フランク・ロイドのブログ

フランク・ロイドの徒然

ヒメと明彦 第5章、ヒメと明彦 XVII

ヒメと明彦 第5章
ヒメと明彦 XVII

登場人物

宮部明彦    :理系大学物理学科の1年生、横浜出身
仲里美姫    :明彦の高校同期の妹、横浜の女子校の3年生
高橋良子    :美姫の高校の同級生
生田さん    :明彦のアパートの大家、布団屋さん
山屋良平    :明彦のアパートの近所の酒屋の息子


小森雅子    :理系大学化学科の学生、美術部。京都出身、
         実家は和紙問屋、明彦の別れた恋人
吉田万里子   :理系大学化学科の1年生、雅子の後輩、美術部


内藤くん    :雅子の同期、美術部、万里子のBF
田中美佐子   :外資系サラリーマンの妻。哲学科出身


加藤恵美    :明彦の大学の近くの文系学生、心理学科専攻
杉田真理子   :明彦の大学の近くの文系学生、哲学専攻


森絵美     :文系大学心理学科の学生
島津洋子    :新潟出身の弁護士


清美      :明彦と同じ理系大学化学科の学生、美術部

 1976年4月10日(土)
 ●Miki Nakazato Ⅳ

 その後、良子は何事もなかったように、ご飯を食べた。私と二人で後片付け。それでも、まだ良子は呑む。角瓶が1本なくなりそうだ。良子、もうウイスキー、なくなっちゃうよ、と言うと、じゃあ、山屋酒店の良平くんに配達をお願いしよう!という。明彦さん、電話貸してねと返事も聞かずに山屋酒店の領収書を見て電話してしまう。私は明彦と顔を見合わせた。言い出すと聞かないよ、絶対に。うん、そう思う。


 彼女は、酔っているけど挙措動作はしっかりしている。頭脳が酩酊しているだけなのだ。さっさと電話してます。あ~あ。


「もしもし、山屋酒店さんですか?あ!良平くん?私、宮部良子よ。あのねえ、呑兵衛の兄が角瓶呑んじゃったのよぉ・・・うん、私もちょっとだけどね・・・へへへ、それで、今度はだるま、ある?ワインなんかもある?・・・それがお勧めね?それで良いです。あれぇ?コルクスクリューがないかな?え?おまけで持ってきてくれるの?悪いわぁ~。おいくら?お釣りがないように用意しとく」ガチャ。


 今日はじめてここに来て、既に手下を持つ高橋良子。私には絶対に無理です!魔女の一端を覗き見た明彦が唖然としている。


 10分くらいしか経ってないのに良平さんがもう来た。ちょっと息を切らしている。そう言えば、良平の『良』は良子さんの『良』なんですね?とか、わけのわからないことを言って、これ、ご注文の品です、コークスクリュー、中に入ってます。あ!お兄さんですか!山屋酒店の良平です、ご贔屓にお願いします、お代ちょうど頂きました!まいどありがとうございます!と立板に水でまくし立てて去っていった。あ~あ、また、良子の被害者が一人。


 あ!良子のママに電話するの忘れてたじゃない。良子にリマインドした。明彦さん、また電話、お借りしますと言うと自宅に電話。


「ママ?良子です。ええ、ええ、予備校の申請は終わったわ。予備校で美姫ちゃんに会ったのよ。それで、美姫ちゃんと一緒の友だちのお家でご馳走になってね、泊まっていけばって、美姫ちゃんも友だちも言う。お泊りしてもよろしいかしら?え?着替え?美姫ちゃんの友だちのを借りるから大丈夫。お金?持ってます。ちょっと美姫ちゃんに代わるわね」と受話器を私に差し出す。


「どうも。ご無沙汰してます。ええ、今日、偶然良子に会いまして。そうなんですよ、話が尽きなくって。明日、日曜日でしょ?だから、お泊りしても大丈夫かな?って。ええ、友だちのも私の替えの下着もあるから大丈夫です。良子とサイズ一緒ですもの。友だち?迷惑だなんて、ぜんぜん。仲の良い友だちですもの。良子と代わりますか?ハハハ、じゃあ、失礼いたします。今度遊びにお伺いします。ではでは」


「よし、アリバイ工作、終了!」と良子。
「ぼくはヒメの『仲の良い友だち』なんだね。良子さんのママは女友達と思ってるよね?」
「狐と狸の化かし合いです。ママだって、昔は同じようなことをしたと思うわ」と良子。
「ぼくに娘ができた時にこのことは覚えておこう。女の子は、スラスラと呼吸をするようにウソがつけるってね」


「え?明彦?何?娘?だれとの?私でしょう?作る?今晩、娘、作る?いいわよ。コンドームなしで。たぶん、妊娠できちゃう日だよ」と私。
「ヒメ、そういう話題、ダメ。今晩、良子さんはここに泊まるんだよ。まったく、考えたことをそのまま口にするんだからな」
「あら、二人の子作りなら、見学させて」と良子。「それか・・・美姫とのついでで良いから、私にも赤ちゃんくれたらいいな。愛はなくてもいいから」


