フランク・ロイドのブログ

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ヒメと明彦 第4章、ヒメと明彦 XV

ヒメと明彦 第4章
ヒメと明彦 XV


 生田さんから頂いた茎茶を淹れた。おいしい。お皿に和菓子と赤飯を取り分けた。良子が品よく食べてる。生まれついての品の良さがあるのよね、彼女は。だけどね、男子は彼女の本質を知らない。女豹だもの。近づいたら食われちゃうわよ。食べちゃったらすぐ飽きちゃってポイして、彼女の後ろには死屍累々の男子の屍体が残っている。明彦、大丈夫だよね?


「良子はどの大学のどの学科を目指すの?聞かないでもわかる気がするけど」
「偏差値的には、国立一期校かなあ。遊びにいくんじゃないから、青学とかヤダわ。バカバカしい。法学部が希望よ」
「聞かなきゃよかった・・・どうせ、あなたは私と違って優等生ですからね!」
「そういう美姫は、どこがいいの?何学部が希望なの?」
「自分でもよくわからないけど、大学の希望はある」
「どこ?」
「明彦の大学の近く!外堀の向こうの法政とか」
「呆れた。立地で決めるの?」
「だってさ、彼が大学終わって、私は飯田橋の改札口で待ち合わせして、待ってるのよ。それで、御茶ノ水に行って古本を探したり、ジャズを聴いたり、お食事をして、お酒を飲んで、それでこの部屋に帰ってきて抱き合う。ああ、それがいい!」


「やれやれ」と明彦。
「いいじゃん!」
「あのさ、ヒメ、学部は?法政大学ってさ、市ヶ谷と多摩と小金井にキャンパスがあるんだよ。ヒメの言っているのは市ヶ谷キャンパスでしょ?学部によっては、市ヶ谷じゃなくて、多摩か小金井になるんだよ」
「え~、知らなかった!」
「やれやれ・・・」
「ねえ、市ヶ谷キャンパスの学部って何?私、そこを選ばないといけないじゃん!」
「え~っと、確か、法学部と文学部と経営学部だったんじゃないかな?」
「明彦!なんで法政大学のことに詳しいの!法政の女子大生と何かあるの?」
「何もないよ。まだ入学したばかりだよ?」
「・・・あやしい」
「だから、それより、何学部なの?」
「法学部なんてわかり合えそうもない!経営学部って、社長になりたい人が行くとこ?わかんないなあ。文学部かな?」


「美姫、文学部と言っても学科がいろいろあるのよ?英文学科とか日本文学科、哲学科、史学科、地理学科、心理学科、いろいろ。どれを専攻するの?」と良子が私の目を覗き込む。マジで聞くなよ。考えてないんだから。
「ヒメ、大家の生田さんの専攻が史学科の中の中世・近世日本史学だろ?後で専攻を変えてもいいんだから、史学科なんてどうだろね?」と明彦。史学科・・・う~ん、悪くないかもしれないわね?


「明彦先生!進路相談、ありがとうございます!美姫、法政大学文学部史学科に決めました!」
「やれやれ。良子さん、法政大学文学部史学科の偏差値は高いの?低いの?ぼくは理系だから知らないんだけど」
「え~と・・・今日の予備校のパンフに載ってるかな?」とバックから小冊子を取り出す。「あら?文学部は意外と高いのね?55.0~65.0だって。青学よりも高いじゃない?」
「ヒメ、その偏差値でどうなんだ?模擬試験、受けてるだろう?」
「ちょっと、マズイかもしれない・・・数学と国語が・・・」
「美姫、今のままじゃダメね。絶対、落ちる」
「良子先生、そう冷酷に言い切らないで下さい!」
「そのために予備校に行くんだから。私も手伝ってあげるわ」
「そうだ!ぼくがバイトでいない時、予備校の帰りとか、良子さんがここでヒメに教えれば良いんじゃない?」
「明彦!それ、ダメでしょ?良子がたびたびここに来たら、明彦を誘惑する!」
「だから、ぼくがいない時だってば」
「ダメ!良子との接点はできるだけ減らさないと!この人は見かけと本質のギャップがすごいんだから。清楚な美少女の仮面の下は魔女よ!女豹!近づいたら食われちゃうわよ。食べちゃったらすぐ飽きちゃってポイして、彼女の後ろには死屍累々の男子の屍体が残っている」


