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よこはま物語、ヒメと明彦10、恵子・永福と久美子編、ヒメと明彦 XXXXXII

ヒメと明彦 XXXXXI の続き。

よこはま物語
ヒメと明彦10、恵子・永福と久美子編

ヒメと明彦 XXXXXII
 1977年7月23日(土)
 ●後藤恵子 XIII
 秋田


 伊丹空港から秋田行き、朝07:55発、09:20着の行きの便。ホテルのフロントに尋ねたら、ホテルから伊丹空港まで、タクシーで40分くらいだそうなので、タクシーで空港まで行くことにした。タクシーを降り際、永福が払おうとするので、これは私が払います。私の用事ですからと言った。たとえこれから結婚するにしろ、なんでもかんでも彼に頼りたくなかった。レイニーはそういうとことは頑固だな、と永福がボソッと言う。飛行機運賃もホテル代と一緒に永福が払ったので、それも後で精算するつもりだ。ホテル代は、あなたが払ってね、と言ったが、ホテル代が一番高い!ゴメンナサイ。


 久美子の両親の身元引受人の恵子への委任状と後藤巡査を身元引受人とする同意書は二通用意した。久美子の両親が一通保管し、私がもう一通を保管する。


 久美子の両親の家は、秋田空港から75キロ、タクシーで1時間の男鹿半島の付け根の北側にある。空港のタクシー乗り場で運転手さんに住所を説明した。用事は長くかからないから、メーターを倒したままで現地で待っていてほしいとお願いした。運転手さんも、そんな村には行ったことがないと秋田県の地図を取り出して調べていた。ひぇー、お客さん、山の中ですよ、近くになんにもありませんよと秋田訛の強い口調で言う。慶子の言う落人村ならそんな場所だろう。


 慶子の愛媛の村ではないが、山の中の村だった。ビルもなければスーパーもない、近くに国鉄の駅もない。町に出る手段は、市営バスか住人の自家用車のみ。永福が、ここじゃあ、中華料理店はやっていけないな、とボソッと言う。私の亭主の発想は面白いな、と思った。


 まず、駐在所を探した。久美子の母親と関係している佐藤巡査という人物がいるはずだ。家出人の件なのだから、地元の所轄の駐在を一緒に連れて行った方がいい。それに、久美子の母親への脅しにもなる。悪い女だよ、私は。


 想像していたよりも若い巡査だった。30歳代半ばといったところだ。


 警察バッジを見せた。「私は神奈川県警加賀町警察署少年課の後藤巡査と申します」と敬礼した。神奈川県がここにどうして?という怪訝な顔をしている。「実は、この村の佐藤久美子さんという高校3年生の女の子が誘拐事件に巻き込まれまして、現在、兵庫県警が保護しております」と説明した。兵庫県警?とますます怪訝な顔をする。「こちらで、家出人捜索の届け出はでていないでしょうか?」と聞くと佐藤巡査は狼狽した。久美子が家出したのは知っているということね?


「佐藤久美子の家出人捜索届けは受理しておりません」と佐藤巡査。とぼける気かしら?
「そうですか。しかし、本人の学生証を確認いたしまして、こちらの村の佐藤久美子さんに間違いはありません」学生証は上野の男の部屋にあるのだろうが、ウソも方便だ。「佐藤久美子さんのご自宅をご存知ですか?ご両親に身元引受のお話をしなければなりませんので、ご案内いただけますか?」とお願いした。佐藤巡査はイヤそうだったが、自転車を引き出した。


 タクシーの運転手さんにあの巡査の後についていってと言った。久美子の家は、秋田杉がびっしり生えた山林の麓のかなり大きな家だった。ますます、慶子の話に似ている。佐藤巡査が家の横開きの戸を開けた、秋田弁で、お~い、山の佐藤さん、お客さんじゃ、と呼びかけた。佐藤姓が7割だから、どこどこの佐藤というのだろう。久美子の母親らしい女性が玄関に現れた、彼女も巡査と同じく、想像していたよりもずっと若かった。30歳代半ばね?佐藤巡査と不倫するにはちょうどいい年齢だわ。


 佐藤巡査が、久美子ちゃんのことで、こちらの神奈川県警の後藤巡査が話をしたいということだ。久美子ちゃんは、今、兵庫県にいるそうだ、と強い訛で母親に説明した。私と永福、巡査は仏壇のある居間に通された。お父ちゃんを呼んできます、と行って、家の奥に引っ込む。


 母親と久美子の父親が居間に入ってきた。父親は50才くらいだろうか?


