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A piece of rum raisin - 単品集、ヒメと明彦 Ⅳ

A piece of rum raisin - 単品集、ヒメと明彦 Ⅰ
A piece of rum raisin - 単品集、ヒメと明彦 Ⅱ
A piece of rum raisin - 単品集、ヒメと明彦 Ⅲ

ヒメと明彦 Ⅳ

 1976年3月19日(金)
 ●部屋探し

 1976年のアパートの賃貸価格は、21世紀の平米当たり8.8万円の約4割だった。1Kの専有面積は15~20平米(https://homes.jp/3jST8aJ)。
ガベージニュース、60年あまりにわたる民間・公営賃貸住宅の家賃推移(最新)

 洋室が良いが和室でも構わなかった。トイレ・お風呂は必須。狭くても大学の近くが良かった。相場は4万円程度。21世紀の相場では9万円ぐらいだろう。敷金は家賃の1~2ヶ月分、礼金は家賃の1~2ヶ月分。とりあえず16万円は必要。20万円mこれはバイト代から返金します、ということで親から借りた。


 多少の貯金(お年玉だ)があったので、布団とちゃぶ台、食器ぐらいは買える。家具はバイト代が貯まったら徐々に揃えていこうと思った。


 ぼくの高校の卒業式が2月下旬で、大学の入学式が1976年4月9日(金)だった。その間にちょくちょく東京に出て、不動産屋を回った。高校3年生になるヒメも春休みになっていて、ぼくが東京に出て部屋探しをする時にはだいたいついてきた。「私だって住むんだから、私の気に入る部屋じゃなきゃダメ!」という。え~、一緒に住むの?キミのパパとママに外泊許可をとらないといけないじゃないか?「そうです!早くパパとママに言って下さい!」と迫られる。気が重い。


「それにね、大学の側をウロウロしていると、あのスケッチブックの女、Masako Komori に出会うかもしれないから監視していないと!」とまだぼくの手袋を拾ってくれた女性を気にしている。見ず知らずの女性に敵愾心を見せるなよ!


 ヒメは最寄り駅でも注文をつける。四谷はダメ!絶対ダメ!どうして?だって、あそこは仇敵東京雙葉の近くよ!横浜雙葉だってムカつくんだから、ダメ!神保町もダメ!私の姉妹校がある!いや、神保町なんて大学から離れているんで住みません!渋谷もダメよ!明彦のガッコの生徒が好きな実践女子学園があるんだから!高田馬場もダメ!学習院がある!


「ヒメ、ぼくの大学は物理科なんてひとクラスに女子は数名以下だけど、外堀の向こうには法政大学があるんだよ。それに本部校舎から四谷の方に行くとぼくの大学の薬学部もある。大学の近くだって、ヒメの言う『ダメ!』になるじゃないか?」
「だから、明彦が一人暮らしなんて私イヤなのよ!いっそのこと、私の部屋に住めば良い!」


「何を言ってんのかなあ」ぼくらは大学の近くのルノアールでコーヒーを飲みながらアパート・マンション情報を二人で見ていたのだ。「あ!少し高いけど、ヒメ、千駄ヶ谷はどうだろう?」
「千駄ヶ谷?」二人共東京の地理には疎いのだ。雑誌の路線図をヒメが見る。「飯田橋からだと・・・市ヶ谷、四谷(ムカッ!)、信濃町、それで千駄ヶ谷?国立競技場があるんだ。近くに女子校は・・・ない?え?最寄りには國學院?男子校ね!許します!」


「ヒメ、その最寄駅の女子校の有無という選択の判断基準、止めてくれない?女子校があったって、ぼくが女子高生の誘惑にひっかかるわけじゃないんだから」
「私にはひっかかりました!」
「あのね、キミはぼくの同期の妹。たまたま近くの女子校に入学しただけ。第一、ぼくの高校の次の駅、キミの家の駅って、日本で一番女子校生徒が集まる駅じゃないか?」
「あら、そうね・・・って、明彦は雙葉の女の子と付き合ってたじゃない!ムカつく!私に隠れて会ってないでしょうね?」
「会ってません。音信不通です!なんで女子校はダメなんだろ?」
「それはですね、共学の女子生徒の4倍、男に飢えているからです!性欲も4倍!」
「ヒメ、それはキミのことだろう?みんながみんな4倍の性欲を持ってないよ」
「まあ、千駄ヶ谷にしよ!千駄ヶ谷!」

ヒメと明彦 Ⅳ に続く。

 1976年3月22日(月)
 ●引っ越し

 借りた部屋に3度行って、布団、家具、食器、電気用品、雑用品を買い揃えた。区役所に行って住民票を移した。電気水道ガスのメーター確認なんかをした。電話も契約した。ハゲタカのように新聞とNHKが来たので、新聞は断り、NHKは仕方なく契約した。もちろん、ヒメは一緒。


 大家さんのお店で布団を買った。「枕、2つだよ!」とヒメが言う。ハイハイ。「お布団は一組でいいのに」


「あのね、キミを妹と大家さんには言ってあるし、第一、布団一組でキミの寝相だとぼくは死ぬ」と答えた。「・・・寝相・・・それはごもっともです。美姫は一言もありません」と言う。抱きつかれたり蹴られたりしたらぼくは睡眠不足になってしまう。


 引っ越しの準備はできたが、ヒメが3月22日、月曜日が大安だから、引っ越しはこの日よ!と意外と古風なことを言うので、引っ越しは月曜日にした。


 実は、ヒメの家には昨日の日曜日にお邪魔したのだ。仲里は茨城県の大学に進学して寮に入るので仲里家で送別会に呼ばれた。ヒメとの付き合いは去年報告しておいた。別段、パパ、ママからの文句もなかった。ぼくの高校のブランドだから、安心安全というわけだ。


 それで、ぼくも一人暮らしします、とヒメの両親に報告した。あの、その、たまに美姫がぼくの部屋に外泊するかもしれませんが?と言うと、ママが、


「あら?同棲するの?妊娠だけは気をつけてね」と呑気なことを言う。ヒメがニタっとした。
「何を言われます。彼女、高校3年生ですよ?おまけにアパートは千駄ヶ谷ですよ?たまに、ぼくの部屋に外泊するだけです」とぼくの部屋の住所や電話番号を教えた。へぇ~、バイトで家賃、生活費を賄うの、偉いわね、とママ。
「なんだ、結婚してくれたら、ワガママ娘の厄介払いができるのに」とパパも変なことを言う。ますますヒメがニタっとする。やれやれ。
「まあまあ、外泊くらいかまわないのよ。ちょうどいいわ。明彦くん、美姫の勉強も見てやってね。3年生になるんだから、赤点ギリギリなんて勘弁して欲しい」と言う。ヒメは今度はいやな顔をした。
「明彦も大変だよなあ。このワガママ娘のお守りをするなんて。もっと良い子がいただろう?」と仲里が言った。ヒメがヤツの肩を思い切りぶった。


 やれやれ。

ヒメと明彦 Ⅳ に続く。