「良子!わかった!明彦の貞操を守るために、戦後の米軍兵士から日本の婦女子を守る性の防波堤みたいに私がなる!良子!抱くなら、私を抱きなさい!」
「ヒメは変なことを知ってるね。戦後史を知らないと『性の防波堤』なんて言葉はでないよ。エライ!やっぱり、史学科に行こうね」
「エラい?明彦に褒められちゃったよ。よぉし、美姫は勉強して史学科に行く!」


 良子が体を二つに折り曲げゲラゲラ笑いだした。「ああ、おかしい。私、美姫と明彦さんと一緒にいるのスキ、大好き。ここにいるのも好き。ここに居候しちゃおうかしら?」


「ダメです!同棲じゃなく、居候もダメです!ここに出入りする女の子は私一人!」
「冗談よ・・・半分・・・あのね、私、良い子の良子でしょ?それと悪い子の悪子でもあるでしょ?でも、正体は灰色の灰子なのよね。ほとんどの人は、良い子の良子か悪い子の悪子しか知らない。灰色の灰子の両方を知っているのは美姫だけだった。美姫以外は演技よね。でも、明彦さんも灰色の灰子を知ったし、自分が演技しないで自然にいられるのは二人の間だけ。だから、二人が好きです」


「良子のような優等生で品行方正でお嬢さんで、それとビッチも演技なの?」
「そうじゃない?美姫のような自然体じゃないもの。座る時だって、良子の時は、優雅に横座りして、スカートを直して座る。喋り方も変えてる。良平くんを利用するように女の武器も使う。そんな演技をもう無意識でしちゃってるわ。悪い子の時は、悪ぶって男を利用する。それだって、演技してる。でも、美姫の前では自然に振る舞えるし、明彦さんの前でもそうできると思う。疲れないのよ。人生が素のまま楽しめるの」
「ふ~ん、優等生で品行方正なお嬢さんで、ビッチって、私の知らない苦労をしてるんだね」
「美姫、ビッチは止めて!ビッチは!」
「だって、ビッチでしょ?私なんか明彦しか経験してないのよ。あなたなんて、二桁でしょう?男の子二人としたんでしょ?」


「・・・まあそうだわね。ねえ、明彦さん、こういう汚れた女はお嫌い?」
「ぼくにフルなよ、良子さん!」
「清楚そうに見えてビッチな汚れた女って、味わい深いのよ、明彦さん」
「ぼくは、天然ボケのヒメで手一杯です」
「冷たいわね?まあ、じっくり、私の魅力をわからせてあげる」
「ヒメ!なんとかしてくれ!」


 こののんべの女は、赤ワインをキュッキュと開けて、自分のグラスにも明彦のにも私のにもドボドボつぐ。これは、今、良い子の良子モードじゃない、灰色の灰子モードなんだろうね。良子モードの時は横座りでピッタリ脚をくっつけて、スカートの裾もバッチリだったけど、灰子モードは、横座りでも脚をくずしてる。


 黒のパンティー見えてるよ。灰子モードは気にしないのだね?同じ下着が見えるんでも、私なんか、小6の時からパンツ見えてるぞ、と明彦に注意されてた。それも、去年の夏までは綿のパンツで、あまりに色気ないので、明彦が大人のパンツを買ってくれた。私の下着は呼び名も『パンツ』だ。良子のは『パンツ』じゃない。『パンティー』なのだ。情けないね?今度、良子と下着を買いに行こう!大人にならねば!


 瞬く間にワインが空いた。お次はウイスキーのだるま。明彦が残っていた氷を金槌で砕く。こんど、アイスピックを家から持ってこよう。金槌ってちょっと情けない。良子がオンザロックを作る。シングルとかそういうレベルではない。フォーフィンガー以上ウイスキーを注ぐのだ。良い子の良子ならチビチビ呑むだろ。灰子はグビッとあおる。


 さんざん、おつまみを食べて飲んで、高校の時のことを喋った。明彦は面白そうに聞いている。アッという間に11時を過ぎてしまう。


 さて、寝ましょ、ということで、お布団を敷いた。客用のお布団などない。あっても、この狭い部屋で3組のお布団を敷くスペースなどない。枕が二つ。明彦が座布団を二つ折りにして、ぼくはこれでいい、枕はキミたちで使ってという。良子が彼の青いカバーの枕を強奪した。これ、私の!青だから明彦のだよね?と言う。酔っ払って、途中から『さん』が抜けて呼び捨てだ。馴れ馴れしいんだよ!