 私は、自己紹介をした。そして、久美子の事件をあらあら説明した。家出して上野に出てきたこと、男に騙されて、神戸に誘拐されたこと、神戸では集団人身売買に巻き込まれて危うく香港に売られそうになったこと、昨日、保護されて、今、神戸大学医学部附属病院に収監されていて、強姦の有無、妊娠検査、ヘロインや覚醒剤の後遺症検査を受けていることなどを説明した。両親も佐藤巡査も驚いて聞いていた。


「誘拐、人身売買に関わる事情調査を受けていますが、被害者ですので、病院の検査、刑事課の調査が済み次第、管轄が家出人として少年課に移ります。そこで、当然、ご両親が身元引受人ですので、神戸までご足労いただいて、久美子ちゃんを引き取っていただくことになります」なぜ、そこに神奈川県警が関係するのだ?という疑問は幸いにしてないようだ。


「あのバカ娘が!警察がここまで送ってこれんのですか?」と父親。兵庫に行きたくないのだろうか?
「いえ、あくまで家出人の送還となりますから、所轄の兵庫県警まで身元引受人が来ていただかなくてはなりません。ところで、佐藤巡査にお聞きいたしましたが、ご両親は久美子ちゃんの家出人捜索願を出されておられないとか?なぜでしょうか?」
「・・・」こいつら、叔父が久美子を強姦したことを知っているな?それが理由で家出したのだから、捜索願が出しづらいのだろう?


「折り入っての話ですが、久美子ちゃんから聞きましたが、家出の理由がご縁戚の方の強姦にあるとか?これは事実でしょうか?」
「そんなことがあるはずがない!俺の親戚で俺の娘を強姦するようなヤツはいない!」
「しかし、本人が言うには、叔父さんに強姦されたとか?」
「俺の弟が娘を強姦した?バカな。娘は夢でも見たんだ。学校の成績が悪いんで、そんなウソをついて、家出のでっち上げの理由にしたんだろう」


「佐藤巡査、久美子ちゃん本人が強姦事件を刑事告訴した場合、受理されますか?」
「いや、村の中の話なので、よく調べた上で、刑事事件とするかどうか、秋田県警と相談します」やっぱり、久美子の言う村内でもみ消すのかもしれない。
「神戸大学医学部附属病院では、強姦の有無、妊娠検査もしております」と言った。が、誰か彼女を強姦したとか、DNA検査でもしない限り証明できないし、叔父が強姦してから、神戸で膣洗浄などをマフィアにやられているので、叔父の強姦など証明出来はしないけど、コイツラにはわからない話だ。ハッタリだ。三人ともギョッとしている。


「さて、久美子ちゃんの身元引受の話ですが、実は、本人はこの村に戻ってきたくないと言っています」と、久美子の手書きの身元引受人に神奈川県警加賀町署の後藤慶子巡査を指名したいという委任状を見せた。
「なぜ、見ず知らずのあなたに娘が身元引受人の指名をするんだ?」と父親が私を睨みつけた。
「本人が、ここに連れ戻されたら、叔父に強姦され続けるだろう、そんな村に帰りたくない、というので、私が引受人といたしました」
「佐藤巡査、法律上、こんなことが許されるのか?両親が健在で、その両親が身元引受人になれないなんて、バカなことはないだろう?」と佐藤巡査を父親が睨みつける。
「未成年ですが、身元引受人の法的定義は曖昧ですので、問題はないかと・・・」と巡査がボソボソ言う。久美子の父親に頭を押さえつけられているのか?
「バカな!いいかい、後藤巡査とやら」と私も睨みつけられた。こいつ、自分が睨むと他人は言うことを聞くとか勘違いしてないか?「俺は許さん!警察が久美子をここに連れてくるべきだ!」


