フランク・ロイドのブログ

フランク・ロイドの徒然

ヒメと明彦 第2章、ヒメと明彦 Ⅵ

ヒメと明彦 第2章
ヒメと明彦 Ⅵ

登場人物

宮部明彦    :理系大学物理学科の1年生、美術部。横浜出身
仲里美姫    :明彦の高校同期の妹、横浜の女子校の3年生
高橋良子    :美姫の高校の同級生
生田さん    :明彦のアパートの大家、布団屋さん


小森雅子    :理系大学化学科の学生、美術部。京都出身、
         実家は和紙問屋、明彦の別れた恋人
田中美佐子   :外資系サラリーマンの妻。哲学科出身


加藤恵美    :明彦の大学の近くの文系学生、心理学科専攻
杉田真理子   :明彦の大学の近くの文系学生、哲学専攻


森絵美     :文系大学心理学科の学生
島津洋子    :新潟出身の弁護士


清美      :明彦と同じ理系大学化学科の学生、美術部

 1976年3月19日(金)
 ●千駄ヶ谷の底なし沼

 社殿にお参りした。鈴を鳴らす。「二人で鳴らそう!」とヒメが言うので、ヒメが持った色とりどりのヒモ(綱じゃないね?)の彼女の手を握った。こういうのがうれしそうだなあ。「エヘヘ、明彦の手、あったかい」と言う。


 聞くぞ、聞くぞと思ったらヒメが聞いてきた。「明彦、何をお祈りしたの?」「ヒメと同じことをお祈りしました」「何よ、それ?なんなの?」「ヒメといつまでも一緒にいられますようにって」「おんなじだね。なんか幸せ」「おみくじ、引く?」「ヤダ!全部、大吉ならいいけど」「そんなの、おみくじになりゃしないじゃないか?」「だから、おみくじ、キライ」変なやつだ。


 駅の方に戻った。千駄ヶ谷駅は南側にしか改札がなく、線路のガード下を潜って線路の向こうの新宿御苑に行く。線路沿いを少し進むと新宿御苑の千駄ヶ谷門に着いた。千駄ヶ谷駅からは5分もかからない。桜はまだ満開じゃなくて、六分咲きくらいだったが、平日でも人手があった。「あ~、私、今日を忘れない。桜咲く新宿御苑で明彦といるって、ずっと覚えてる」なんてヒメが言う。これ、ぼくが来年忘れたら責められるってことだよな?


 大きな池があった。「なるほど。これが生田さんの言っていた千駄ヶ谷に流れていた渋谷川の水源なのかもしれないね。確かに、ここは高台だから、千駄ヶ谷の低地に向かって流れていたのかなあ」とぼくが言うと「面白いね。今度、生田さんにもっと千駄ヶ谷の郷土史の話を聞いてみたい」とヒメが言う。


「ヒメ、歴史、好きだったっけ?」
「数学じゃなければ何でも好き!いや、まあ、日本史も世界史も好きよ」数学にこだわっている。しばらく、数学の話題を出すのは止めよう。機嫌がわるくなりそうだ。


 腕時計を見るとお昼も過ぎて一時になっていた。「ヒメ、お腹空かない?」「うん、お腹ペコペコ」「どこかで食べていくか?」


「あのね、駅前通りでお肉屋さんをみかけたのよ。メンチカツとかコロッケなんか売ってた。お惣菜を買って、お部屋で二人で食べるのって、ダメ?」
「ぼくはそれでいいけど」
「よし、お味噌汁は部屋で作ろう!あ!そうそう、買い物かごがない!買い物かごを買おう!」


 途中の雑貨屋で、藤の編上げの買い物かごを買わされた。だんだん生活臭のあるものが増えそうだ。秋吉久美子の赤ちょうちんの世界に近づいていく。大学生の一人暮らしには程遠い。


 お肉屋さんで、コロッケとメンチカツを買った。ポテトサラダも。途中の八百屋でキャベツを半玉と大根を買う。ウスターソース、持ってきたよね?とヒメがブツブツ言う。


 買い物かごを下げてアパートに戻った。布団屋の店先ではたきがけをしている生田さんが「あらまあ、新婚さんみたいね」と声をかける。「生田さん、どうも」と言って、ヒメがぼくのコートの袖を引いてニコニコする。

ヒメと明彦 Ⅵ に続く。