「う~ん、男子の匂い!私のファンデと香水の匂いもブレンドしちゃおう!」と彼の枕を顔にスリスリする。こ、この子は!私がパジャマは?と聞くと、普段使わない、お家では下着も履かない、裸で寝るの、でも、さすがに裸はいけないから、ブラとパンツだけで良い、と言う。


 さっさと、ヒラヒラした白いブラウス、ワンピのミニ、黒のストッキングをお布団の上で脱ぎだす。せめてお布団の中でお嬢らしく脱ぎなよ!明彦がそっぽを向いて見ないようにしている。上下おそろいの私なら買わないような薄い生地の下着で透けてる!明彦!見るんじゃない!目の毒だ!


「なんで私が隅で寝るの?真ん中が良い!」と駄々をこねる。あなたを真ん中なんかに寝かせたらなにか起きるでしょう?「お布団の真ん中はね、境界線の継ぎ目だから、寝にくいでしょ?だから、美姫が真ん中。明彦寄りに寝るから、良子は広々お布団が使えるよ!」と言う。「私が明彦に抱きついて、美姫が広々とお布団を使えばいいじゃない?」とさらに言う。あぶねえヤツだ。


「良いわよぉ~。私ね、寝ちゃうとちょっとやそっとで起きないから、明彦と美姫はいつも通りにしていいのよぉ~」と魔女が言う。嘘つけ!修学旅行でも私が彼女の家にお泊りする時でも、物音がするとパッチリ目を開けるじゃないか!第一、特売のコンドームの箱は、ビニールのタンスの中に放り込んだままだよ。


 明彦が蛍光灯の照明を消して豆電球だけにした。部屋が暗くなり淫靡な雰囲気になる。消さなくてもよかったのに。「この状態でぼくは眠れるのだろうか?」とブツブツ言って、お布団に入って諦めて仰向けになった。私はそこに添い寝の形でしがみつく。良子が私の背後にしがみつく。


「良子、向こうに行って!」
「イヤ!美姫のムチムチした体を抱き枕代わりにすると良く眠れるような気がする」


 抱き枕なら私の上半身を抱くでしょ?あなたはなぜ私の下半身をスリスリするわけ?太腿をスリスリ、なぜする!こ、こいつ、下着だけでほとんど裸だから体温が直に感じる!修学旅行じゃないんだから止めて!私の首筋に寝息をあてるんじゃない!鼻息あらいんだよ、良子!首筋に偶然唇があたっちゃったの、という演技はやめろ!ああ、ダメ、感じる。


 明彦のあそこがムクムクしだす。そりゃ、そうだよね?この状況でムクムクしないとインポだよ。私だってあそこがジュンとしだした。魔女は腰を私のお尻にすりつける。お布団の中でなにしてるんだ!


 私がいけないんだよね?私が『この三人でエッチしちゃうの!』なんて言うから、三人ともそのイメージが脳を駆け巡っているんだよね?おまけに角瓶1本とだるま半分飲んでいるんだから、脳がアルコール漬け。倫理感が飛ぶでしょ?いや、素面であってもこの女ならする!明彦は、仰向けで首の後ろに両手を回してマハトマ・ガンジー様よろしく耐えてる。私は魔女に抱きつかれて耐えられない。


「女子校の修学旅行ってどうなんだろう?」と明彦。今、修学旅行状態だものねえ。共学の・・・
「フェリスの子が言ってた。修学旅行で、北海道の層雲峡のホテル、たまたま、明彦の学校と一緒だったって」
「あの時は、ヒメの兄貴のグループがフェリスの入浴時間を調べて、女湯を覗こうとして体育教師に厳しく制裁されたんだ」
「え?お兄ちゃんが?」
「女湯と男湯の壁の隙間から覗けたそうで、みんなタオルがせり上がっている現場を現行犯逮捕されたようだよ」
「あのドスケベ!明彦は捕まってないんでしょうね?」
「ぼくは呆れて見てた。そりゃ、壁際に並んで覗きの順番待ちすれば捕まるだろ?」
「ま、男子校生徒としては正常な行動だね」


「女子校は男子校と違って、そんなことはないだろ?」
「キミは知らない!女子校の真実を!女生徒8人部屋で、消灯時間の後、十数分後には3組のお布団から布団の擦れる衣擦れの音とため息が聞こえてくるのよ」
「その3組の中のひと組が私と美姫だったわね」と良子が話に割り込んでくる。こら!太腿から手を上に擦り上げるんじゃない!
「やれやれ」
「フフフ、もう二人共我慢するのを諦めたら?何も明彦を美姫から取っちゃおうということじゃないもん。ちょっと二人のおすそ分けが欲しいだけ・・・」首にちゅ~するな!
「明彦!どうにかしてよ!私の背中に背の高い発情した美少女がしがみついて、体をまさぐっているんですからね!」
「ぼくは耐えてる」


 え~、本当?と私の体の上を明彦の方に発情女が手を延ばそうとしたから、手を握って押し戻した。

ヒメと明彦 第5章、ヒメと明彦 XVII に続く。