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フランク・ロイドの徒然

奴隷商人 Ⅵ、第36章 ●奴隷商人34、紀元前46年

奴隷商人 Ⅵ
第36章 ●奴隷商人34、紀元前46年

 ●大スフィンクス
 ●神殿巫女
 ●ムラーの寝室 1

●ムラーの寝室 1


 変な部屋だなあ、とムスカは思った。ムラーの寝室だ。天井から柄の部分が固定されていて、ロープで連結されているうちわが、4x4、16枚あって、バネで動くようになっている。それで風が起こって心地よい。ムスカの寝る場所の船倉も通風孔が設けてあって空気の循環はあるのだが、風が体にあたるという仕組みではなく、船倉の積載物を湿気らさないためだ。荒天の際には通風孔は閉めてしまう。


 ベッドは天蓋が四隅の木の柱で支えられていて、四方を絹のベールが垂れている。ムラーのデスクの上には、使い方もわからない器具がならんでいる。直径30センチ、高さ50センチぐらいの砂時計もあった。さらさらと砂が落ちている。こんなでかい砂時計は見たことがない。何時間くらい測れるんだろう?


 ソフィアは黒豹のようだ。 アフリカに住む黒人といっても、彼らの肌はたいがいは濃い褐色だ。だが、ソフィアの肌は漆黒、チョコレート色。触ると吸い付きそうだ。今は、アレキサンドリアで買ったエジプトの化粧品で目元だけイエローとグリーンのアイシャドウをしている。その黒豹が四つん這いで、唇を舌で湿らせながら、寄ってくる。

 ジュリアはギリシャ系でソフィアよりもはるかに小柄だ。四肢が細く長く、腹がキュッとくびれていて、大きく突き出す乳房とアンバランスだ。白い肌は日焼けしていて、下着の小さな腰布と胸を寄せてあげる胸帯の部分だけが白い。ソフィアと同じアイシャドウで化粧している。

 ソフィアと俺、ジュリアで旦那様のベッドに川の字に横になった。俺は旦那様、エミー様、アイリス様のことをもっと知りたかったので、ソフィアに聞いてみた。


「ムスカ、ギリシャ神話のクロノス神とカイロス神を知っているかい?」

「ああ、時間の神様だね」

「そうそう。クロノス神は過去から未来へと続く時の流れを支配する。カイロス神は時の瞬間を支配する。ムスカ、旦那様のデスクの上の砂時計を見てご覧。上の砂溜まりの砂がクビレを通って下の砂溜まりに落ちていく。過去から現在を通って未来に時が流れていく。上の砂溜まりが未来だ。クビレが現在だ。下の砂溜まりが過去だ。これがクロノス神の生業(なりわい)だよ」

「ソフィア、よくわかるよ。頭いいんだね」


「旦那様の受け売りだよ。私を可愛がってくださって、寝物語で色々なことを説明してくれるのさ。それで、ムスカ、お前は過去や未来を感じるか?」

「過去や未来を?感じる?昨日の俺とか明日の俺とか?わかんねえな」

「おぼろげにしか過去や未来が想像できるだけなのが人間だ。だから、人間の中にクロノス神はいない。いるのは、現在という瞬間を司るカイロス神だけさ。私たちは、今を生きることしかできないんだよ。今、ムスカがしていることは何だ?」

「そりゃあ、ソフィア、あんたが俺の口を貪るから、俺もソフィアの舌を吸っている」

「そう、それがムスカの現在の瞬間だ。でも、もう少したつとあんたのあれが私のあそこに突っ込まれる。キスしていたことは忘れる。キスしていたのは過去に流れっちまうってことだ」

第36章 ●奴隷商人34、紀元前46年 に続く。

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奴隷商人 Ⅱ

奴隷商人 Ⅲ

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奴隷商人 Ⅴ