
「お前は面白いことを言う。覚えておこう」
「ハイ、四季が三回巡った後、思い出してください」
オリジナルのムラーはすっかりこのことは忘れているようだった。一体全体、なんだ?
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