「そうですか。佐藤さん、話が堂々巡りになりますね。話は違いますが、この家の隣家も佐藤さんなんですって?」と母親に聞いた。
「ええ、村内は6割が佐藤姓ですから。みんな親戚です」
「隣家の佐藤さんに年頃の娘さんがいると聞きましたが、可愛い子なんでしょうね?」と今度は私が父親を睨みつける。ギョッとしている。「そう言えば、お母さん、巡査も佐藤姓ですね?お母さんとお年がお近そうですね?」と巡査と母親を睨みつけた。二人もギョッとした。


「後藤さん、何が言いたいんだ?」と父親。
「私、神奈川新聞と週刊誌の記者に知り合いがおりましてね。今回の事件は、海外への日本人女性の集団人身売買というセンセーショナルな案件。それに関わった女の子が、秋田の僻村で、叔父に強姦されて家出した、というのが加わる。新聞、週刊誌には格好のネタですわね?」
「貴様、俺たちを脅すのか?」


「あれれ?佐藤巡査、警察官の私が、同僚の警察官の佐藤巡査の前で恐喝などいたします?いたしませんよね?」と佐藤に言う。「村内でもみ消すのは許しません。ここの所轄の佐藤巡査が強姦事件の立件をためらうなら、私が秋田県警に通報するだけ。村の恥、家の恥が明るみにでますよ?それを防ぐなら、私を身元引受人に指名なさい。こんな両親、こんな村に、久美子ちゃんを戻すのを私は許さない!さっさとこの書類に署名、捺印なさい!」と久美子の両親の身元引受人の後藤恵子への委任状と後藤巡査を身元引受人とする同意書二通を居間のテーブルの上に叩きつけた。


「ご署名、ご捺印いただけなければ、仕方ありませんね?お父さん、隣家の娘の体の味はいかがです?お母さん、佐藤巡査はエッチがうまいですか?久美子ちゃんの同級生の佳子ちゃんという子にも聞こうかしら?父親の味はどうだ?って。郵便局の息子さんと彼の叔母さんも関係があるんですよね?この村はそんな村なんでしょう?久美子ちゃんの叔父さんにも会ってみたいわ。実の姪を強姦した感想を聞きたい。これ、新聞や週刊誌の記者にとって、おいしいネタですね?佐藤さん、さっさと印鑑を持ってきなさい。さっさと署名なさい!」


 両親、巡査がガックリと肩をたれた。母親が印鑑を取りに行った。父親が署名して、捺印した。私に書類を放り投げた。私は一通を父親に投げ返した。


「これはあんたがたの写しだ。ここに横浜の引取先の住所も書いてある。久美子ちゃん本人に連絡するのも自由、彼女に会いたければ、彼女が許せば会うのも自由だ。お父さん、あんたの弟の姪への強姦容疑は公表しないでおいてやる。村の恥も黙っておいてやる。その代わりに、久美子ちゃんを自由にしてやれ!」
「この女、他所者が!他人が!人の娘を!」
「バァカ。娘だろうと、息子だろうと、親の所有物じゃねえんだよ。この近親相姦の不倫野郎どもめが!」


 書類をポケットにしまって、佐藤巡査を残して、永福と家を出た。居間からは、お前は巡査と浮気してやがったのか!この尻軽女!という父親の怒鳴り声が聞こえた。母親も、隣の子はあんたの姪よ!姪と性交したの?この獣!という怒号が聞こえた。


 待たせてあったタクシーにゆっくり歩いていった。


「永福、あなた、失望した?この7年間で、私はこんな女になっちまったんだ」
「いいや、レイニー、惚れ直したよ。お前は、見ず知らずの女の子をこれだけ一生懸命に守ってやってる。俺は嬉しいよ。この調子で、お前の両親の店を狙っている地上げ屋も二人でやっつけてやろう」
「・・・そっか。その問題もあったねわね」

ヒメと明彦 XXXXXII に続く。