「まったく。そんなこと言って、良子さんが今日ここに来るのは了承したじゃないか?」
「あ!そうだ!墓穴を掘った!まあ、でも、良子は明彦には安全パイよ」
「あら、美姫、聞き捨てならないわね。なんで私は安全パイなの?」
「だってさ、良子は本気になるような男子は相手しないじゃん?自分が本気になっちゃったら自分が傷つくからさ。相手も適当なのを選んで、フッても相手が傷つかないような感性の弱い男子を選んでるから。明彦、意外とね、こういう清楚系ビッチは、最後は白馬の王子様なんて信じているんだよ。それまでは、王子様への道のりへの予行演習、なぁんてね」
「・・・美姫、天然ボケのフリして、人の本質をえぐり取るじゃない?」
「え~、図星だったの?あてずっぽうだったのに。良子は頭が良すぎるんだよ。だから、男の子のことも駆け引きばかり考える心理戦でしょ?私みたいにスキ!って思ったら、あとは押すだけの方が単純だよ・・・6年間かかったけど・・・」
「明彦さん、私、美姫に負けてる!」
「ぼくは聞いてるだけで面白いよ」


「ねえ、私、変なこと思いついた!」
「今度は何だ?」
「あのさ、あのさ、この三人でエッチしちゃうの!」
「ヒメ、またなんてことを・・・」
「だってさ、だってさ、私と明彦は本気でしょ?私と良子も本気でスキでしょ?でも、明彦と良子は本気で好きにならない。だからですね、この三位一体は成立するのよ!破綻しないの!」


「明彦さん、よくもまあ、この頭のおかしい美姫の面倒を見ていられるわね?」
「まあ、6年間も知っているから、慣れちゃったけどね。でも、去年の夏から頭のタガが外れてきたんだ、このお猿さんは」
「去年の夏?」と良子。
「私と明彦との初体験です、ハイ」
「あ!そうか!美姫、初体験のこと言ってたものね・・・え~、でも、この三人でエッチ?男の子一人に女の子二人。それは経験ないなあ」


「え?良子、その組合せ以外は経験があるの?」
「男の子二人に私なら1回、経験あるわよ」
「ねえ、良子さん、男子には刺激が強いんだけど・・・」
「明彦、気にしない、気にしない。女同士なんてこんなもんよ。だって、この三人でしょ?誰に言う話でもないじゃん?ねえ、その話、聞かせてよ、良子」
「男の子同士は知り合いでもなんでもないの。それで、まあ、ものは試しで、男の子二人に同時にセックスされるってどういう気持だろうって思ってね。してみた。面白くなかったな。男の子は順番待ちぃ~って、野球の次打席バッターボックス待機みたいだしね、私は忙しいのよ。されてんのに、もう一人の面倒を見るのが忙しい。バッティングピッチャーみたいなものね。男の子一人に女の子二人なら、休めるわね。ピッチャー、二人、美姫が明彦としているのを見ていれば良いんだから」


「え~、どうなんだろう?私が終わったら、その次は、彼と良子?私、それ見てるの?耐えられないかもしれない。自分で言っておいてあれだけど」
「私と明彦さんがやっているのに参加してもいいんじゃない?」
「どう参加するのよ?」
「美姫の言う三位一体なら、三角形の最後の辺の私と美姫だってしてもいいんだから。明彦さんに私が犯されていて、美姫は私を愛撫してるとか」
「うぉ~、それスゴイね?」
「美姫が言うように、私って恋愛感情が欠落してるのかもしれない。だから、明彦さんと美姫が抱き合って愛し合うのを見るのは、恋愛感情を呼び起こすきっかけになるかも」


「ねえ、二人共、真面目な話じゃないよね?」
「あのね、男子の話って、真面目な話と妄想・冗談の境界線はクッキリしてるのかもしれないけど、女子は境界線が曖昧なのよ。いつ冗談が真面目になるかわからないんだもの、ねえ、良子?それにね、高2の修学旅行で、私と良子は経験済み。レズしたんでした!」
「あのさあ、ぼくはちょっとついていけません。女子校の生徒ってみんなこうなの?」
「大なり小なり、こんなものよ。話題の8割は男、セックスだって言ったじゃない!」
「夢が崩れる・・・」
「勝手な妄想を抱いてるだけ。見てみなさいよ、良子を。元生徒会長で、学業優秀、品行方正に見える美少女が『男の子二人に私なら1回経験あるわよ』なんて言ってるんですもの」
「明彦さん、美姫は私ばかり引き合いにだすけど、美姫だって同じでしょ?こんな可愛い子が、あなたの前でどうなってる?あなた以外に見せない淫らなことをしてませんか?」
「・・・ハイ、その通りです」


「ねえ、お酒、飲もうよ!」
「高校生がお止めなさい。良子さんは、横浜に帰らないといけないだろ?帰り道、お酒臭かったら問題でしょう?」
「だったら、ここに泊まればいいじゃん!」
「あのね、ヒメ、変な話題を話したあと、お酒飲んで良子さんがここに泊まったらダメでしょ?」
「あら?明彦のエッチ!変な期待してるわけ?」
「・・・しなかったらおかしい。そりゃ、インポだろ?」


