フランク・ロイドのブログ

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ヒメと明彦 第2章、ヒメと明彦 Ⅶ

ヒメと明彦 第2章
ヒメと明彦 Ⅶ

1976年4月26日(月)
●Masako Komori Ⅰ

 私はキャンパスの2号館から6号館の間を走った。なんで科目ごとのクラスの建物が違うの!信じられない!テキストブックの入っているショルダーバックが重い。


 私の所属は理学部化学科。化学科と応用化学科って、新しい理論を見つけるか、売れそうな物質を作るか、それが違いだ。化学科は現在までの研究で証明されている理論や法則を学習し、新しい理論や物質を作る学科だ。つまり、化学科は就職しにくく、応用化学科は職が見つけやすい、つぶしが効くって話なのだ。もちろん、理学部よりも理工学部の方がはるかに潰しが効くけどね。


 でも、まだ誰もが見たことのない世界を見たい!ノーベル賞を取りたい!なんて夢見る女学生だったけど、実際のところ、化学科が応用化学科よりも入試倍率が低かったというだけなんだなあ。


 大学2年になって、カリキュラムが増えた。1年次は高校の化学、物理、数学の延長みたいな授業が多かったが、2年次になると、


 一般化学実験
 化学数学/一般物理学1/物理学実験/生物学実験/地学実験1・2
 一般物理学2/電子計算機/地学1(岩石圏)/地学2(大気圏)
 有機化学2・3/生化学1・2
 無機化学2/分析化学/無機及分析化学実験
 物理化学2A・2B


という学科を履修、おまけに一般教養の学科もある。今年は目一杯必須の一般教養を履修して、3年次は専門教科を取りこぼさずに過ごし、4年次、余裕を持って卒業研究に打ち込みたい、なんて思っている。研究室は、分子化学系の教授のところを狙っている。理化学研究所なんて就職できたら良いなあ、なんてね。だって、理化学研究所、大阪・神戸・兵庫に拠点があるので、実家の京都から近いのだ。


 ちゃんと就職しないと、京都の実家の和紙問屋やら親戚の日本酒の酒造屋に引っ張られかねない。京都だから、いまだに縁戚同士の婚姻とかもあるんだもの。私はイヤ!自分の好きな人と巡り合って、恋愛して、結婚、でも、仕事は続けたいんだもの。


 巡り合ってって、そう言えば、2月14日のバレンタインデーの日、2年次の履修科目の提出をするのに大学に行ったけど、手袋落とした私の好みの男の子に会ったわね。我ながらよく覚えているもんだ。可愛い子を連れていた。受験生で合格発表を見に来たんだろうけど、ウチの大学で女の子連れなんて珍しかったから覚えていたのかしら。


 彼が合格して入学するとして、入学式が1976年4月9日。もう1年次は始まってるわね?理学部?理工学部?薬学部は、ないわね?どこかでバッタリ出会ったりして・・・って、ベッタリと彼の腕にしがみついていた可愛い子がいるわよね?妹なんかじゃないね?彼女はガールフレンドだろうな?高校生かな?じゃあ、出会ってもチャンスはないってことよね?ガッカリだ・・・って、私のほうが年上じゃないの!たった1才違いだけど、この1才の差は大きいのだ。ダメだね、これは。


 でも、気になるわ。あの女の子、彼のダッフルコートの袖にしがみついて、私を睨みつけてた。たまたま、手袋を拾ってあげただけじゃないの?あなたの彼氏を取ろうとしてないわ。まったく。東京の高校生って所有欲が激しいの?私だったらあんなに彼氏にしがみついてベタベタしないわ。恥ずかしい。


 う~ん、そういえば、あの子、ちょっと茶髪のショートボブ。白のとっくりセーターに黒のミニ、黒のタイツだったな。髪の毛を染めてるなんて不良っぽい。でも、髪を軽く染めるのもいいかもしれない?コケティッシュに見えるかな?今度、やってみよう。


 だけど、あのファッション、私のファッションみたいじゃないの?顔も似てた。彼の好みがあの子なら、私だって彼の好み?へへへ、そんなことないね。


 なんて考えていたら教室に着いた。え~っと、と見回すと同じ美術部の内藤くんが座ってる。彼の隣に腰掛けた。「オッス、内藤くん、お元気?」と声をかける。


 今日の私は、ネイビーブルーのボタンダウン、赤のベスト、黒のミニ、黒のストッキングで、ピーコートという格好。ミニが好きなだけで、決して男の子の気をひこうということじゃない。じゃないんだけど、男の子は私の脚を見る。見られて満更でもないってのは否定しません。


 内藤くんは私の顔を見てニコッとした。「小森さん、かなり学科がダブってるよね?また、ノート見せてね」と言う。おいおい、自分でノート取れ!授業を聞け!内藤くんは1年次も私のノートを生協で全部コピーしたのだ。ダメなやつ。女の子ばっかり追いかけていて、勉強しないんだから。


 授業中、私がノートを取っているのを彼は興味なさそうに見ているふりをして、私のスカートと脚を覗いているのはお見通し。見られて減るもんじゃなし、別にいいけど。でも、私だけじゃない、どんな女の子の脚とか胸とか顔も物欲しそうに見るんだ。私だけだったら好意も持てるけど、誰彼構わずじゃあ、内藤くん、そりゃ、ダメだよ。だから、彼はパスなのだ。

ヒメと明彦 第2章、ヒメと明彦 Ⅶ に続く。