「さあ、冗談はともかく・・・」
「良かった。冗談で」
「明彦、何いってんの?良子、泊まってく?泊まるんなら、ママに電話かけよう」
「いいわよ。新婚家庭にお邪魔するみたいで新鮮!」
「じゃあ、お泊りは冗談じゃない。エッチな話は冗談だけど、境界線は曖昧ってこと」
「・・・眠れなくなりそうだ・・・明日は日曜日で良かった・・・」
「じゃあ、夕ご飯、なにしましょ?蒸し暑いし、ソーメンとかにする?ガッツリしたものを食べるか?とりあえず、買い物に行こうよ」


 明彦が、じゃあ、ぼくはご飯を炊いておくよ。味噌汁は・・・ヒメ、お豆腐を二丁買ってきてよ。それを味噌汁の具と冷奴にしよう、と言う。ハァイ。


 私たちは駅前通りに買い物に。


「ねえ、美姫、お酒飲んじゃう?」と良子言う。
「最近ね、ビールが美味しく感じられるようになったのよ」
「私も。パパが飲むのをちょっと頂戴って、晩酌のビールを横取りする。明彦さん、お酒のストックは?」
「あれ?日本酒がちょっとあったかな?料理用だからねえ」
「私も持ち合わせあるから、半分っこして、お酒買う?」
「ビール、重いよ」1970年代だから、アルミ缶の缶ビールなんかなかった。720ml の瓶だ。
「私にお任せ。いいこと?あなたは私の妹で、明彦さんはお兄ちゃんだからね」
「ハイ?」


 酒屋さんに行った。20才くらいの若い男の子が日本酒を並べていた。


「いらっしゃいませ」と彼が言う。
「ごめんください。え~っと、美姫ちゃん、お兄ちゃんは何を買ってこいって言ってた?」
「え~、なんだっけ?」
「ビール、6本?キリン?それと、サントリーの角、ひと瓶?」
「・・・そうだったと思う・・・」調子を合わせた。


 若い子が冷えたビールとウイスキーの瓶をカウンターに並べた。


「え~、重そうだよぉ~。美姫、持てる?」と肩を落としてさも弱々しそうに見せる良子。
「買い物かご、底抜けちゃうかも・・・」私も調子を合わせる。
「困っちゃうなあ・・・こんなお使いを頼むなんて、お兄ちゃんは!あ!蚊かしら?痒い!」と良子は言って、前かがみになって太腿をひっかき出す。ミニスカートだからパンツ見えそう。若い子は覗き見してる。


「配達しますよ!」と若い子が意気込んで言う。良子の太腿をジッと見ている。
「あら、悪いわ」と良子。
「全然!どこにお住まいですか?」
「生田さんの布団屋さんの二階で、宮部といいますけど・・・ねえ、お兄ちゃん、氷も買ってこいってひどいこと言ってたね?」
「あ!氷屋さん、そこ行って左!」
「2キロなんてねえ・・・重いよね、美姫?」と本当に困った顔をして良子が言う。
「あ、良いですよ。お代を払っといてくれれば、一緒に配達しまっせ」
「そんな、悪いわ。いいの?」と上目遣いで彼を見る良子。
「全然!問題ないっす、宮部さん!」勢い込んで言う店員さん。
「私、良子。良い子って書いて良子という名前」どこが良い子だよ!
「良子さん、まだお使いするんすか?」
「ちょっとお惣菜を・・・部屋には兄がいるんですが・・・」
「じゃあ、届けときますよ、良子さん」
「ありがとうございます」と良子が深々とお辞儀をした。
「また、ウチに寄ってくださいね。山屋酒店ですよ。ぼく、良平と言います。サービスしますんで!」
「ありがとう、良平さん!」と顎をしゃくってウィンクした。悪魔だ、この女!


 私たちは彼の言う通り氷屋さんに行って、氷を2キロ注文した。良子が、山屋さんとこの良平さんが後で来ますから、彼に渡しておいて下さいね。ありがとうございます、と仏頂面の氷屋さんにお願いした。


 あ~、良子、悪魔だよ。


「さあ、お酒も配達してくれるし、何を食べる?美姫」
「良子、悪魔だね。私、真似できないよ」
「何が?山屋酒店の良平くんが好意で、重いビールとウイスキーと氷を配達してくれるんだもん」
「あなた、蚊に刺されたの?」
「あら、何のお話?」と太腿をさぐる。悪魔だ、この女!


 私たちはこの前、明彦と行ったお肉屋さんに行った。


「ガッツリだったら、メンチカツとか、コロッケ?」と良子に聞く。
「それはおかずだね。それも買うけど、焼き鳥屋さんはないかな?」
「焼き鳥屋?」
「ビールって言ったら焼き鳥でしょう?」高校生が大人の酒のつまみを買っていいのだろうか?


 焼き鳥屋さんは匂いでわかった。良子が、たれ、塩とりまぜて、適当に注文した。酒屋さんは美姫がだしたんだから、他は私、と言って払った。良子、あなた、焼き鳥、何本買うの?

ヒメと明彦 第4章、ヒメと明彦 XV に続く。